3A-2話 チーム分け
私達が『第23番旧坑道』そばの廃村に到着して、次の日の朝。
朝食や朝の準備体操を個人個人で終えた私達は、まず集会場の大テーブルの前に集まって、チーム分けをすることになった。
今回私達がここで行うクエストは、主に4つ。
今日はまずはそのうち2つを、4人ずつの2チームに分かれて探索していく事になる。
「ロランさぁん……やっぱりそっちじゃ駄目ですか……?」
私はロランさんに、つい情けない声を出してしまう。
「うん、まあ……ソレーヌさんの指定だから……」
「そう……ですよね……」
今回の探索は、私はイルハスさんと組む。
この中で一番レベルの低い私は、戦士で護衛のできるイルハスさんと一緒のパーティーに入らなければならない。
「ははっ。そういうわけだ。いい加減観念しろ、ドロドロ女」
「ドロドロ女じゃなくて、あたしはスライム娘ですっ!」
イルハスさんはやっぱり苦手だ。
なんでいつも嫌味な感じでこっちに突っかかってくるんだろう。
以前は『ジョブ無し女』と呼ばれていたが、今は『ドロドロ女』になっている。
確かにドロドロした体ではあるが、なんかイルハスさんに言われるのは気に入らない。せめてもう少し可愛く言ってくれればいいのに……。
とはいえ、まあ仕方が無いのは事実。
ミリィさんが武道家から踊り子にジョブチェンジして戦わなければならない以上、HPの高いタンク役はイルハスさんしかない。
「さて、じゃあもっと具体的に決めていこうか」
ロランさんとイルハスさんを中心に、チーム分けを決めていく。
「まず、メルティちゃんが『イルハス組』に行くのなら、こっちの『ロラン組』は、ヒーラーのイサクだな」
「そうなるな。まあドロドロ女が本当にヒーラーが勤まるんならの話だが」
わざわざこっちを見て突っかかってくるイルハスさんに言い返したくなるが、このままだと話が進みそうも無いので、舌だけ出して静かに抗議するだけにしておく。
「ミリィはロラン、お前のほうだ。さすがにレベル2を二人も抱えてここの探索は出来ねえ」
「……ああ、分かった」
私と比べると、ミリィさんは武道家ぶんの引継ぎがあるので、それでもかなり強いのだが。
「じゃあ俺のほうの残り二人は、いつも通りコーストとマキノでいいか?」
「いや、ロラン組からもう一人付けてやってくれ。メルティちゃんも知り合いがいたほうがやりやすいだろ?」
「そうか。ならターシャとマキノ、替わってくれ。
でも大丈夫か?攻撃力の強いやつがロランのほうに居なくなるが」
「まあ、強い魔物の討伐だったら難しいが……このクエストなら大丈夫だろ」
そんな感じで、打ち合わせの結果、ロランさん、イサクさん、ミリィさん、マキノさんで第1チーム。
イルハスさん、私、ターシャさん、コーストさんで第2チーム、という事になった。
担当するクエストは、共に『魔鉱スラグの除去』となった。
第1チームは坑道西側入口から、私達第2チームは北側入口から、それぞれ旧坑道に入る事になった。
予定は今日と明日の2日間。
4つのクエストノルマのうち、スラグ除去の2つのクエストを、二手に分かれて実行する。
「じゃー、出発ー!!」
マキノさんの、どこか呑気な掛け声とともに、出発となった。
『第23番旧坑道』には、北坑道、西坑道、東坑道の3つの入口がある。
分かれ道でロランさん達と別れ、私達は、北坑道入口を目指す。
「メルちー、頑張ろうね!」
「は、はい!」
一緒に来てくれることとなったターシャさんが、私を応援してくれた。
「ま、気合入れるのは構わねえけど……ドロドロ女、お前は何もしなくてもいいぞ」
「……は?」
イルハスさんが突然そんなことを言い出すので、あたしは思わず変な声を出してしまった。
「ヒーラーとしてお前をこっちに入れてやってんだ。
基本、オレの後ろでただ黙って待機してくれてりゃいい」
「え……あの、あたしだって戦えますよ!」
「ンな事言ったって、所詮はレベル2だろ?戦力としては期待してねえよ」
「ちょ、ちょっとイルイル、そんな言い方は……」
「イルイルって呼ぶな!」
ターシャさんがフォローをしてくれている。
「だいたいお前等、この間……」
「……イルハス、待て」
こっちに何か言おうとしたイルハスさんを、それまで無口だったコーストさんが止めた。
「……魔物がいる」
コーストさんのその言葉に、私達は気を引き締める。
ここはまだ、坑道に入る前の太陽の下。
でも、こんな場所でも襲ってくるモンスターはいる。
モンスターが近づいてくる。
『キリサキバッタ』だった。
キリサキバッタは強いモンスターではない。
スライムより強く、大ガラスよりは僅かに弱いらしい。貰える経験値は1の、雑魚モンスターだ。
でも、モンスターってだいたいそうだけど、大きい。
虫なのに30センチくらいある。
そして、数が多い。今回襲ってきたのは5体だ。
「……オレとコーストでやる。お前ら2人は黙って見ていろ」
「で、でも!」
反論する間もなく、イルハスさんとコーストさんが飛び出していく。
イルハスさんは鉄のロングソードと鉄の盾を構え、コーストさんはカタナを抜き、2人はキリサキバッタに斬りつけていく。
それぞれ1体ずつあっという間に倒し、残り3体。
しかし、そのうち2体が、こちらに跳ねて近寄ってきた!
ターシャさんが、呪文を唱える構えをする。
「おい、使うな!温存しろ!!」
イルハスさんがそれを止める。そしてコーストさんが切り返してこちらに向かってきて、ターシャさんが狙っていたバッタを攻撃する。
まあ確かに、MPを温存させるためにターシャさんに戦うなという指示は分かる。
でも、私に対する指示は納得できなかった。私だって、ちゃんと戦えるのに。
2匹のバッタがこっちに近づいてくる。私を狙っている。
「来い!」
私は、バッタに向かって声をかける。ナイフをセットして、攻撃に備えて……。
…………あれ?
何故だろう。体が動かない。
向かってくるバッタにナイフを撃つ。いつもやっている戦い方が、何故か出来ない。
何もできないうちに、バッタはどんどん迫ってくる。
そしてこっちに飛びかかって来て……
「バッキャロウ!!」
突然、イルハスさんが大声で叫び、こっちに飛びかかってくるバッタの間に入り、盾でガードした!
「ぼーっと突っ立てんじゃねえ!下がれ!!」
イルハスさんがバッタにロングソードを斬りつけ、バッタを倒した。
残るバッタは、コーストさんが倒していた。
とりあえず、戦闘には勝ったようだ。
周囲に敵がいない事を確認した後、イルハスさんがこちらに怒鳴りながら近寄ってきた。
「ほら見ろ、やっぱり足がすくんで動けてねえじゃねえか!」
足がすくんで……そっか。
「お前な、この間のゴブリン戦で死にかけたばっかりなんだろ!?
復帰明けの初戦でまともに戦えるわけ無ぇだろ!
だから後ろで見ていろっつっただろ!!」
「は……はい……」
そうか……。
イルハスさんの言う通りだ。
私は足がすくんで……いや私に足は無いという点は今はともかく……とにかく、あの時の恐怖を思い出し、体が動かなかった。
コーストさんとの模擬戦では一応動けていたとは思っていたけど、いざ実戦で魔物と相まみえると、こうなってしまった。
イルハスさんはそのため、私にああ言ってくれてたんだ。
カタナを収めたコーストさんが私に話しかけてくる。
「……イルハスは、言い方は悪いが、メルティの事を気にかけている。
こう見えて俺達のグループのリーダーなんだ。信用してくれ。……言い方は悪いが」
「は、はい……イルハスさん、ごめんなさい。その……ありがとうございます」
「ま、オレに任せてくれれば問題ねぇよ。ドロドロ女はずーっと後ろで震えててもらって構わないぜ?」
……謝ったらこれだ。
本当に、この人は物の言い方ってものを…………。
「よーし、着いたな」
モンスターはさっきのキリサキバッタに会った1回だけで済み、特にHPやMPの消費も無いまま、北側入口まで到着した。
私達が今日行うクエストは『魔鉱スラグの除去』だ。
ここ『第23番旧坑道』は、稼働していた当初は、各種魔法鉱石の産地だった。
魔水晶こと『マナストーン』や、火の元素鉱石『フロジストン』、そのほか銅などが、この鉱山で掘られ、街に運ばれていた。
魔法鉱石に限らず全ての鉱石はそうなのだが、ツルハシなどで採掘すると、細かな削りカスが出来る。小石だったり、塵だったり。その事を総称して『スラグ』と言う。
普通の鉱石ならばただのスラグなのだが、魔法鉱石の場合、その小石や塵にもごくわずかに魔力を帯びている。
その鉱石の削りカスが、文字通り塵も積もれば、それなりの魔力を発生するようになる。その魔力を狙って、集まってくるモンスター達がいる。
廃坑となった今でも魔力を帯びた塵は、なぜか僅かずつ溜まり続けている。『リスポーン』という現象の一種らしい。
それ目当てのモンスターにこの廃坑が占拠されないように、冒険者は定期的に塵の掃除を行う。
それが今回のクエスト『魔鉱スラグの除去』。
要するに廃坑のお掃除だ。
『第23番旧坑道』の3つの入口のうち東側は、ロランさん達の前回行ったクエストで掃除済みなので、今回は残り2か所を手分けして掃除する事になる。
「じゃあ早速、掃除しながらいこー!」
ターシャさんが風の魔法で、粉塵を巻き上げる。風魔法と言っても生活魔法の範疇なので、MPは小数点以下の消費量。
その舞い上がった粉塵を、マジックパックで吸い取って掃除する。マジックパックと言っても私が持っているほうじゃなく、冒険者ギルドから支給された、ゴミ掃除用のほうだ。『空気吸引』の付呪がついているので、そのおかげで粉塵を吸い取ることが出来る。
ホコリがたくさん舞い上がるので、掃除中は吸い込まないように、3人は口に布を巻いている。
私はそもそも呼吸をしないのでそのままだ。体にホコリが入り込むのでやや濁るが、浄化能力で何とかなる程度だ。
幅の狭い坑道の中で、ターシャさんが鼻歌交じりでホコリを舞い上げ、隣にいる私が、手に持った掃除用パックでそれを吸い込む。
コーストさんは、ホコリが舞い上がらない程度にやや離れた前方で、魔物を警戒しながら先頭を歩く。
イルハスさんは私達のすぐ後ろにいて、いざという時のカバーのために待機している。
コーストさんとイルハスさんの手には、光を出す魔道具を持っている。
通常のカンテラや松明などは、粉塵爆発防止のために持ち歩かない。
『蛍石』という、明るい光を出す魔鉱石を加工して作ったライトを持っている。
私達は掃除しながら、坑道の奥を目指す。
クエストはまだ始まったばかりだ。




