第1話
私の大事な人、ユーグは、名前だけからすると、生粋のフランス人のようだが、本来は日本人だ。
この前の世界大戦後に、日本海兵隊を除隊して、フランス外人部隊に入隊し、紆余曲折の末に、フランスに帰化し、フランス軍の正規の軍人になり、准将にまで、今は昇進している。
ユーグは、私の大事な人であり、私が産んだ子ども達にとっても、良き父だ。
私たちの間の長子、アランらは、父にあこがれる余り、自らフランス陸軍士官学校に入り、陸軍士官の道を歩んだほどだ。
だが、子ども達に、私とユーグは、表立って言えないことがある。
それは、私とユーグが結婚していないことだ。
ユーグには、正妻が日本にいる。
そして、未だに正妻は、離婚に応じていない。
正妻とユーグとの間には、息子が一人いるのだが、息子を父無し子にするつもりはない、と正妻は、ユーグからの離婚の希望を未だに突っぱねている。
世界大戦時に別居を始めてから20年以上、アランが生まれた時からでも、20年は経っている。
それだけの時が経てば、それなりに諦めがつくというか、別れてもいい、と思いそうなものだが。
ユーグは、それなりの慰謝料や財産分与、扶養料等の支払いに応じる、とも言って、正妻に離婚したい、と何度も手紙を送っているのだが、私は断じて離婚しない、として、正妻は、ユーグに対して、未だに離婚に応じてくれないのだ。
本当に、ユーグは正妻に愛されているものだ。
いや、ユーグに、よく私が選ばれたものだ、と想うべきかもしれない。
何しろ、ユーグには、私と正妻以外にも、子どもまで産まれた深い仲の女性が2人もいるのだ。
その内の1人は、正妻と結婚する前、婚約していたという。
婚約していて、関係を持ったところ、彼女は妊娠してしまっていたらしい。
そして、正妻との縁談が持ち上がり、婚約者が妊娠していることを知らなかったユーグは、彼女との婚約を破棄し、正妻と結婚したそうだ。
何で、この元婚約者は、自分が妊娠していることを言わなかったのか、私は疑問に思うが、ともかく、そのために彼女との間に、ユーグは一女を儲けている。
もう一人は、ユーグに言わせれば、文字通りお互いに割り切った男女の関係だった。
もしものことがあっても、彼女は子どもを産まない、とユーグは考えていたらしい(いや、ユーグは、そもそも彼女が妊娠する等、その時は考えずに関係を持ったのかもしれない。)。
でも、彼女は、ユーグと関係を持ったことから妊娠したことを重く受け止めたのか、一女を産んだ。
そう、ユーグは、私以外の女性3人との間に子どもを儲けている。
そのことを知っているのは極少数の人間だが、その人達からは、ユーグは軽蔑されたような目を向けられるのが、しょっちゅうだ。
そして、ユーグにとって、私のどこが良かったのだろう。
私との夜の営みのせいだろうか。
まあ、夜の営みで、私に勝てる女性が、そういるとは思えないが。
伊達に、サキュバスとか、千人の男と寝た女とか等の悪名を私は、一時、故郷で轟かせた訳ではない。
ユーグの正妻からは、未だに、私は手紙の中でそう書かれているが。
もう20年以上前の話、ユーグと関係を持ってからは、その業界からは、私は、完全に縁切りをして、足を洗っている。
そして、私達の間には、12人もの子が産まれている。
貧乏人の子沢山とは、よく言ったものだ。
それに加え、ユーグは、日本にいる3人の子に養育費を20歳になるまで送っていたし、正妻に未だに婚姻費用分担金を送っている。
それ故に、私達とその間の子達の暮らしは裕福でない。
私と私達の間の子を、もっと大事にしてほしい、と私は思わなくもないが、所詮、私と私達の間の子は、日陰の身なのだ。




