3Aー9話 ベースキャンプの魔法練習
トロッコレール沿いに進んだ私達は、北側入口のところまで到達する。
ここは廃坑なので、出入り口は木の板で封鎖されている。でもその脇に、人が1人だけ通れる小さな出入り口がある。
行きの時と同じく、そこから私達は洞窟から出る。
太陽は、もうすっかり傾きかけていた。秋も後半の太陽は沈むのが速い。
「あ、おかえり~~!」
私達が集会所へ戻ると、井戸で水汲みしていたマキノさんが挨拶してくれた。
第1グループはもう帰還していたらしい。
私達も挨拶を返し、集会所に入る。
集会所入口の広場で焚火を起こし、そこにお鍋をかけ、野菜が煮えるのを待ちながら、私達は今日の成果の話をした。
「もう地下2階の掃除まで終わったのか!」
ロランさんが、こちらの進捗状況に驚く。
「ま、こっちは魔物をぶっ倒しながら進めるからな。ロランのほうはどうだ?」
「こっちは、地下2階の半分までってところだな」
第1グループはロランさん、マキノさん、イサクさん、ミリィさんの4人。
攻撃力が突出した人が居ないので、どうしても戦闘に時間がかかってしまう。
ただ、索敵や警戒に優れるので、不要な敵と戦わないように回避しながら進めるので、危険性は薄いみたいだ。
「明日はお互い、地下3階まで終われそうだな」
今回の『魔鉱スラグの除去』は、西側、北側入口ともに、地下3階までが範囲となっている。
『第23番旧坑道』には、地下4階以深もあるが、スラグの除去はそこまでは行わない。
地下4階からはスラグのサイズもかなり大きくなるので、除去が難しくなる。
それに、あんまり掃除しすぎても駄目らしい。
スラグの魔力が完全に無くなってしまえば、深い場所にいた魔物が、別の場所の魔力を求めて地上に出てくる危険がある。わざと4階以降を残し、魔物をそこに引きこもらせたほうがいいらしい。
「レベルのほうはどうだ?」
「ああ、俺はシーフがレベル4、ミリィの踊り子がレベル3に上がった」
「こっちは俺がレベル6、ドロドロ女がレベル3だ。スキルは何か増えたか?」
「ああ。ミリィが覚えたんだっけ?」
ロランさんがミリィさんに話を振ると、こくんと頷いた後、話し始める。
「最初から持ってた、『受け流し』のほかに、『誘う踊り』を覚えられた」
「メルちーは『初級火炎魔法』を覚えたんだっけ?」
「あ、そうです!覚えました!」
「へええ。それじゃあ、メルティちゃんも攻撃役になれるかもしれないね」
ロランさんはそう喜んでくれたが、私を含め、第1グループのみんなは……ちょっと口を閉ざした。
「……あれ、何かあった?」
「あ、ああ。まあな……」
実際には、それ以外にも入手した毒攻撃で、既に結構まあまあな数の敵を倒していた。
でも、うん……なんだか、皆その事を話したがらない様子だ。
「そっか……それじゃあ、間に合いそうだな」
ロランさんがイルハスさんにそう話す。
「あの、間に合いそう……って、何の事ですか?」
「え?いや、まあ、こっちの話だ」
2人に聞いてみたけど、ロランさんにはぐらかされてしまった。
うーん、何の事だろう……。
「まあさ、食事が終わったら、魔法の使い方練習してみよーよ」
「そうですね!」
ターシャさんが改めてそう言ってくれた。
確かに、毒攻撃は、消費しきってしまえば使えなくなる。
それよりも、覚えれば常時使えるようになる魔法のほうが、今後は便利なはずだ。
「よーし、おっけー。スープ出来たよー。みんな食べよー」
お鍋の仕上げをしていたマキノさんの言葉で、食事を始める事になった。
キャンプ地の食事は鍋ひとつ。
今日は、マキノさんが作ってくれた、たっぷり野菜のスープだ。
それに加え、各自持ってきた携帯用のパンを取り出して食べる。
そのほか、お茶などを各自で入れて飲む。
私は『ぼく』の強い希望により、マキノさんからお茶の葉を譲ってもらって、グリーンティーをいただいた。
「あ、マキノさん、スープおいしいです!!」
私はマキノさんにそう言う。
「え、ほんと!?良かったー」
マキノさんは照れ臭そうに笑う。
うん、マキノさんの料理はおいしい。
フロッガーの毒もすごく美味しかったけど、こういう人の手が加わった料理は、それには無い幸せな感じが加わって、温かい気持ちになる。
おいしくマキノさんのスープを食べる私を見て、ターシャさんが、もの凄くほっとしている表情を見せた。なんで?
ごはんの後は水浴び。
男女分かれて、井戸の前で体を掃除する。
シャワーは無いので、水と布でみんな汚れを綺麗にする。
私は必要ないけど、とりあえずみんなと一緒に井戸の水を飲んだ。
ひえひえの井戸の水は私には美味しかったけど、皆はちょっと辛そうだった。
「よし、じゃあメルちーの魔法訓練、始めよっか!」
水浴びの後、広場の焚き火の前で、私の魔法訓練が始まった。
講師役のターシャさんの他、今日の見張り担当になった、イサクさんとミリィさんもとりあえず一緒に見てくれる。
「さーて、メルちーは、そもそもどのくらい魔法を使えるの?」
「えっと、生活魔法の……木の枝に火を灯すくらいならできます」
「あれ、それくらいなの?」
「あ、はい……。私、魔素を扱えるようになったのって、スライム娘になってからなんです。
ジョブ無しの頃は魔力が一切なくて……」
「ふーん、そうなんだ……でも、今は出来るんだよね」
ターシャさんが木の枝を渡してくれる。やってみて、という事だろう。
「じゃあ、やってみます……」
1週間とちょっと前、ビビアンさんとの修行の時にやったっきりの生活魔法。
上手くできるかな……と思っていたけど、ちゃんと出来た。
「お、いいね」
脇で見ていたイサクさんも声をかけてくれる。
「おっけー。じゃあ次は、木の枝無しでの種火作りね。それはやったことある?」
「あ、いえ。それはまだやったこと無いです……」
ビビアンさんとの修行では、あくまで『シリコン化』に使う魔素の扱いの過程だったので、本格的な種火作りまでは練習しなかった。
「さっきの木の枝は、枝に『フロジストン』のエーテルが含まれていたっしょ?
今度は、木の枝じゃなく、空気中の『フロジストン』を使う感じにするんよ。
だいたい分かる?」
「あ、はい、理屈ではなんとか……」
「おっけー。じゃあ、やってみよっか!」
言われた通り、やってみる。
「……うーん、上手くいかないです……」
「あれー……?」
ターシャさんが困り顔だ。
「ターシャは昔から出来たからな。人に教えるのは勝手が違うんだろ」
イサクさんがそう話す。……あれ、ターシャさんとイサクさんって昔からの知り合いなの?
「ちょっと待ってな……ほら、これ使ってみな」
イサクさんが、スラグ回収用のマジックパックから、少し赤っぽい石を取り出して、投げ渡してくれた。
「そっか、ここ、フロジストンも採れる鉱山でしたっけ……」
「木の枝と同じ感じで、その石に火をつけてみな。……こんな感じで」
イサクさんが自分の手のひらに赤い石を乗せ、それに火をつけて見せてくれた。
「むぅ。イサっち、アタシが教える係なのにー」
「まあいいだろ。講師が多い分には」
ターシャさんはちょっと不満気だが、まあイサクさんの言う通りだとは思っているらしく、それ以上は不満は言わなかった。
「……イサク、熱くないの?」
ミリィさんが聞いてくる。
「ん?ああ、まあ魔法の炎だしな。普通の火と違って、自分の魔法を直に触るくらいなら問題無いな。
魔力の質が同じだから、敵に向かって発射する前なら、自分自身はダメージを感じないんだ」
「なるほど……」
ミリィさんは納得したようだ。
なるほど、触れても問題無いのか。私も同じ疑問だったので納得した。
「じゃあ、やってみます……」
イサクさんと同じように、私も試してみる。
最初の数回は何も起こらなかったが……
ぼっ。
鉱石に、火が付いた。
「おおー。うまいじゃん」
ターシャさんが褒めてくれる。
「すごい、本当に触っても平気なんだ……」
ゼリーの手のひらの上で、火が燃えている。
私はやけどは多分しないけど、火の温度は感じている。でも、熱くて蒸発するほどではない。暖かいという程度だ。
「その石を上に放り投げてみな。こんな感じで」
イサクさんが、自分の持っている石を軽く上に投げ、落ちた石をそのまま手の平に落とす。それを繰り返す。
同じようにやってみる。
火は付いているとはいえ、これは簡単だ。
「いいね。
じゃあ次は……こうやって、石は残したまま、火だけを上に放り投げる感じだ。こうだ。出来るか?」
イサクさんがやってみる。
石は、手のひらの上に残っている。でも、火だけが、さっきと同じように上に飛んだり、手のひらの石のところに落ちたりする。
「え、えっと……」
同じように、やってみる。
でも、今度はなかなかうまくいかない。
石はずっと手のひらの上で、火は上に浮かばない。
「う、ううううん……」
「うーん、これでも上手くいかないか……」
イサクさんが考え込む。
するとミリィさんが、声を出す。
「メルティは、粘着ボール、出せる。それと同じように、してみたら……?」
「な、なるほど、粘着ボールと同じように……」
反対の手を使って、さっきの小石くらいの大きさの粘着ボールを作り、同じようにやってみる。
うん、これは魔力は関係ないので、普通に出来る。
何度かやってみる。そうすると気が付く。
最初は、人間の手と同じように、手を動かして、勢いを使ってボールを上に投げたりキャッチしていた。
でも、別に勢いを使わなくてもいい。
手のひらは動かさず、自分の手の粘液の射出だけで、ボールを上げることが出来る。
手のひらでゴムのように弾いて飛ばす。
手の動きは無いのでさほど高くは上がらないが、それだけでもある程度は飛ばせる。
……なるほど、じゃあもしかして……。
再びフロジストンの鉱石に火を付ける。
今度は、手を振らず、弾く力だけで、小石を飛ばす。
そしてさらに次に、石を残し、火だけを粘液を使って飛ばす感じで……。
ぼっ。
「わっ!?」
火だけが、上に飛び出した。予想よりちょっと高く。
「おおおー」
3人が驚く。
その動きを何度か練習する。
石を残し、火だけを上に、上に……うん、これなら出来る。
横でイサクさんが、ミリィさんに何やら耳打ちする。
するとミリィさんが、火が上に飛んだ隙を見て、私の手の上から小石をすり取った!
「ひゃっ!?」
「そのまま続けて!」
イサクさんに言われた通り、そのまま続ける。小石無しでも、火のお手玉が出来るようになっていた。
「うん。これで火は扱えるようになったな。あ、続けて」
「あ、はい……」
「じゃあそのまま、今度は着火剤無しで火を出し入れする練習だな。じゃあ、ターシャ」
「……ん?あ、そっか。おっけー」
イサクさんが教えられるのはここまでらしい。
この先は、実際に『初級火炎魔法』が使えるターシャさんの出番だ。
「えっと……そだね、まずそのまま火をぽんぽん投げながら、火を手のひらに乗っけるときに、ちょーっと弱くしてみよっか」
「え、えっと……」
やってみる。
火を弱くする……うーん、どうしよう。
「とりあえず、手のひらの上に来た時だけ、弱くなれーって、思ってみて」
「え、あ、はい」
弱くなれ、弱くなれ、弱くなれ……あ、なんとなく出来そう。
「お、良い感じじゃーん」
ターシャさんが褒めてくれる。どうやらできているようだ。
「じゃあ次は、火投げはゆっくりにしていいから、どんどん弱く弱くしていって」
気が付いたら、食事の片づけを終えたマキノさんが、遠くから静かにこっちを見ている。
今寝室に戻ってもマキノさん一人なので、こっちに来てくれているようだ。
でも、隠れて何かをつまみ食いしているようにも見える。
「うん、いいねいいね。いいチョーシだよ。
じゃあ、手に触れる瞬間、火の勢いを完全にゼロにしちゃおうか」
「は、はい……」
上に放り投げた火が、手のひらに落ちる瞬間、目に見えて小さくなる。
上に放り投げると火の勢いは戻り、そしてまた手のひらの上でとても小さくなる。
しばらく繰り返すと……火は完全に消えてしまった。
「あ……消えちゃいました」
「うん、それでいいっしょ。
じゃあ、もっかい火を放り投げてみて?」
「え、消えてますけど……」
「うん、ダイジョーブ。まあやってみて」
「は、はい……うわっ!?」
消えてなくなっていたはずの火が、放り投げると、復活して上に飛ぶ。
そして手のひらの上に乗っかると、再び消える。
「よっし、オッケー!
これで『初級火炎魔法』の第一段階は成功だね!」
「えっ?」
「これでメルちーも、自在に火を出せるようになったって事だよ!」
「な、なるほど……」
「じゃあ、本格的な攻撃力アップとコントロールは明日やるとして……
うん、さっきの動き、続けてみよっか!」
「は、はい!」
完全に火が無い状態から、放り投げ、火を飛ばす……
そしてキャッチして、火を消す……。
「おー、できとるねー」
遠くから見ていたマキノさんが近づいてきた。
「じゃあ明日は、キャンプの火おこしはメルティちゃんにやってもらおっかなー」
「えっ?」
「メルちー、火の魔法を使える者は、火起こしにこき使われる運命なんだよ。
ま、それも練習って事でがんばろーね!」
「え、あ、はい!」
太陽はすっかり沈み、もうすぐ寝る時間になる。
それまでの間、みんなに見守られながら、わたしの火のお手玉の練習は続いた。
みんな、付き合ってくれた。
ターシャさんとイサクさんにコツを教えてもらったし、ミリィさんも、魔法は使えないながらもアドバイスしてくれた。マキノさんも見守っていてくれた。
まだ火の種火を出せるようになったばかりなので、実戦ではまだ使えないけど……
うん、頑張って魔法を使いこなせるようになろう。
『魔法を使えるスライム娘』の第一歩。
その練習にみんなが付き合ってくれて、私はとても嬉しかった。
今日はゆっくり休んで、明日に備えよう……。
次回よりまたBシナリオのほうに移ります。




