ヤドカリのホームズの家探し
「ねぇ、僕、お家探し手伝ってあげようか?」
こてっと三角帽子が動いた。
「ほんとうか?」
「うん」
だって、僕は『お母さん』のお手伝いができる人間になるんだもの。
「俺っち、ヤドカリのホームズ」
ヤドカリノホームズは、そう言うと、こちょこちょ動く前髪をぜんぶ三角帽子から出した。
ヤドカリノホームズが言うには、三角帽子は彼のお家で、前髪は足なんだそう。それから、体が大きくなってお家が小さくなったから、新しいお家を探していたそうだ。
少し大きくて、かっこよくて、きれいなお家。
よく分からないから、貝を拾ってはヤドカリノホームズに見せてみた。
これは小さい。これは穴が開いている。
もう、このお家は先住さんがいるじゃないかっ。
ヤドカリノホームズはなかなか納得してくれない。
なんだかつまらなくなってきた。
もしかしたら、あの大きな水たまり、ヤドカリノホームズが言うには『海』の中にならあるんじゃないだろうか。あんなに大きいのだから。
すると、波の間からキラリと何かが光った。
もしかしたら、きれいなお家かもしれない。
そう思った僕は、そのキラリに向かってぴょーんと飛び込んだ。
大きな水音は僕が海とぶつかった時の音。僕のまわりには白い泡。小さな泡が僕の黒い毛皮にくっついていて、ぴかぴか光って見える。わぁ、すごい。そう思って口をあけたら、大変なことに気がついた。
口の中にあった空気がふわぁと膨らんで、僕から逃げていこうとする。
待って、僕の空気。
声が聞こえたのか、僕の空気が立ち止まって僕の頭にぶつかり、そのまま頭をすっぽりと包んでしまった。まるで、ヤドカリノホームズの帽子みたいに、僕はその空気の帽子から、体だけ出して海の中をゆらゆらしていた。
僕はゆらゆらしながら海の中で考えた。
海は、やっぱり大きな水たまりで、とっても不思議で、青い色や緑色に見える場所なのに、僕が浸かっている水の色は透明色のところ。
遠くには色がついているのに、きらきらしている。
どこか、ミサさんの魔法みたいに、よく分からないことが起きる。
この空気の帽子、どうしたらいいんだろう。僕は波に揺られて、砂のある場所からはどんどん離れていく。ヤドカリノホームズも、ミサさんのお家も。




