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青年と勇者

 ルーデルは、毎朝のトレーニングの為に早起きである。ベッドの中央で大の字に眠る元女神に毛布を掛けてやると、そのまま重りの着いた木剣を持って中庭へと向かうのだ。最近は、バジルから貰った剣の長さと重さも模した木剣で素振りをするルーデル。


 それにはいくつかの理由があった。最近特に……白騎士だと告げられてから、身体の奥から力が溢れてくるのを感じていたのだ。そのせいか、力加減が難しくなってきている。魔法を使えば暴走し、剣に魔力を流すと魔力で剣の形を維持できなくなってきたのだ。


 急激な成長に戸惑いながらも、ルーデルはそれをコントロールすべくトレーニングをしていた。素振りをすれば、周りの生徒とは明らかに音が違う。動きも本人は満足していないが、周りから見たら神業に見えていた。そんなルーデルに、周りは気を使って声をかける事は普段はしない。


 しかし、その日は声をかける人物がいた。友人であるリュークである。リュークは基本的に夜遅くまで研究をしているから、朝はそんなに早い方ではない。そんなリュークは、動きやすい恰好をして木剣を持っていた。


「朝から元気だなルーデル」


「リューク、珍しいな。昨日は研究はしなかったのか」


 素振りを止めてリュークを見るルーデル。汗を拭いて話をする事にした。バーガスが卒業してから、朝のトレーニングでルーデルに声をかける生徒はあまりいないから、ルーデルも喜んでリュークの話を聞く。


「少し手合わせをしてくれ。流石にこのまま成績がユニアスと同じなのには、耐えられないからな」


 木剣を構えるリュークは、突きを基本とする剣術の構えを取る。ルーデルは特に考える事も無く、木剣を構えた。だが、この場合リュークが指導を受けるような形となる。ルーデルとまともに打ち合える生徒となると、上級生やユニアスくらいなのだ。


「踏み込みが浅いな? それから動きに無駄がある」


 リュークの突きを受け流し、弾き返してルーデルはリュークの問題点を指摘する。リュークもそれを重点的に直そうとするが、そこを意識し過ぎてバランスを崩してしまう。ルーデルがそのまま首筋に木剣を振り下ろして、ギリギリで止めた。


「はぁ、流石にお前と手合わせは早いか……すまないな付き合って貰って」


「いいさ。それよりも研究はいいのか?」


「研究もしているさ。ただ、このまま負けたままでは終わりたくないだろ? お前にもユニアスにも負けたまま卒業したら後悔しそうだからな。それなら今頑張る事にした」


 汗を流した二人は、汗を拭いてそのまま芝生の上に座る。空を見上げると、今日も空が高かった。


「それよりもアレイストはどうだ? もうすぐ一学期も終わるのに、あいつはまだ殴られているのか?」


「どうかな……前に見た時は、虎族が代わる代わる試合を連続でしていたよ。虎族もアレイストのスタミナには驚いてたね。嬉しそうに、これならすぐにでも物になるって喜んでいたし」


 リュークはアレイストを哀れに思いつつ、去年に受ける事が出来なかった王宮での式典の話をルーデルにする。


「それは可哀想だな。それはそうと、今週は王宮で騎士の任命式だ。去年は謹慎中で受ける事は出来なかったから、今年はお互いに受けないとな」


 王宮で騎士として国に忠誠を誓う大事な式典だ。それを去年は謹慎中という事もあり、三人は受けていない。ついでにイズミも今年参加する事になっている。


「あぁ、あれから一年か、早いよね本当に……」


「私たちは家の格からして、王直々に騎士として任命を受ける。三公の当主が今回は揃う事もあって、王宮ではお祭り騒ぎらしいな」


 ルーデルたちの任命式という事もあり、三公の当主が王宮に顔を出すのだ。その事を聞いたルーデルは、自分は何も聞いていない事をリュークに告げる。ルーデルは王からも認められているのに、アルセス家の対応に苦笑いするリューク。


 王宮のお祭り騒ぎの原因の一つは、ルーデルが公の場に出てくる事にある。様々な評価がある人物を、実際に見ようと貴族たちが興味を示しているのだ。リュークやユニアスの父も例外ではなかった。


「もうすぐ鐘六つだな。食堂に行くかルーデル」


「あぁ、ユニアスも起きてるかもな。昨日から遅刻できない授業があるって騒いでた」


「本当にあいつは駄目だな」


 笑いながら寮にある食堂を目指す二人。そんな二人が食堂に着いた時には、眠そうなユニアスと同じく眠そうな元女神がモソモソと朝食を食べていた。



 一方、帝国ではアスクウェルとミースが帝国内にある研究所で、その実験の成果を確認していた。大きな檻の中には、黒い身体に白い模様の入ったオーガが大人しく座っている。試作タイプのオーガだったが、その成果はアスクウェルを満足させるに十分だった。


「同じオーガをこちらの指示通りに倒した報告も受けたが、まさかこれ程の出来栄えだとは思わなかったぞミース」


 実物を見て満足するアスクウェルに、ミースは感情を押し殺して礼をいう。だが、内心ではずっと混乱していたのだ。ミースはアスクウェルに会う前から実験をしているのに、これだけの成果が出るとは考えていなかった。まるで全てが上手く行くように仕組まれている気持だったミース。


「勿体無いお言葉です将軍」


「堅いなミースは。しかし、実験結果を報告した書類を見たら実際に見たくなってな。急な訪問を許せよ。これでも昔は学者肌でな、将来は継承権を捨てて学者になるつもりだったのだ」


 意外な事を聞いたミースは、少し驚いた。帝国の若き皇子にして将軍であるアスクウェルの意外な一面を知った瞬間だった。子供のような顔になるアスクウェルを見て、ミースは少し嬉しくなる。


「将軍がですか? いがいですね。どんな研究をされていたのです?」


「あぁ、農作物を中心に研究していた。……なぁ、ミース。帝国と王国は同じ大陸に存在するのに、どうしてこうも違うのだろうな」


 アスクウェルの質問に、ミースは何と答えるか考えた。文化や風習、言語が違うといった事を聞いているのではないという事は分かるが、何と答えるか悩むミース。


「……豊かな王国に比べ、帝国は国民を食わせる事もままならない。私はな、そんな帝国の国民を救いたくて学者を目指していた。だが、成功すると確信した実験は失敗し、どんなに論文を書いても見向きもされない。悔しくて、それでも私は帝国の皇子だから国民の為に働く事を選んだ」


「確かに王国の領土は豊かです。だからこそ帝国は、戦争をしてでも豊かな土地を得なければなりませんが……将軍にもそんな時があったのですね」


 俯いたアスクウェルは、そのまま顔をあげると先程の子供のような笑顔から、不気味な笑顔に変わっていた。


「可笑しな物だ。人を救おうと頑張っても空回りした私が、軍人になるとどんどん功績を挙げるのだからな。まるで学者など、最初から向いていないかのようだったよ。最初から戦争をするしかない、そう神がいっている気がしたよ」


「将軍……」


 ミースは少しだけ、アスクウェルという人物を理解したのだった。だが、アスクウェルはまた普通の笑顔に戻ると、ミースにいうのだ。


「同情は止せ、それに私は国民の役に立つという目的は失っていない。王国から領土を得れば、それだけ帝国の国民が助かる。……その時はお前も力を貸してくれると助かる」


「はい!」


 ミースは研究所を歩くアスクウェルの後ろ姿を見て、今までの不安が吹き飛んだ。まるでアスクウェルについて行けば安心だという感情に、ミースは違和感を覚える事も無い。


 アスクウェルは帝国の第三皇子であり、アレイストがなる事が出来なかった【勇者】である。



 王宮へと訪れたルーデルたちは、伯爵家以上の家系の生徒とそれ以外に分かれて騎士の任命式を行う事になっていた。去年に生徒たちは集中したため、今年は例年よりも少ない参加であるものの、三公の嫡子が出るという事もあり王宮は騒がしい。


「かったるいなぁ、ルーデル逃げるか?」


「それは出来ない! 騎士にならないとドラグーンになれないからな」


 こういう式典を嫌うユニアスが、ルーデルを誘って逃げようという。だが、想像通りルーデルは拒否した。そんなやり取りを、下級生である三年生たちがソワソワしながら見ている。


 リュークは落ち着いた物で、控室となった会議室で座りながらのんびりとしていた。そんな会議室では、緊張したイズミもいる。イズミが緊張していると思い、ルーデルは声をかけた。だが、イズミが緊張している原因はルーデルのせいである。


「緊張しているのかイズミ? 大丈夫だ、向こうの任命式とやり方は変わらないから」


「……ルーデル、私はどうしてこの場にいるのだろう?」


「簡単だ、俺が頼んで見たら許可が下りたからだ」


「どうして私に許可が下りたのだろう?」


「それも簡単だ。関係者が渋った所に、ユニアスとリュークが丁度来てくれて助けてくれたからだ」


「……二人とも」


 イズミが顔をリュークとユニアスに向けると、二人は目を逸らした。だが、二人とも肩が小刻みに震えている。本人たちも面白がっての行動が、まさか許されるとは思っていなかったのだ。三公の嫡子三人に頼まれた事もあり、王もイズミの参加を了承した。


「心配ないぞイズミ。本来は王が直々に行うのが普通なんだ。それでも人数が多いから、仕方なくこのようなやり方になったに過ぎない」


 イズミは頭を抱えたくなる。ルーデルのいう事も分かるが、それでも雰囲気という物があるのも事実だ。クルトア王国では異国の人間であるイズミに、誰もが好感を持つ訳が無い。でしゃばる事を嫌うイズミは、この式典が人生の苦難に感じられた。


「気にする事は無い。上級騎士を目指すなら、その任命式はこれ以上に大々的な物になる。今から慣れておくといい」


 リュークがイズミを慰めるために説明すると、イズミもそこをいわれると弱いのか覚悟を決める。丁度イズミが覚悟を決めた時、会議室に王宮の文官が式典の準備が整った事を告げに来た。


 広間には王族を始めとした大臣や高位の文官、武官、そして大貴族が若き騎士たちを見守っている。広間に敷かれたジュウタンの上を歩いて入場したルーデルたちが、一斉に王の前に膝をついた。王宮の楽団の見せ場であるために力の入った演奏をする。


(ようやくここまで来たか……)


 王は跪くルーデルたちを見て、保健室で三人に出会った事を思い出して苦笑いとなる。あれから二年でようやく騎士になった三人や、周りの若者を見て表情を真剣な物とする王。


 式典は予定通り進められ、自分の息子の晴れ姿にディアーデ家や、ハルバデス家の当主は表情は真剣だが、内心では喜んで見ていた。周りの貴族も、噂のルーデルの姿を見てはそれぞれが高評価をしている。立ち居振る舞いは完璧だ。式典で突拍子もない行動には流石に出ないので、ルーデルを見る貴族の目は真剣な物となる。


 ただ、アルセス家、ルーデルの父親だけは複雑な感情だった。クルストの件で落ちた名声も、ルーデルのおかげで盛り返したからだ。それでも、ルーデルに対しては憎しみに近い感情を抱くようになっている。自分の時と違う周りの状況に嫉妬を覚えたのだ。


 一人一人が王から言葉をかけられると、それに応えて国に忠誠を誓う言葉を述べる。騎士となると、国から地位を与えられるが、騎士としての地位には義務が伴う。戦争が起きれば逃げる事を許されない、国の為に戦う事を誓うのだ。


 こうして勇者である皇子アスクウェルと、ルーデルたちは戦う運命を突き進む。数年後の戦争を前に、準備は着々と進められていた。

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