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見てくるだけの簡単なお仕事  作者: ヒコしろう


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9/25

第9話 だってムラムラしちゃう…

旦那に掘られてしまってから約一年…今では毎日の様に掘りまくる生活を送っている。


まぁ、掘りまくっているのは穴は穴でも地中の穴だが…いや、間違えないで頂きたいのは、ムラムラして地面に穴を空けてヘコヘコと腰をシェイクしているのではなく、純粋にマイホーム代わりの巣穴である。


実は近場の小川辺りを拠点にしようとしたのだが、どうやら近くにオジサン種の集落があるらしくレベル10以上のオジサンに出会ってしまった為に近場の丘を登り反対側まで逃げてきたのだ。


運が良かったのは、まだ求婚の決闘のシーズン前でありオジサン達は己を高めながら産卵の時の為の蓄えを集めつつ同じ集落のオジサン達と求婚エリアが被らないようにする小競り合いの時期だったらしく、集落の家持ちのオジサン達が等間隔に森に散らばってくれて、


「もうちょっと向こうに行けや!」


とか、


「なにをっ、このパムの木からこっちは何年もオラの陣地だ!」


などと大声でウガウガと叫んでくれていたので、オジサンの気配を感じたら迂回をするというのを繰り返せば集落の有る中心部に迷いこむ心配はなく、オジサン達のナンパエリアも分かる為に安全地帯もおのずと分かるという事になり、たどり着いたのが丘の向こうにあったこの窪地である。


この場所は何だか不思議な場所であり、ここまでの森と明らかに違う雰囲気があるのだ。


木々は集落に居る時にママ友のオジサン達から【よく燃える】と教えてもらった松の親戚みたいな【ザザ】と呼ばれている木がメインとなり、集落では子育てに夢中で詳しく調べていなかったザザの針のような葉っぱをモグモグすると、


【アルフ亜種】 

【現地名 ザザ】

【塩分に強く海沿いでも良く育ち海風避けに最適な樹木である。幹から採取出来る樹液には粘性があり油分が含まれ、武器の持ち手の滑り止めや革製品の表面仕上げ等に使われ…】


と頭に浮かんだのでほぼ【松】としての認識で良いみたいなのだが、


『なんでザザしか生えてないんだ?』


という疑問と共に住める場所をさがしてザザの林の辺りをうろつくと、地面にポッカリと穴が空いておりウッカリ落ちそうになって慌ててしまった俺なのだが、生前住んでいたボロアパートぐらいならスッポリと入りそうな程のそのポッカリと空いたその穴の縁から首を出して下を覗くと薄暗い地底には綺麗な水が揺らめいていたのであった。


『深いな…落ちたら上がれそうに無いから獣達も水場にはしてないみたいだし、所々に似たような穴が在るみたいだから下手にウロウロしない方が良いな…』


と、天然の落とし穴だらけの危険地帯だと察して冷や汗を流しながら地面を確かめつつザザの林の端まで戻って来たのであるが、


『こんな感じの地形って…何かで見たかも…』


と引きこもりのお友達であるテレビやネットの知識を引っ張り出そうと窪地に下る斜面に腰をおろして考えていると、俺の記憶の扉が開かれ、


『あっ、外国の…石灰岩の…そう、セノーテ!』


と、子供の頃に【探検家】を夢見た時期があり、テレビで見た雨水や地下水の侵食などで出来る自然の洞窟である鍾乳洞を作る地層…つまり石灰岩の地層が俺の尻の下にあるという事に気が付き、


『石灰岩の地層は昔海底だった場所の目印だよな…たしか…』


と思いだしたのだった。


ここが異世界であり、全く同じとは言えないが動植物がいるという事は生命の起源の海だって同じようなモノがあるはずである。


『海の底が隆起したのなら取り残された海水が溜まった塩分の濃い地層が有っても不思議じゃない!』


という閃きから、


『窪地の底であるザザの林の下が海底だった石灰岩の地層だから、その上の何処かに…いや、ザザの木自体が塩に強い性質だから…えっ塩…絶対有るじゃん』


という勉強からも全力で逃げていた俺のわりに手持ちの数少ない知識から頑張って塩の在りかを見つけ出したのである。


そこからの作業は比較的単純であり、何処に落とし穴が隠れているか分からない窪地の底を避けて、窪地までの下り坂に横穴を掘り始めた俺であった。


しかし、手持ちの道具が棍棒と石斧に革袋や道中で仕留めた牙ネズミの毛皮程度しかなく、


『スコップでも有ればなぁ…』


と無い物ねだりをしてしまうが、ここではゴネても買って貰えない事も、ネットでポチったり出来ない事も十分承知している俺は、


『あのゲームでは四角い顔の水色衣装のオジサンキャラも素手で地面掘ってたし…彼みたいにスコップを作る技術も無いから…』


と、素材を集めて作業台から道具をクラフトするのを諦めた俺は、仕留めて野宿の時の敷物として使っていた牙ネズミの毛皮を足元に敷いて石斧で斜面をコンコンと削り崩れた土を敷物ごと引きずり外に運び出す作業を繰り返しながら数日、


『ここなら子育てしても十分な広さがあるな…』


と感じる巣穴が…って…危ない、危ない…どうやらオジサン種の体に入ってから理性を押さえ込む程の本能が顔を見せる時があり、


『これは繁殖シーズンは気合いを入れてオジサンに会わない様にしないと、自分の意思でなく【繁殖をしたい】という本能でオジサンにフラフラと接触しに行ってしまうかも…』


とヒヤヒヤしている…現に今も、進化や退化の心配の無い土や鉱物などを完全に機能してくれている鑑定スキルを使い【塩分】の文字を探しながら【隠れ住む拠点】を作っていたはずだが、体が勝手に【親子三人】を基準に巣を作ろうとしていたのである。


何故かお腹左側が少し熱く感じたり、何もないのにムラムラしてしまう自分に恐怖すら覚え、生前では訪れなかった生物としての【発情期】というモノの威力を体感していたのだった。


…いや、何もないのにムラムラは思春期の時にはありましたよ…俺だって…しかし、あんなムラムラはこのムラムラに比べたらお子ちゃまのムラムラで、一年分のムラムラをこの発情期に集めたぐらいのムラムラであるのだ。


自分でも『何を言っているのか…』と思うが、


『今ならば気絶させた無抵抗なオジサンでも…』


と一瞬頭を過った自分に制裁を加える為に、


「しっカリ、しろ!」


と掘削中の壁面に頭をゴンと打ち付け正気を保つ…ジンジンする額を擦りつつ、少し冷静になった俺は、


『これは駄目だ…』


と、下半身から突き上げられるような本能に負けそうになった瞬間に奇跡が起きたのである。


掘り進めていた横穴の床が崩れ俺は地下の広い空間にポスっと落とされたのである。


身長よりやや高い場所が拠点予定の穴の床であり、ソコから落ちた俺の目の前には石灰岩が削られた地下空間へと続く緩やかな下り坂と、この先には開けた空間に日の光が差し込む地底湖が広がっていたのだ。


どうやら地下水の通り道が侵食された洞窟の屋根を踏み抜いたらしく、その水の行く先はここに来た初日に落ちそうになった縦穴の地下に繋がっていたのである。


『あっぶねぇ…初日にここの真上の薄すそうな天井の上を呑気にウロウロしてたのか…俺…落ちていたら大変な事になってたぞ…』


と、今になり馬鹿みたいに危険な行為をしていた自分に気が付き、キャンタマがヒュンとする俺は、ムラムラ、ヒュンヒュンと騒がしい下半身に嫌気がさしながらも、


『この洞窟で暮らせば危険な動物も来ないし、水も新鮮なのがチョロチョロ地底湖まで流れている…それに上から落ちて来たのか小枝や流木みたいなのが地底湖の岸辺にあるから焚き火も出来そうだし…あとは食料か…』


と辺りを見ると、得体の知れない虫を見つけ、


『マジか…あれって…食えるのか?』


と数少なそうなたんぱく質として虫を眺めていたのだが、その虫が食べれるかどうかを確かめる為に実際食べてみないと、俺の解析スキルさんが発動しないというジレンマに苛まれ、一旦見なかった事にした俺は、


『あとは食料かぁ…』


と、時間を巻き戻したかの様に再び辺りを見回してみると洞窟内で光が差し込む地底湖周辺の岸辺に、この世界に来て初めての食事としてお世話になった日陰苦草の群生地を見つけた俺は、


『よし、ギリギリ食料もある!』


と安心し、俺と一緒に落ちて来た荷物もあるので、


『ここをムラムラが落ち着くまでの拠点とする!』


と、自分に言い聞かせる様に

宣言するのであった。



読んでいただき有り難うございます。


頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。


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