第23話 神様の像
さて、試練に挑むのであるが、神の像とやらはこの恨みのモノリスが並ぶ部屋には無く、やはりこの部屋の先の坑道の奥にあるらしく、試練のルールとしては、
【待機所に見届け人を残して一人で向かい、神の像の前で3日は過ごす】
というものであるが、試練に持って行ける物が水袋の水だけというルールなので一週間も出て来なければチャレンジ失敗となり、救出するか放置するかは見届け人の判断に任せるというものらしく、今回は先に俺が行って、一週間戻らなければ二人で下山して村まで帰る事を約束させた。
『思いの外この試練が危険で俺が死ぬようならば、村を出る前に頑張って狩りをして強くはなったキヨさんとガリさんだけど、レベル的に俺より少し低いので、多重遭難的に全滅…なんて話も無くはないからな…』
という考えなのであるが、二人はこの提案に、
『兄貴を置いては…』
みたいな感じにもっとゴネかと思ったら、
「兄貴が村長や前村長が無事に帰って来た試練を失敗するはず無いよ」
「そうそう、それより兄貴が帰って来たら一回下まで狩りに出かけて薪やら肉やら野草やらを集めてお祝いしましょう」
などと、全く心配していない様子である。
木も生えておらず草もまばらにしか無いこの洞窟周りの山には、隠れる場所すら無い為に、木の実を探す小型動物も草食動物もあまり見かけず、肉食動物も見かけない安全な場所の様で、
『洞窟の中で特殊な生態系が…』
最初は少し警戒したが、地底湖の時には探さずとも視界に入った虫すら神々の墓と呼ばれる洞窟内では見当たらないので、寒ささえ何とかする薪が有れば保存食もまだあり、鍛冶に使ったであろう整備された水場も有るので、
「なら、サイショに三人で、薪ヲあつメテ、明日から…」
と、最大一週間分の薪を三人で蓄えてから試練に挑む事にしたのである。
いくら安全とは言え下の森に薪を集め行けば森にはそれなりに生き物は居るために全く安全とは言えない…というかこの二人は【警戒】というものがちょっと足りずにヒヤヒヤする場面がここまで来る道中も何度かあり、俺が試練の間に、
「薪が足りないなぁ…取りに行くか…」
などと、軽い気持ちでウガウガ言いながら山を下り【全滅】というのだけは避けたいからなのだが、ガリさんは
「知ってますよ…兄貴って、あんまり寝てないんでしょ…」
と俺を心配し、キヨさんも、
「そうだよ、薪集めはオイラ達に任せて…」
と言ってくれるのだが、
『そもそも、その二人行動に不安を感じてるのである』
俺は二人に、
「今夜は、シッかり寝るカラ、大ジョウブ」
と、説得し十分な薪と少しの野草と、一匹のキモいバランス(仮)を狩る事に成功したのである。
『あのキモいバランス(仮)はこの山の下の森の固有種なのかも知れないな…目が見馴れたのか数匹の小規模な群れまで見ることが出来たが…集まると更に気持ち悪かったなぁ…』
などという感想と共に洞窟に戻り、一眠りした翌朝、
「さぁ兄貴、試練に向かう前にたんと召し上がって…」
「水しか持って行っちゃダメでも、お腹の中に蓄えて行ってはダメとは言われてませんからね…」
などと、どこかのトンチ小僧のような事を言って、今回はキモいバランス(仮)の美味しい部位を中心に俺の腹をパンパン状態にして送り出してくれたのであった。
ちなみにキモいバランス(仮)の鼻は牛たんみたいな歯ごたえで集落の塩で食べると白飯が欲しくなる旨さだった…
『白飯が食いたい…』
と、少しこの世界が嫌になりそうになる事はあったが、膨れ過ぎた腹を擦りつつ二人に、
「行ってクル…」
と告げて坑道へと入ってゆく…未知の場所に向かう俺だが不安よりも、
『よし、ムラムラ止めをキヨさんとガリさんに少し分けたから、減った分をここで節約すれば旅の最後まで薬の数が足りるかも…』
という安心感があり、今朝飲んだ分を最後に再び二人に会うまで服用を止める事にしたのだ。
『あ~苦しい…あんなに食べるんじゃなかった…』
と思いながら進む坑道は分岐しはじめて、まるで迷路の様になって来ており、
『迷わない様に…』
と緊張するが、心なしか上の広い空間よりも少しだけ暖かく、温度が一定で過ごしやすいのはありがたい、
『まぁ、知恵と度胸を試す試練らしいからな…そんなに危険はないだろう…』
と納得する俺であるが、脛かじりニートのクズとはいえ往年のファミコンゲームプレイヤーを舐めてもらっては困る…片手を壁に当てながら進めばスタートとゴール以外の出入口が無い単純な迷路であれば移動距離は増えるが必ずクリア出来るのである。
俺は入り口から左手を壁に沿わせて進み、突き当たりまで行けば左手を壁に沿わせたままUターンをくり返し半日程歩いてどうやら目的地に到着した様であった。
迷路は【複雑】というよりは単純だがハズレルートがひたすら長く、迷わせる為では無く【何かを探して掘り進めた坑道が複数ある】と言った雰囲気で、運さえ良ければ3ヵ所ほどの分岐点で当たりを引き続ければ最短ルートの一本道だと俺のダンジョン系ゲームで培った脳内マッピングが言っている。
『迷路で迷うより腹パンで動き難かった方が問題だったがそれも途中の行き止まりでモリッとサヨナラしたので今は問題なし状態だモン!』
と到着した目的地には神様の像が土下座姿勢で俺を待ち構えていたのである。
どう考えてもボクチン神様ではないその神様の像…というかそれは生身の人では無くメタルボディのロボット…と言った方が近い見た目である。
何故ゆえ土下座ポーズかは不明であるが、どう考えてもちゃんと動きそうな間接部の作りに、プラモの様にポーズを変えようと軽い気持ちで力を入れたが、ピクリとも動きはしない…
『まぁ、俺の身長の倍は有りそうな金属の塊がプラモの様に動かせるはずも無いか…』
と諦めて、暗闇でも視界が利くというオジサンの数少ない利点を生かしてこのロボ部屋を見回し、
『こんな何にも無い空間で3日か…』
と、動かせない事でほとんど興味を失った知らないキャラクターのロボットが土下座する部屋でヤることも無くボンヤリしていたのであるが、他に見る物もなく渋々センスの無い土下座ロボの鑑賞に入ったのである。
ドワーフさんの遺物なのか外装は立派な鎧の様であるが背中のバックパックにはイカニモな噴射口があり、
『飛ぶか、加速かは出来そうだな…』
という雰囲気はある。
ただ、こんな重そうなモノに推進力を与える規模かと言われると、無重力空間用のスラスター程度の大きさに、
『本当に何なんだコレ?』
となってしまうが、なんと俺の鑑定スキルさんはコイツの事を知ってらっしゃるらしく、
【プロトタイプ魔道甲冑】
【詳細は不明】
とあるので、ベースとなった機体はボクチン神様の管理下の世界で作られたらしく、推測であるが上の待機所である神々の墓で読んだ碑文から、エルフ族との共同開発で完成品はエルフに納品し、その後に代金は踏み倒され、対抗勢力となる新たな魔道甲冑が作られない様に重要部品の納品までストップさせたエルフに一撃加える為に、研究所のプロトタイプを改造してエルフとの戦いに導入したが、ボクチン神様にこの世界に搭載していた船ごと飛ばされた…というのがオチだろう。
『お気の毒な…』
とは思うが、それだけである。
『坑道の奥にドワーフ族の隠れ家や、そのヒントでも…』
と考えていたが、とんだ肩透かしのようだ。
半日歩き続けた事もあり、この日、俺は一口だけ水を口に運び、静かに眠る事にしたのである。
そして翌朝…というか多分翌朝…暗闇の為に自信は無いが、オジサンとしての本能が目覚めており、ムラムラしている事から、
『薬が切れているから出発から1日は経った』
と、勃ち上がった俺の息子とキラキラネームっぽい娘の穴るちゃんが、
『恋しちゃいなよぉ!』
とばかりに騒いでいるのである。
【前村長様…貴方の弟子の村長さんのお薬…凄く効いていたみたいです…】
と、『塩焼き集落に届け!』とばかりに届かぬ報告をしながら、硬い地面に爪から血を流しながら穴を掘りそこに欲望をぶちまけた後、賢者になった俺は、
『知ってるよ…大体ヌイてからどれぐらいで再び野獣に戻るのか…嫌な体内時計だな…』
と、穴を見つめたまま虚無感の中で…少しだけ涙も流していたのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




