村人さん、キャラクター設定中
500万がドブに捨てられた気分で《ペルソナ》を見る。
無念怨念憎悪を込めて神を呪ったら、少しだけ冷静になれた。
一類の望みをかけて《ペルソナ》を起動することにした。
こんな状態でも、諦めることが出来ないほどの情熱が、俺の中にある。
だって、VRしたいんやもん。
《ペルソナ》を着け、ベッドに横になる。
妹たちがベータテスターになり、正式サービスが昨日始まったゲーム《エレメンタル・ブレイド》を起動する。
目を瞑ると虹色の光が見え、次の瞬間には白い空間に立っていた。
『【エリュシオン】の起動を確認しました。《エレメンタル・ブレイド》を読み込みました。ゲーム内キャラクター設定を行います。少々お待ちください』
その中性的な声を聞いて、ついにVRの世界に来たと実感する。
実感すると同時に、俺のテンションフォルテッシモ!!
「いぃぃぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『キャラクター設定を始めます』
「あ、はい」
なんだろう……すごく恥ずかしい。
よし、落ち着こう。
目の前にモニターが浮かび上がる。
最初はキャラクターネーム設定のようだ。
「えっと、クレサっと」
クレサというのは今までやってきたオンラインゲームのキャラネームだ。
まあ、なんだかんだで気に入ってる名前ってことだ。
ちなみに、俺の本名は桜井閃だ。
次は職業選択のようだ。
俺の知ってる情報では最初に5つランダムで職業が表示され、そのうち一つを選ぶというものだ。
三回までリセット可能という情報もある。
というわけで、さっそく確認。
☆職業を一つ選べ☆
1・村人A
2・村人B
3・村人C
4・村人D
5・村人Z
「……」
一つだけ言わせてくれ。
なんで村人だけ!?
何故に最後z!?
バカにしてんのか!?
すまん、一言以上言ったわ。
……まあ、これしかなさそうだし、選ぶけどさ。
だってただでさえゲーム機器は瀕死なんだから、贅沢言ってもうできなくなりましたなんて、絶対嫌だよ。
じゃあ、村人Aで。
≪しかし、村人Aになるにはステータスが足りない≫
じゃあ出すなよ!?
村人B!
≪村人Bになるには情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりも!!速さが足りない!!≫
うるせぇよ!!
お前はどこの兄貴だ!!
村人C!!
≪村人Cは現在実装されておりません≫
だから出すなよ!?
村人D!!
≪村人Dは仲間にならなかった≫
俺がなるんじゃないの!?
最後ならこれでなれるだろ!村人Z!
≪え?なるの?村人Z?≫
・はい
・いいえ
……はい。
≪ふ~ん……確かに、ここで職業を決められなければゲームは始められない。なら村人zになるしかない……だが断る!!≫
「運営ィィィィィィ!!!」
叫んだ俺は、悪くない。
五分ほど暴れまわり、息を整えてリセット。
☆職業を選択してください☆
1・村人R
2・村人H
3・村人U
4・村人G
5・村人W
質問が変わってる!?
しかも村人○が順番滅茶苦茶だし!
とりあえず、選んでみるか。
村人Rで。
≪選択できません≫
……村人Hで。
≪Hだなんて……いやらしいわ≫
黙れよ。
村人Uならどうだ。
≪ターンしてください≫
意味が解らん。
村人G!
≪70歳になって出直してきな≫
年齢制限!?
村人W!!
≪この職業は5次元限定職業です≫
5次元専用!?
……リセット。
☆職業を選んでくだちい☆
1・ムラビトα
2・群人EX
3・むらびとΔ
おい!選択し減ってるぞ!?
ゲームシステム超越したバグになってない!?
……ムラビトαはどうなるんだ?
≪村人を超越した存在……ちなみに、アナタは村人にしかなれないので選べません≫
だから出すなよ。
なんで選択肢にするんだよ。
というか、俺村人しかなれないの!?
俺の存在価値は村人級ってか!?
群人EXならどうよ?
≪ERROR≫
今更!?
もっと前からそれ出してよ!?
むらびとΔ!
≪Σ・γと合体して絶対無謀ムラビトンになれる。つまり人間ではなくなる≫
・なる
・ならない
ならないよ!?
幾らゲームだからって、なんで好き好んで人間やめなきゃいけないんだよ!?
リセット!!
☆さっさと選べや☆
1・村人さん
だったら選ばせろよ!!
もう完全にめんどくさくなっただけだろ!?
良いよそれでもう!
≪村人さん……それは極々普通の人であり、ごくごく普通の人生を歩んでいく者≫
・職業決定
・村人さん
強制じゃねぇか!
職業決定ね、はいはい。
職業を選んだあとはステータスの割り振りができる……はずなんだけど。
『キャラクター設定を完了しました。ゲームを開始します』
……まさか、ステータス自動割り振り?
え?だって、え?
まだ容姿設定とか、種族とか、いろいろ決めるはずじゃ……
白い世界が虹色に輝き、景色が森へと変わっていく。
完全に視界が木々で埋め尽くされると、目の前のモニターに文字が表示される。
≪ようこそ、《エレメンタル・ブレイド》へ!≫
「……キャラクター設定は?」
俺の呟きに、答える者はいなかった。




