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村人さん、情報収集を始める

や、やっと、やっと町に着いたぞ……

あのクソ強いゴブリンから逃げてから二時間、やっとの思いで最初の町へとやっていた。

何かあってあそこに戻されるのは絶対に嫌なので、復活(リスポーン)地点を町に設定。

町は5メートルぐらいの高さの石壁に囲まれていて、中心に塔、東に工業区、西に商業区、南に居住区、北にプレイヤー関連施設となっていた。

中心の塔は一種のテレポート装置になっていて、一度行ったことのある同じ塔がある場所へ転移できるのだ。

それはさておき、まずは町の名前を知らなくては。

俺の村人プレイの為には、絶対に知らなければいけない。

というわけで、称号を病弱な人に変更。

どうやら街中ではHPは0にはならないらしく、いくら歩いても死なないのだ!

NPCからの好感度というか友好度は上がるのに死なない……なんて素晴らしい!

それはさておきだ……この町の名前である。

どのNPCに聞いてもよくわからないとしか答えてくれない。

なので、北側にある図書館へ向かうことにした。

さすがにここなら名前がわかるだろ。

というわけでやってきました図書館。


「図書館のご利用ですか?それでしたら入場料として100z(ズール)いただけますか?」


Zはこのゲーム内の通貨だ。

所持金を確認する。

零、zero、0、ゼロ……開始初期の所持金は1000Z。

死亡すると装備の耐久度0%化と所持金半分消失だ。

俺が死んだ回数は……40回ぐらい?

ちなみに、死亡時に失う所持金は100Z以下だと0になる仕様らしい。

……もう、詰んでるな。

武器も無いし、金も無いし、どうにかできると思えない。


「……あの、大丈夫ですか?」

「は、ははは……だ、大丈夫ですよ?えぇ、大丈夫ですとも……」

「それにしては顔色が悪いようですが……」


さっきからこのNPC自律性高いな。

ここに来るまでのNPCも普通に会話してたけど、AIが凄いんだな。

え?現実逃避なんかしてませんよ?何言ってるんですかヤダなぁ~じゃあそろそろ旅に出ようかな!

図書館から出るために一歩を踏み出したらメッセージが表示され、倒れた。

え?なにこれ?


【蓄積ダメージが限界を超えました。一時間行動不可能です】


……………称号かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


「わぁ!?だだだ大丈夫ですか!?しっかりしてください!」


図書館の受付さんが駆け寄ってくる。

指一本動かせないので、受付さんの容姿でも観察しようと思う。

女性のようで黒髪蒼眼で、身体のスタイルは良いが……ほら、アレが、こう、ね?言わなくてもわかるでしょ?わかんない?え~板といいますか、壁と言いますか、まあ、そんな感じだね。


「……てい」


イッタ!?殴った!?この人殴ったよ!?


「次、首より下に視線が行ったらもぎます」


やっぱ女性はうなじか足だよね!ハッハー!

受付さんは何やら人を呼んでいる。

クネクネしてるボディービルダーのような筋肉達磨がやってきた。

なんて美しい上腕二頭筋なんだ……う、羨ましくなんてないんだからね!!


「急に人が倒れたって聞いたけど、この子かしら?」

「えぇ、休憩室のベッドに寝かせてあげてください」

「わかったわ」


そう言うと、俺をあっさりと担ぎ上げて移動する。

触れている筋肉が紛い物ではないのだと実感する。

な、なんて硬くて逞しいんだ……こ、こんな筋肉が欲しい!

ハッ!?べ、別に羨ましくなんてないんだからね!

ベッドに優しく寝かされる。

あ、今更だけど、三人称視点で見てます。

殴られた少しあとぐらいからこの視点だ。

たぶん、行動不能になったとき限定の視点なんだと思う。

てか、俺の身体凄いグッタリしてる。

称号恐るべし。


「これでいいかしら?それにしても……この子随分軽いわね。ちゃんと食事してるのかしら?」

「あ、図書館の入場料を払えないぐらいだから、もしかしたら……」

「ホントに?なら、何か作っておいてあげましょう」

「そうですね。それにしても……綺麗な娘ですよね」


そこで初めて自分の容姿に気が付いた。

ロングストレートの天パが羨むサラサラで綺麗な銀髪。

シミ一つない白い肌。

女性特有の艶のある顔と、小さくも魅惑的な唇。

胸は無いが、理想的な手足の太さと腰の細さ。

だけど、着ている服は完全に男用。

……男、だよ、ね?


「男装の麗人ってヤツなんでしょうか?」

「あんまり詮索するのはよくないわよ?さぁ、この子の為に何か作ってあげましょ」

「そうですね」


……男、男、男……あのアバターは、男……いやムリだろ。

あぁ~暇だ。



★一時間後★



あ、やっと動けるようになった。

視点も元に戻ったな。

動けない間に近くに置かれた食事を食べる。

ほぅ……シンプルでいて喉をスッと通る食べやすさ、絶妙な味付け、熱くなくそれでいて冷たくない、完璧な粥だ。

ログアウトしたら作るか。


「あ、起きましたか?」

「足がとても御綺麗な司書さんじゃないですか」

「……まあ、いいでしょう」


あ、あぶねぇ。

あと少しでも機嫌が悪かったら死んでいた。

ところであのマッチョはどこに行ったんだ?


「あの、お金無いんですか?」


……そう言えばここって、図書館内?

……………ヤベェ。


「す、すいません、無一文です……」

「そうでしたか……でしたら何かお仕事を紹介しましょうか?」

「ホ、ホントですか!?」

「はい、これも何かの縁ですし」


やった!!

これで生活できる!!


【クエストが発生しました】


笑顔が無表情に変わった瞬間である。

クエストの確認をする。


【限定クエスト・仕事をしよう!】

街中で出来るアナタだけの仕事を見つけ、やってみましょう。

NPCらしさが高ければ高いほど報酬アップ。

発生条件・NPCと予想外な交流をする。


……これはつまり、NPCになりきれってことか?

ケンカ売ってるんだろ?そうなんだろ?


「どうかしましたか?」

「あ、いえ、その、なんでもないです。仕事ですけど、自分にできることを出来る範囲でやってみます」

「そうですか……大変だと思いますけど、頑張ってくださいね!図書館の入場料はタダにしてあげますから、いろいろ調べてみてください」

「あ、ありがとうございます!」

「あと、この部屋の隣に空き部屋があるから、良かったら使ってください。お金が無いから宿屋にもとまれないでしょう?」

「何から何まで、すいません……このご恩はけして忘れません」

「フフ……無理のない返済を待ってます」


良い人だな。

マッチョさんも良い人なんだろうか?

いや、良い人だったな。

よし、まずは情報を手に入れよう。

そしたら、仕事開始だ!

図書館の本で重要そうなことを憶えてから3時間後。

自分がNPCプレイをすることに何の疑問も持っていなかったことに気が付いて、不貞寝するのだった。

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