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ミサさんと僕~猫、うみへいく  作者: 瑞月風花


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4/4

海の中でつかまった

 ぼんやりと揺られていると、赤くて白いしましまの魚が甲高い声で、僕に話しかけた。

「ねぇ、なにしてるの?」

「よく分かんない」

「ふーん」

 そう言ってきゃきゃきゃと笑い声をあげる。


 そのままゆらゆらしながらお喋りしていると、黄色い魚もやってきた。そっちも僕の手くらいの大きさで、とても小さい。

「ねぇ、君はなに? なんか変だね」

「そうかなぁ、僕は猫」

「ふーん、猫? 猫はどこへ行くの?」

 黄色い魚が僕に尋ねる。


 僕は、ヤドカリノホームズのお家を探していて、別にどこへ行こうとも思っていない。あと、僕を人間にしてくれる魔女さまは探しているけど、どことも決まっていない。だから、やっぱりこう答える。


「よく分かんない」

「ふーん」

「ふーん」

 魚たちは同じ言葉を僕に返した。それから、二匹が顔を見合わせて、「ねぇ」とか「うん」とかお喋りをして、きゃきゃきゃと笑った。

「ねぇ、猫。こっち」

 と言って。


 なんだかよく分からないけれど、僕も手足をバタバタさせながら、魚についていくことにした。

 ついていった先にあったのは、なんか変なもの。

 大きな岩から伸びている糸の先っちょに、なんだか白いふわふわした袋がついていて、糸がその袋にもぐるぐる絡まっていた。だけど確かに僕みたいにゆらゆらしている。

 魚たちが言う。


「ね? 猫。猫と一緒みたい」

「うん」

 ちょっと違うのは、その白いふわふわの下から出ているのは、僕みたいな体じゃなくて、魚のしっぽだった。

「変なのなの」

「あれも猫?」

 僕に尋ねた小さな赤と黄色の魚は、そこでまたきゃきゃきゃと笑う。

 僕にもよくわからない。

 わからないから、近づいてみる。


 近づいてみると、しっぽがバタバタ動いた。僕はびっくりして飛び上がりそうだったけど、赤と黄色の魚がまた笑った。

「わぁ、動いた」

「動いた、動いた」

 猫じゃないと思うけど、ともう一度ゆっくりと近づいてみると、白いふわふわの中から黄色い目が僕を見つめていた。

 黄色い目は僕と一緒だ。

「ねぇ、君は猫?」

「……」


 何か言っているけど、聞こえない。だから、もう一度、尋ねてみる。

「ねぇ、……」

 そう言うと、小さな声で「出られないんだ」と白いふわふわが言った。


「かくれんぼしてたの?」

「ううん、逃げてた」


 じゃあ、おにごっこで捕まったんだ。ふわふわが鬼なのかな?

 そう思った僕は、僕の爪なら出してあげられるかな、と考えた。白いふわふわは柔らかそうだったし、絡まっている糸を解くのは、猫の僕にはできそうになかったし、なにより、白いふわふわは、生き物じゃないみたいだし。

「爪、あたったら痛いよ」

 『お母さん』がよく言ってた。『痛い』と言ったあとに『爪を切らないとね』って。


 僕に近づいてきていた白いふわふわの中のなにかが、ほんの少し体を向こうに寄せてくれる。僕は、そっとその白いものに爪を立てて、引き裂いた。

 その中から出てきたのは、やっぱり猫ではなくて、白くてしましまの魚で、赤と黄色よりも大きな魚だった。


「あ、僕らと一緒」

「うん、一緒だ」

 赤と黄色の魚がやっぱりきゃきゃきゃと笑って、その白くてしましまの魚が僕に「ありがとう」を言って、僕がヤドカリのホームズの新しい家のことを思い出した時に、僕が海に飛び込んだ時と同じ音が響いた。

 ザブン、ドボンと。

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