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私、スライム娘になります!  作者: 日高 うみどり
第3章 緑の頸木座の神殿

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3B-10話 ジャン・コーディの名聞

「それで、ソレーヌ君、容疑者は絞り込めたのかい?」

 ジェイクが私にそう聞く。

 

「いえ、これと言って特には……」

 私は答える。

 私は今日、カウンターを訪れた冒険者達に、ゴブリンが出た日のアリバイを聞いていた。

 


「しかし、ルーナ君達にも聞くんだな。君は彼女達を一番信頼していると思っていたんだが」

 

「信頼しているからこそ、ですわ。

 信頼しているからこそ、真っ先に疑いを晴らすべきだと思いまして」


「……そりゃ、申し訳なかったね。

 いや僕も、彼女達を疑っていたわけでは無いんだが……」


 ジェイクは飄々と答える。


「しかしだ、ソレーヌ君。

 結局今日聞いた全員が『アリバイあり』という事になるね」


「そう、ですわね……」




 その日の夕方。

 普段はそんなに会議などしないのだが、今週は毎日会議している。

 今日休みのマリナを除く私達3人は、いつもの会議室に入り、今日の成果をすり合わせる。


 

「先週と先々週のアリバイ調査結果かい?」

 ジェイクがそう聞いてきた。私は頷く。



 今日ギルドを訪れた冒険者達に、ソレーヌは金曜日のアリバイを確認した。

 訪れた冒険者は全体の3分の1程度だったが、怪訝な顔をしながらも、きちんと答えてくれた。

 

 アリバイを聞いた日は、先週と先々週に絞って聞いた。

 それ以前はさすがに記憶があいまいになるだろうと思ったからだ。

 先週はついこの前。先々週は『蒼の巨人騒動』という、印象深い事があった直後。皆の記憶に残っているはずだと思った。




 私は結果を報告する。


 まず、ルーナ組はシロだ。

 メルティ達がゴブリンに襲われていた時間帯、彼女達はギルドの酒場にいた。

 時間的に、彼女たちの誰かがゴブリンに変身するのは無理だった。


 『採取地のモンスターの生態調査』の他5カ所に参加してくれたパーティー。

 『赤い蛇』『ベンズチーム』『銅の硬貨』『アリソン三兄妹』『ジーナ組』

 こちらも全員、アリバイありだ。


 

 昨日のゴブリン集落作戦部隊も、確認が取れた。

 

 『フォスト組』は自分がガードする村をパトロールしていた。

 ザガロは、例によってその辺の酒場で飲んだくれていたようだ。

 

 最近こちらに来たばかりの僧侶シフも、アリバイがある。

 今日ギルドに来た商人にそれとなく聞いてみたところ、裏が取れた。

 先週金曜日に街で買い物をする、彼と奥さんを見かけたそうだ。休業中の奥さんと合わせて彼もシロだ。

 

 シィナは、先々週はアリバイと呼べるものは無しだったが、先週はジェイクの証言で明らかになった。彼の引越しの手伝いをしていたと。記録上でも、第9地区の街にいたと確認が取れた。


 今回、ゴブリン関係のクエストに参加してくれた全てのメンバーに、裏切り者はいなさそうだ。




 その他、ゴブリン関係にかかわっていない冒険者も、アリバイは確認できた。

 『青きフロルの風』『アビーチーム』『リボン組』『サリアス村連合』などなど……。


 一部、アリバイが不確定な事もあったが、その都度ロア君が補足してくれた。

 彼は資料室で、クエストの記録を調べ、彼なりにアリバイを調べてくれていた。

 

 さらに主に長期出張などで今日窓口に現れなかった冒険者も、彼は補足してくれた。


「Aクラスのアイーシャさんの門下生……つまりミリィさんと同じ道場の皆さんは、その日冒険に出ているか、道場で彼女の稽古を受けていました。全員アリバイありです。

 戦士ギルドの遠征に参加している冒険者9名も、位置的に除外していいかと思います。

 魔導士ギルド内にいた8名も確認が取れました。さらに……」


 ロア君が、どんどん容疑者たちを減らしていく。

 

「……そのほか、個人で活動している、戦士アダン、レンジャーのマリータ、僧侶ファルマ、弓使いティニー、そして王都から来た剣士レダ氏など……御覧の13名のアリバイも確定できました」




「今日調査できなかったのも、何人かいるようだが」

 ロア君の報告を聞き終えたジェイクが問う。


 今日聞き取れず、ロア君の調査でも明らかになっていない冒険者は、残り12名。

 

「……この中にいるって事なんですか……?」

 ロア君が問う。


「そう……かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 私は、曖昧に答えるしか無かった。

 皆、こう言う犯罪には、縁のなさそうな人達ばかりだった……。



「まあ、12人くらいなら、何とか監視できるかもしれないね」

 ジェイクがそう締めくくった。

 

 

 果たして『容疑者』は、見つかるのか。

 犯人さえ確定してしまえば、恐らく金曜日の襲撃は、未然に防げるだろう。

 頭さえ押させてしまえば、そいつに指揮されるはずのゴブリン実行部隊も、動くことは出来なくなるだろう。

 そのはずだ。

 そのはずなのだが……。




「ま、気分を切り替えて、もうひとつの議題のほうに入ろうじゃないか」

 

 ジェイクがそう音頭を取り、今度は街の地図を広げる。


 ゴブリンが誰かが分からない以上、その人物を逮捕して未然に防ぐということは出来ない。

 なので、いざゴブリンが街中に現れた時のために、対策を練っておくべきだ。


 まずは、ロア君が発言する。

「憲兵隊のコーディさんより連絡がありました。

 金曜日の市中の警備兵を、いつもより増員してくれるとの事です」


 私からコーディ君に頼んでおいた事を、彼は了承してくれたようだ。

 後で礼を言わねばならない。


「よく賛同してくれたねえ」

 ジェイクが驚いたように語る。


「実際、憲兵隊側のほうでも意見が分かれていたそうです。実際にゴブリンが市中に現れるのかどうか……。

 しかし、今度の週末に行われる『返魂祭』の存在が決め手になったようです」


「返魂祭?」

 ジェイクが質問する。それにロア君は答える。


 『返魂祭』は、この辺りで毎年10月末に開かれているお祭りだ。

 祭りと言ってもそう大した規模のものでは無く、市民だけの、言わば身内だけのお祭りだ。

 毎年この時期に、あの世に旅立った先祖の霊が帰ってくる、と伝えられている。

 それを迎えるために、人の形にくりぬいたカボチャを飾る、というイベントだ。


「返魂祭は基本的には市民だけのイベントなのですが、毎年その直前は、カボチャや仮装用の衣装などを売るために、商人や農家が街にたくさん訪れるんです。

 ただ、今年は先週末、ゴブリンの目撃騒動がありましたので、それを不安に思っている人も多いみたいです。

 それで憲兵隊が、街中のパトロールに同意してくれた、というわけです」


「なるほど……グッドタイミングだったという訳か」

 

「憲兵隊なら、パトロール班でも、冒険者のDからCクラスの戦力はあります。

 いざ実際にゴブリンが市中に登場しても、対処できるだけの戦力です。

 また、昨日の我々の会議で上がった、スライムの主な出現場所のデータも、憲兵隊と共有いたしました。

 さらに、街の外の隠し通路などの情報も、監視部隊を増員して警戒に当たってくれるとの事です」


「ほほう……さすがだねぇ彼は」

 ロア君の報告を聞いたジェイクがそう感心している。

 

「ギルマス、コーディさんの事を知ってるんですか?」

 ロア君がジェイクに聞いた。

 

「ん? あ、ああ、まあね。

 向こうにいた時も、彼の名前は何度か聞いたことがあってね。

 結構優秀な憲兵だそうじゃないか」


 ジェイクがそう答えた。

 え、そうなの? 私にはあまり優秀っぽくは見えない男なんだけど……ま、いっか。



「まあともかく、憲兵隊がここまで動いてくれるとなると……

 市中に関しては、全て憲兵隊に任せちゃっても大丈夫なのかな?」


「そうだとは思いますが……」

 ジェイクの楽観に、ロア君が口ごもる。


 まあ実際、人数を割いてくれると言っても、どこにどれだけ割いてくれるかは分からない。

 憲兵隊だってそこまで大人数という訳では無いのだ。

 

「私達、ギルドのほうからも人員を出しましょう。

 クエストを出して、市中を警戒させましょう」


 私は、そう提案する。


「確かに……その方がいいですね」

 ロア君が同意する。ジェイクも否定しない。


「では……また『セルニ』の名前で出しますか?」

 

 ロア君の言葉を、私は否定した。


「いいえ……私が、私の名前で出します」


「え、ソレーヌさんの名前で? でもそれは……」


「いいえ、そうさせて?」



 『セルニ』の名前は、何も正体を隠して出すわけでは無い。

 その依頼報酬は、冒険者ギルドの予算から出してもいいと、本部から告げられている。

 しかし、それを使わず、自分の名前で出すという事は、その予算を使えないという事だ。


「しかし、どうしてそこまで……」


「セルニの名前は、もう何度も出してしまっているわ。

 これ以上使いすぎると、本部や他所から物言いが来るかもしれない。

 いざという時、待ったをかけられるかもしれない。邪魔されたくないの」


 私はロア君にそう告げた。


 それに……もう、隠し事はしたくは無かった。

 セルニとして偽名を使い、正体を隠したまま、ルーナチーム達協力者に参加してもらった。

 にもかかわらず、私はその人達を、一度でも疑ってしまった。そうせざるを得なかったとはいえ。


「……だからかな。なんだかスッキリしないの。

 このままセルニの名前で、隠し事をしながら協力してもらうのって、なんだか嫌なのよ」


「ソレーヌさん……」

 ロア君が私の名を呼ぶ。


 その様子を静かに見つめていたのは、ジェイク。

「……なるほど、ね」

 

 ジェイクはそうつぶやき、話し始めた。


「僕も少し出したい、と言いたいところだけど、少し前まで無職だったので申し訳ない。

 ただ、僕の知り合いに声をかけてみるさ。

 シィナ君の他にも、まあ何人かいるからね。多少の戦力にはなると思うよ」


 

「あ、ありがとう……ございます……」


 なんだか意外だった。この男がそんな事を言ってくれるとは……。


「さ、そうと決まれは今日はこの辺で切り上げよう。

 本番は明後日だ。休めるときに休んで、来る日に備えようじゃないか」




 もうそろそろ、ギルドを閉めようかと思っていた頃。


「すみません、今戻りました!」

 マリナが帰ってきた。


 私はどうして、休みを取っていたはずのマリナが帰ってきたのか尋ねる。

 マリナは答えた。以前、第2地区でお世話になった、ミゲル・グラスロードに会いに行っていたそうだ。



 

「なるほど、取引か……」


「はい。以前第2支部のほうにいたゴブリン集落でスライムが集められていたのは、そういう理由なんじゃないかって」


「たしかに、そう言われてみると……」

 私は昨日のシィナの報告書を読んでみる。

 

「これは『契約書』、あるいは『指示書』かもしれないね」

 ジェイクも私のと同じ意見のようだ。


「誰かが、何かのために、スライムに関する書類を作った……

 スライムを集めて、何かをするために……」

 勘でしか無いが、なんとなくそう思う。


「ジョブマニュアルを持った人が、その紙でボスゴブリンに指示を出したって事ですか?」

 ロア君が問う。


「違う……と思います。ジョブマニュアルを持った人間なら、契約書が無くてもボスゴブリンに命じることが出来るはずです。

 ミゲルさんの推測が正しいなら、集落のトップは、本を持った人間ですから」

 マリナが反論する。


「まあ確かに、文字の習慣が無い相手に文字で契約するってのは、違う気がするな」

 ジェイクがマリナに同意する。


「でも、ボスゴブリンでは無いとしたら……」

「……第三者、だろうね」

 ロア君の疑問に、ジェイクが答える。


「第三者? 第三者とは、いったい……」

「……まあ、『黒幕』かな」


「黒幕……?」

 私はジェイクに問う。


「……私も、そうだと思います」

 マリナがジェイクに同意する。そして自分の推論を述べる。

 

「集落のゴブリンが、スライムを集めて何かするとは思えません。何かの役に立つとは思えません。

 『ジョブマニュアル持ち』の人間も、スライムで何ができるのか、それが思い浮かびません。

 でも、第三者だったら……。

 『ジョブマニュアル持ち』の人間は、その第三者に渡すため、あるいは売るために、スライムを集めていたとしたら……」


「この『契約書』は、『ジョブマニュアル持ち』が『第三者』に売り渡すための契約書だって事か」

 マリナの推論を補強するかのように、ジェイクがそう答える。



 確かにそう考えると、全ての疑問が1本に繋がる気がする。

 ゴブリン、もしくは大多数の人間にとって、スライムは集めて意味があるものでは無い。

 だがしかし人間の世界では、かつて、ある瞬間だけ価値のある物になった事がある。

 数年前、ルーナ達の世代が新人だった頃。

 あの頃は、スライムの体液を加工して作られた『防水布』というものが流行していた。

 防水布の材料とするため、スライムの体液が多数必要となった。

 あの頃だけは、確かにスライムはとてつもなく価値のある物だった。



「……つまり、あの『防水布』の頃の騒動のように、誰かが何かを作るために、スライムをたくさん集めている……?」

 私は、推論を述べる。


「そうかもしれないね。

 まあ、どう考えてもそいつは堅気の奴じゃあないが。

 何かの犯罪か、あるいは公には出来ない実験か何かに使うつもりなんじゃないかな?」

 ジェイクが私の推論を受けてそう語る。



「かつての第2地区側のゴブリン集落でも、たぶん似たようなことがあったんだと思います。

 第三者が間に入って、何らかの利益をもたらしたことによって、集落紛争の危機が回避されたんだと思います。

 『ジョブマニュアル持ち』がそちらにいたのかまでは分かりませんが……多分いなかったかもですが……

 少なくとも、『第三者』は関与していたんじゃないかなと思います。

 昔の第2地区の方でも、そして今回も……」


 マリナの言葉は、推測に過ぎない。

 しかし、無視できない説得力がある。



 最低でも、『ゴブリン』のほかにもう1人、『第三者』がいる。

 その第三者が、今回の事件の『黒幕』だ。


 仮に黒幕が確かにいたとしても、私達一介のギルド職員がその人物までにたどり着くことは、しばらく先の話だろう……。

 とはいえ、謎の多かった今回の事態が、これで1本の糸に繋がった。

 それだけでも、私達の迷いは消えた。

 後は、その事態に備えるだけ……。

 



「そういえば、今日の会議はどうなりましたか……?」


 マリナもそれが気になって戻ってきたのだろう。

 私は、今日の会議の結果をかいつまんで説明した。

 

「良かった……それじゃあつまり、少なくとも、ルーナさんや調査組の皆さんは、ゴブリンじゃないんですね……」

 報告を聞いて、マリナはほっとした表情になった。


 確かに、『全員信用できない』のと、『信用できる人がいる』のとでは、大きく違う。


「それに、憲兵隊の皆さんも街を守ってくれるんですね……」


 誰がゴブリンなのかは、まだ分からない。

 でも少なくとも、信用に足る人達で、団結して街を守ることは出来そうだ。




 金曜日は、もう明後日だ。

 明日は、その準備のための仕上げの日。


 ギルドの一介の職員である私にできる事は、おそらく明日が最後になるだろう……。






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