第19話 塩作りで変わる村
牙ネズミ夫妻の尊い犠牲により塩水の井戸が完成した。
ちなみに後でスタッフが美味しくいただきました…塩味が染み込んでいて中まで美味しかったです。
という事となのだが、問題は製塩の為の小屋である。
オジサン種は穴を掘って巣とする為に【建築】という文化がなく、雨や風の強い日も安全に火を扱え、煙のこもらない小屋は勿論、塩を仕上げる時に乾かす風通しの良い作業小屋も欲しいところであるが、横穴式のお家ではそれは叶わないのだ。
村の周辺には、石、粘土、木材など建築に活用出来そうな資材がゴロゴロしているのであるが、問題なのは俺の知識の無さなのだ。
【家作りとは穴堀りである】というオジサン達はに知恵が借りられそうもないので、何とか俺が絞り出すしかないのではあるが、小学校の時に夏休みの自由工作で割り箸ログハウスを作ったのと、海外の男性が森の中でそこら辺の材料で秘密基地を作る動画を見るのが好きだったぐらいでは、どうしようも無いのである。
しかし、バカはバカなりに考えた末に、粘土と石で塩焼き用の素焼きの壺を熱する事が出来る竈門を作り、その竈門を守るように木の皮を剥いだ丸太を神社の鳥居みたいにロープでガチガチに縛り組み上げた物を何個か用意するのだが、この時、最初に建てた鳥居パーツより隣の物は徐々に鳥居の足の長さを低くするのである。
するとあら不思議、祭りの屋台テントの屋根みたいな滑り台っぽい片方だけに傾斜のついた屋根の土台となり、あとはそこに細い丸太を縛り付けて、隙間から雨が進入しない様に粘土でも屋根の丸太の間に塗り込めば完成なのだ。
いや、本当なら焼き物が得意な村人に瓦みたいな物を作って欲しかったのであるが、説明のしかたと、現物の使い方の知識が俺に無かったし、森の材料で秘密基地を作る海外の動画を参考に竹を半分にして組み合わせた屋根を焼き物で…とも考えたが、
『あれってどうやって屋根に固定するんだ?』
と、興味津々でちゃんと見た訳でなく、有り余る時間を持て余し、何となくで見ていた事が仇となり、肝心なところで俺の微妙な建築知識は全く役に立たなかったのである。
『まぁ、粘土が雨で溶けたら追加で塗れば良いし、下でジャンジャン塩を作るのだから竈門からの熱い煙で粘土も乾くだろう…』
という考えで、あとはトライ&エラーにて少しずつ良くして貰えれば…と願っているのだ。
しかし、驚くのは俺の薄い建築知識を、
「凄い、凄い!」
と称賛してくれた村のオジサン達は、塩焼き小屋の隣に作業小屋を建て終わる頃にはこの技術を会得して、
「日差しが入る方を入口にしてあとは横を塞ぐか?」
とか、
「雨水が入って来ないのなら地面に穴を掘って貯蔵庫も作れねぇか?」
などと、俺が教えてないのに【明かり取り】や【壁】、それに【地下倉庫】などのアイデアをバンバン出してくれ、終いには、
「ウチもコレにするか!」
「おう、良いな!」
「じゃあオラ手伝ってやるから、オラの時は手伝ってけろ」
などと、マイホームの新築計画でウガウガと盛り上がっていたのであった。
『やっぱりオジサンという生き物は、異世界であっても日曜大工が好きが一定数いるらしい…』
そして、月日は流れ…俺はというと、
「アニキっ、お歌うたって」
「ダメだよ、兄貴さんは今大事なお話してるんだから…」
などと、俺の齧られた足が治って、村へのお礼に不平等な岩塩との物々交換からの解放を目指して塩作りの技術と製塩小屋建設のお手伝いを終えたので、
『そろそろ目的の山を目指すか…』
と、考えていたのだが、キヨさんとガリさんに強く引き留められ、
「いや…強クなりタイし…」
などと、理由を言って何とか説得しようとしたのであるが、二人は、
「兄貴、強くなるならココでも成れます」
「そうそうオイラ達も兄貴と一緒に強く成りたい!」
と食い下がり、俺が、
「いつマデモ、シュう会ジョでは…」
と村の集会所で寝起きしている事を理由にすると、
「兄貴が出ていくって言ってますので…」
などと、村長さんや村の皆まで巻き込み、
「村に巣をモったら良いゾイ」
という村長さんの一声により、
「兄貴さん、どうしやす塩焼き小屋みたいな家にしやすか?…それとも集会所に横穴開けて兄貴さんの巣にしやすか」
などと家作り大好きオジサンや穴堀り大好きオジサン達がウガウガと騒ぎだし、果ては子育てママさんチームのオジサン達まで、
「アニキさんが、出ていったら困りますから…」
と言って、子供のオジサン達を使い、
「アニキ、居なくなるの?」
「アニキ、行かないで!」
「アニキ、オシッコ行きたい!」
と、俺の情に訴えかけるのである。
知らぬまに村人達に「兄貴」、「アニキ」と呼ばれ、生前は余り勉強もせず、何の役にも立てず、誰からも頼られ無かったような云わば残念なクズ人間だった俺を【知恵袋】として頼ってくれ、【歌い手】として村の役に立てている様子である…
『出ていくならもっと早い段階だったな…』
と観念した俺はこの村で巣を持ち、拠点として強くなる事に決めたのである。
それからは早朝は狩りのチームに同行し、午前中は子育てチームのお手伝いとして子供達と遊び、昼からは建設現場や塩焼き小屋の作業の様子をみたり、軽く村の手伝いをしたりして、雨が降れば朝から皆で集会所を中心に各自のんびりと自由時間を楽しむ…そんな生活を続けて現在の俺は、
『雨なので狩りは休みにして集会所にて【今後の村の方針】について話し合いのコーナー』
に参加している。
木のウロを使用した巣穴のご家庭はなどは風向きにより雨が吹き込む事もあり、村で一番広い洞窟であるこの集会所は避難所として早朝から人が集まり、
『今日は雨だからのんびりしましょう…』
という他のご家庭の皆さんも合流して、子供達が元気に走り回り、ママ友のオジサン達が子供の様子を気にしながら、蔦を煮て取り出した繊維でロープを作ったり、その繊維を使い革製品を獲物の骨を磨いて尖らせた針などで器用に縫いあげて、村に巣を持つオジサンの組合は子供達の相手を片手間に村長さんと次期村長さんを中心に緩い感じで会議をしているのである。
正直な話、岩塩の物々交換の為に一年を通して、かなりの量の壺を焼いたり、革製品を作ったり、危険な場所に無理して黒曜石を取りに行っていたらしいのであるが、村の中で塩の安定供給が出来る様になった今、必死に貿易アイテムを用意しなくて済み、時間的にも労働力的にも余裕が出来た村の次なる目標は、
【安全で快適な村の暮らし】
である。
昨年はガボの親子にかなりの犠牲を出されたこの村では、防御力も攻撃力も改善の余地があり、伝統的なのだろうが立地的に雨の度に濡れて風邪をひく事を避けるべく避難してくるのも大変であり、住居の改革も急務である。
そして、巣持ちの村人が中心となって作っている特産品である焼き物も岩塩の為にとにかく数を用意していたが、より良い物をこだわって作れる様になったので、今度は良い商品を使って他の村から良い条件で物々交換が出来るチャンスとなり、
「では、次の北の村との物々交換は岩塩と交換せずに、あちらの特産のベェを持って来させて村で繁殖させるので良いですか?」
と議長である次期村長が訪ねると村人達は、
「賛成」
「それが良い」
などとウガウガ言う。
すると村長の、
「では決定ゾイ」
の一声で来年から酪農もこの村で開始される事となったのである。
ちなみに【ベェ】というのは北の村から岩塩を運んで来ていた牛のような家畜であり、アレさえあればこの村の商品を大量に近隣の集落に運べ、物々交換で村に必要な物が集められるのである。
岩塩欲しさに足元を見られ不当な取り引きをしていた時には見られなかった活気が戻ってきたらしく、村長さんは、
「子供のコロの村に戻ったみたいだゾイ」
と、備蓄していた岩塩が残り少なくなり、大人のオジサンが今後の村の為に熱く語っていた昔を思い出し、満足そうにされていたのであった。
すると会議をしている隣でロープ等を作っていたママさんチームの数名が、
「いいな…今までもウチの故郷より豊かだったのに…あと半年ほどで出て行かないと駄目なんだから…」
「そうそう…」
などと残念そうに話しているのを聞いた村長さんが、
「だったらワシの作る新しい村に来るゾイ」
などと、子育てが終わると旅立つ予定のママさん組合のオジサン達を勧誘しているのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




