海の中でつかまった
ぼんやりと揺られていると、赤くて白いしましまの魚が甲高い声で、僕に話しかけた。
「ねぇ、なにしてるの?」
「よく分かんない」
「ふーん」
そう言ってきゃきゃきゃと笑い声をあげる。
そのままゆらゆらしながらお喋りしていると、黄色い魚もやってきた。そっちも僕の手くらいの大きさで、とても小さい。
「ねぇ、君はなに? なんか変だね」
「そうかなぁ、僕は猫」
「ふーん、猫? 猫はどこへ行くの?」
黄色い魚が僕に尋ねる。
僕は、ヤドカリノホームズのお家を探していて、別にどこへ行こうとも思っていない。あと、僕を人間にしてくれる魔女さまは探しているけど、どことも決まっていない。だから、やっぱりこう答える。
「よく分かんない」
「ふーん」
「ふーん」
魚たちは同じ言葉を僕に返した。それから、二匹が顔を見合わせて、「ねぇ」とか「うん」とかお喋りをして、きゃきゃきゃと笑った。
「ねぇ、猫。こっち」
と言って。
なんだかよく分からないけれど、僕も手足をバタバタさせながら、魚についていくことにした。
ついていった先にあったのは、なんか変なもの。
大きな岩から伸びている糸の先っちょに、なんだか白いふわふわした袋がついていて、糸がその袋にもぐるぐる絡まっていた。だけど確かに僕みたいにゆらゆらしている。
魚たちが言う。
「ね? 猫。猫と一緒みたい」
「うん」
ちょっと違うのは、その白いふわふわの下から出ているのは、僕みたいな体じゃなくて、魚のしっぽだった。
「変なのなの」
「あれも猫?」
僕に尋ねた小さな赤と黄色の魚は、そこでまたきゃきゃきゃと笑う。
僕にもよくわからない。
わからないから、近づいてみる。
近づいてみると、しっぽがバタバタ動いた。僕はびっくりして飛び上がりそうだったけど、赤と黄色の魚がまた笑った。
「わぁ、動いた」
「動いた、動いた」
猫じゃないと思うけど、ともう一度ゆっくりと近づいてみると、白いふわふわの中から黄色い目が僕を見つめていた。
黄色い目は僕と一緒だ。
「ねぇ、君は猫?」
「……」
何か言っているけど、聞こえない。だから、もう一度、尋ねてみる。
「ねぇ、……」
そう言うと、小さな声で「出られないんだ」と白いふわふわが言った。
「かくれんぼしてたの?」
「ううん、逃げてた」
じゃあ、おにごっこで捕まったんだ。ふわふわが鬼なのかな?
そう思った僕は、僕の爪なら出してあげられるかな、と考えた。白いふわふわは柔らかそうだったし、絡まっている糸を解くのは、猫の僕にはできそうになかったし、なにより、白いふわふわは、生き物じゃないみたいだし。
「爪、あたったら痛いよ」
『お母さん』がよく言ってた。『痛い』と言ったあとに『爪を切らないとね』って。
僕に近づいてきていた白いふわふわの中のなにかが、ほんの少し体を向こうに寄せてくれる。僕は、そっとその白いものに爪を立てて、引き裂いた。
その中から出てきたのは、やっぱり猫ではなくて、白くてしましまの魚で、赤と黄色よりも大きな魚だった。
「あ、僕らと一緒」
「うん、一緒だ」
赤と黄色の魚がやっぱりきゃきゃきゃと笑って、その白くてしましまの魚が僕に「ありがとう」を言って、僕がヤドカリのホームズの新しい家のことを思い出した時に、僕が海に飛び込んだ時と同じ音が響いた。
ザブン、ドボンと。




