竜馬鹿とゲーム馬鹿
魔法実技場では、リュークとユニアスの試合に遅れて試合が行われていた。設営に時間がかかった事と、意外なほどに人が集まったのが理由だ。フィナもルーデルの試合を見る事にしたのも遅れた理由だろう。そんな魔法実技場から、闘技場まで響く爆発音が聞こえた理由。それは当然、試合をしている二人のせいである。
「本気出せよルーデル!」
アレイストの影からは、黒い液体に似た感じの物がうごめき、形を変えてルーデルに襲い掛かる。それは剣であったり、槍であったりと様々だ。
「アレイスト……お前はどうして」
そんなアレイストの黒い武器が、地面に刺さると爆発を起こしたのだ。そして、大爆発の原因はそんなアレイストが急に暴走したからである。ルーデルにはアレイストが、まるで力に振り回されているように見えた。魔法実技場であったため、被害は酷くないのだ。寧ろ全員が無傷である。
ただ、観客を守ったであろう特殊な壁は、全て破壊されていた。
「お前……隠す事を忘れてないか?」
そう、アレイストは調子に乗り過ぎて、本来なら隠す事にしていた。黒騎士としての特性を、観客の前でさらしている。運が悪いのか、その場には第二王女であるフィナが見ていた。
◇
「あぁぁぁ!」
元女神が大爆発後に、煙が晴れかけている時に叫んだ。横にいたイズミは、そんな元女神の反応に驚いている。
「お、思い出した。思い出したわよイズミ! アレイストはこのままだと暴走するわ!」
「それはどういう事だ? アレイストは確かに普段は少しおかしいが、暴れ回る事はしない筈だ」
「黒騎士! アレイストは黒騎士なの!」
元女神の叫びに、イズミは理解できなかった。黒騎士と言う職業の事を、秘密にしてきた事がここで裏目に出る。周りは、アレイストが特殊な魔法を使用しているとしか思っていない。教師たちは突然の出来事に、対応が後手に回っていた。
そんな二人の下に、上級騎士を連れたフィナが現れる。表情は無表情だが、その口ぶりは真剣だった。
「黒騎士……その話を詳しく聞かせなさい」
「へ、変な女が来たぁぁぁ!」
元女神がフィナを恐れる中で、ルーデルとアレイストは戦い続けている。攻勢に出るアレイストに、ルーデルが防戦している状況が続いていた。
周りの生徒たちは、見た事も無い戦いに興奮して逃げようとしない。しかし、教師たちは今までに見た事も無い戦いを前にして危機感を得る。すぐに避難させるなり、試合を中断する事を考えた。だが、教師の数が少ない事と、興奮した生徒たちが話を聞いていないのが問題だ。
そしてイズミたちは、元女神からルーデルたちの事について話を聞く。神殿での出来事や、アレイストが体術の訓練をしていた理由を話し終えると、フィナは戦っている二人を見た。
「不味いですね」
(ヤバイ、本当にヤバイ! 黒騎士って言ったら、王家でも意味を持つ職業よ。それをあの野郎が黒騎士とか……姉上に押し付けようかな)
黒騎士と言う特別な意味を持つ騎士に、フィナは王家や王宮が取り込みにかかると判断した。そうすると、フィナはルーデルを手に入れる事が難しくなる。第二王女であるフィナが、アイリーンよりも候補に挙がる確率が高いからだ。
「姫様、ここは危険です。すぐに避難を……」
ソフィーナの言葉に、フィナも賛同する。しかし、元女神だけは二人を止める事を提案した。提案した理由は簡単だ。白騎士と黒騎士は、完全に能力に目覚めると暴走するからだ。能力に目覚めた兄弟を思い出し、その暴れっぷりを見ていた元女神は青ざめている。
女神であった時は、身体が半透明で実態が無かった。だが、今は身体が存在するのだ。それは元女神には危険だと判断させるに十分だった。
「それよりも二人を止めてよ! このまま二人とも目覚めちゃうと、暴れ回って大変な事に……ここら一帯が破壊されるわ」
全員がルーデルとアレイストの戦いに視線を向ける。すると、フィナが元女神を見て言うのだ。
「アレを止められるとでも?」
(この無能! 今まで黙っていた上に、あの二人を止めろ? 無理じゃボケェェェ!!! 変な黒いのが、伸びたり爆発してる上に、ドロドロと気持ち悪い。それと戦える師匠も十分に化け物よね)
「止めないと! 二人とも暴走するわよ!」
「え?」
ソフィーナは、姫であるフィナだけでも逃がそうとするが、元女神の『二人』ともと言う言葉に疑問を持った。そして周りの皆が気付く……ルーデルの事を言っている事に。
「ルーデルも黒騎士なのか!?」
慌てるイズミに、元女神は叫んだ。叫んでしまい、周りにいた全員がその言葉を聞いてしまう。
「だ・か・ら! ルーデルは白騎士で、アレイストは黒騎士なの!」
観客も、ルーデルとアレイストの戦いが異常であると気付きだし、興奮も冷めていた。タイミングよく静かになってきた所で、元女神の大声が魔法実技場に響いたのである。
「この馬鹿弟子、やってくれたわ」
(おいおい! 白騎士って言ったらお前、黒騎士よりも微妙な……どうして師匠は撫でだけに生きてくれないの、フィナ悲しい。……冗談はここまでにして、そんな重要な事をこの場で叫びやがって、この無能!!!)
◇
剣の形をした闇を避けるルーデルは、そのまま木剣に魔力を流して飛んでくるアレイストの魔法を切り裂いた。黒い何かと、魔法による攻撃で、ルーデルは防戦一方である。武器の形になる黒い何か……闇は、受けても弾いても爆発して厄介で仕方がない。
「勝てる、これならお前に……ルーデルに勝てる!」
自信を持った事で、強気になるアレイストは、元女神の言う通り暴走し始めていた。降り注ぐ攻撃にルーデルは対処しているが、内心では集中力を欠いていた。白騎士としての目覚めが、黒騎士であるアレイストにより引き起こされたのである。
(このまま負ける? 俺が、ドラグーンを目指すこの俺が!? そんな事は許されない! 全てを捨ててでも、俺は最強でなくては……最強のドラグーンにならなければ!!!)
奥底から沸き起こる感情に、ルーデルは気付かないまま飲み込まれていた。勝ちたい。それはお互いの望みである。迷いが生じて力に飲まれ始めた二人は、白騎士と黒騎士と言う力を引き出していく。周りの目など気にしないその行動は、まるで観客など関係ないかのようだった。
その影響で、試合の余波が観客席にまで届きだす。先程までは気にしていた事も、今の二人にはどうでも良くなっていく……全ては勝つために、全ては自分の夢の為に……
ルーデルの左手に光が集まると、それは光弾となってアレイストに襲い掛かる。光弾とアレイストの闇がぶつかると、激しい爆発が起きた。
「そうだ! 本気で来いよルーデル!」
「アレイストォォォ!!!」
そうして今度は、左腕から光弾が連続で放たれる。降り注ぐ光弾とアレイストの闇の武器は、激しくぶつかり合う。そして、ルーデルの疑似的な魔法剣は、眩い光を放ちながら本物の魔法剣へと昇華した。それと同時に、アレイストの魔法剣は黒い魔力が炎のように木剣にまとわりつく。
ぶつかり合う木剣は、最早木剣がたてる音はしてこない。激しくぶつかり合う魔力が、爆発音や雷に近い音をたてていた。
お互いに魔力や身体能力が向上して、コントロールが出来ないまま暴れ続ける。それを危険と感じて、すぐに教師や職員が生徒たちを避難させた。避難させたが、出口付近でもたついているため、魔法実技場には未だに生徒が多く残っていた。
「これで僕が一番だ……一番になれるんだぁぁぁ!!!」
振り回した斬撃は、ルーデルを捕える事は出来なかった。出来ないが、その斬撃は壁や急遽設けられた長椅子を破壊していく。
そしてらちが明かないと判断したルーデルは、降り注ぐ闇を無視してアレイストに接近し、そのまま木剣を叩きこんだ。叩き込んだ木剣が、耐えられなくなり二人とも同時に消滅する。そこからは体術に切り替えるのだが、今では体術も問題の無いアレイストが、自信満々にルーデルに攻勢をかけた。
お互いに興奮していて防御など考えない。二年前と同じ殴り合いだが、そこには狂気を感じる。闇を纏った拳と、光を纏った拳がぶつかり合い、吹き飛ぶ二人。そのまま両者が立ち上がると、審判である教師は大声で中止を宣言した。
「二人とも止めろ! 試合は中止、両者失格とする!!!」
「……あ?」
「……そうか」
それを聞いた二人が、ニヤリと笑みを浮かべる。互いに向き合って顔を見れば、相手も同じ事を考えていると理解した。ルーデルもアレイストも最大の魔力を両腕に集め出すと、審判を無視して試合を再開した。すでにトーナメントの事など考えてもいないのだ。
考えているのは、目の前にいる奴を倒す事だけだった。
◇
「姫様お早く!」
ソフィーナが数名の上級騎士と共に、ルーデルとアレイストの攻撃の余波から生徒たちを守っている。しかし、王女であるフィナは、避難は最後でいいと言い張っていた。そんなフィナの視線の先には、ルーデルとアレイストの戦いが見えている。
黙っていたフィナだが、急に大声を出す。その声に驚いて振り返ると、二人は審判の声を無視して試合を再開する所だった。
「全員伏せなさい!」
ルーデルの両腕には光が集まり、逆にアレイストの腕には闇が集まっていた。感じる事が出来る魔力は、膨大である。危険を感じて生徒たちが伏せる中、上級騎士たちが魔法による障壁で防ごうとする。
「ソフィーナも全員伏せなさい! 止められないわ……」
(役に立たない知識だと思っていたのに……たまには王宮のマニュアルも役に立つわね)
フィナは、幼い頃に聞かされた黒騎士と白騎士にまつわる伝承を思い出していた。嘘だとも思ったが、目の前で起きている事を見れば信じもする。王宮では、白騎士や黒騎士に対する備えとして知識が受け継がれていたのだ。
それを思い出し、二人が最大の攻撃に出る事を感じたフィナ。避難は諦め、その場で耐える事にした。
「しかし姫様!」
「隊長! アレイスト殿が!」
部下の声に視線を二人に向けると、一時的にフィナに視線を向けた事を後悔するソフィーナ。最初に仕掛けたアレイストの黒い闇は、蛇のような形を取って周りを襲い始めた。何十と言う黒く強大な蛇が魔法実技場と、その周辺を襲っては破壊した。
ルーデルはそれを避け、隙が出来たアレイストに全力の攻撃を撃ち込もうとしていた。
そんな時だ、一匹の蛇がフィナたちに襲い掛かろうとしていた。イズミを始め、ルーデルの知り合いたちがいる所に襲い掛かる蛇は、数を増やし始める。
◇
「逃げるなよルーデルゥ!!!」
黒い蛇を、上手く操る事が出来ないアレイスト。彼には周りの状況が見えていなかった。そしてそれは、戦っているルーデルにもいえる事だ。周りを無視し、アレイストに勝つ事だけを考えたルーデル。アレイストが隙を見せた事で勝機を得た、そう思っていた。
「終わりだアレイスト!」
(これで俺が勝てる。勝って、最強のドラグーンに……ッ!)
内心では喜んでいたルーデルだが、アレイストの後方で黒い蛇に襲われるイズミたちを見た。一瞬のためらいの後で、ルーデルはその事よりもアレイストに勝つ事を優先する。
(上級騎士もいるから問題ない。いや、そんな事よりも俺はドラグーンを目指すんだ! それ以外の物は、俺には必要ない! 全部、全部必要ない!!!)
『何でそんな嘘吐くのさ』
(ッ……こんな時に!)
ルーデルはその瞬間、アレイストに攻撃する最高のタイミングで妹であるレナの言葉を思い出す。迷って、悩んで……そんな時間はルーデルには無かったが、ルーデルの身体は思い出した言葉に反応した。反応して、この場で出来る事が頭に浮かぶと、ルーデルは叫ぶ。
資料から見つけ出した、白騎士の特徴である光の盾……それをイメージするルーデル。
「……光の盾よ、守って見せろぉぉぉ!!!」
攻撃から防御へと切り替えたルーデルは、無防備な状態となる。それを見たアレイストは、容赦なく黒い蛇がルーデルを襲った。
「僕の勝ちだぁ!」
◇
襲い掛かってきた黒い蛇は、光の盾によって防がれて消滅する。その光景を見たイズミは、何が起こったかは理解できないが、ルーデルの方へと視線を向けた。
「ルーデル!」
見れば、同じように他の生徒たちを守るように、何十枚と言う光の盾が魔法実技場に浮かんでいた。人一人よりも大きな盾が、黒い蛇を完全に封じ込めていた。だが、封じ込められた中では、ルーデルが黒い蛇に襲われている。
勝利を確信したアレイストが、笑いながら黒い蛇を消すと、光の盾も消えていった。ルーデルは倒れ、アレイストが立っている。見ただけなら勝者はアレイストだが、二人には失格が言い渡されている。この試合も引き分け……いや、そもそも個人トーナメントが中止である。
長い歴史を誇る学園で、はじめて優勝者が出ない大会となった。
そんな高笑いをするアレイストを無視して、イズミがルーデルの元に駆け寄る。半分瓦礫に埋もれたルーデルを掘り起し、そのまま抱きかかえると息をしている事を確認したイズミ。安心して涙が出ると、その涙を頬に受けたルーデルが目を覚ます。
「あぁ……色々と失敗したみたいだ」
「馬鹿、どうしてこんな事をしたんだルーデル!」
ルーデルは、意識がハッキリとしないのか、どう答えていいかも分からなかった。だから……
「全部捨てようとしたら、捨てられなかった……妹に叱られるな」
それだけ言うと、ルーデルはまた意識を失くしてしまう。イズミがルーデルを抱きかかえると、それを見たアレイストが正気に戻る。ルーデルと周りの状況を見て、自分を抱きかかえるようにして座り込むアレイスト。
「ぼ、僕はこんなつもりじゃ……こんな事をする気なんか……」
教師が集まってアレイストを取り押さえると、ルーデルも教師が引き取ろうとする。ここまで問題行動をしたのだ。罰は当然だろう。しかし、そんな教師たちをフィナが制した。
「お二人に手出しはなりません。保健室に運んで、王宮の指示を待ちなさい」
「しかし王女様! これだけの事をして……」
「これは学生の立場で言っているのではありません。第二王女フィナとしての発言です。……学園長を呼んでください」
「……はい」
こうして、二人が白騎士と黒騎士である事が王宮の知る所となる。




