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TS爺、百合エロゲ―の世界のダンジョンに挑む  作者: 蒼井茜


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魔法の授業

ゲリラ更新!

 さて、そんなこんなで魔法関係の授業に出る事になったのだが……。


「今日はおさらいとしてシールド魔法を教えましょう」


「せんせー、それって今まで授業に出てなかった人がいるからですかー?」


 クスクスという笑い声と、私を馬鹿にする言葉。

 この程度では腹は立たないが……まぁいざとなったら服だけ溶かすスライムぶっかけてやればいいか。


「それもあるが、シールド魔法は使い勝手のいい魔法でね。本人の技量次第だけど大抵の攻撃は防げる、つまり今後ダンジョンに潜る際に命を拾える可能性が広がるのさ」


 先生はおじいちゃん先生だが、その貫禄からは高レベル特有の圧を感じる。

 あれだ、月神家の道場にいる師範と仮想いう人達。

 最前線で戦い続けてレベルを上げていった連中特有の雰囲気とでもいうのだろうか。

 まさしく歴戦の猛者。


「じゃあスキルで盾作れるだけの人が覚える意味って何ですかー?」


「いい質問だ」


 相も変わらず、私を馬鹿にする言葉を付け加える女子生徒。

 ちょっとイラっとしはじめたぞ?

 服だけ溶かしてやろうか?


「スキルというのは基本的に、そうだね……使用者に依存するんだ。つまり使用者が成長すればするほど、スキルを使えば使うほど強力になっていく。一方で魔法は魔力を込めればそれだけ強くなる。他にもあるけれど、一番はこれだね」


「じゃああたしが本気のシールド魔法使ったらイージスよりも硬くなるかもしれないってことですねー」


 おう、喧嘩売ってるんだな?

 言い値で買ってやるぞコラ。


「それはどうだろう。けれど試してみたいなら、どうだろう月神さん」


「構いませんよ。というより常時身体の表面を覆うようにして展開しているので不意打ちでも問題有りません」


「そうですか。ではお二人とも前へ」


 言われるがまま、煽り女子と共に前に出る。

 凄いにやにやしているが……。


「ファイヤーボール!」


 突然魔法をぶつけてきた。

 火属性最下級魔法、ファイヤーボール。

 名前の通り火の玉を飛ばすだけだが、静江……というか天照家特有のスキルがあるとこれが全体攻撃になったり火力が数十倍になったりというコスパのいい魔法だ。

 今の一撃でもゴブリンくらいなら軽く倒せるかな……オークになるともう何発か撃ちこまないと倒せないと思うけど、それでも魔力消費から考えれば破格と言える。

 ただあくまでも、一般的に覚えられる魔法の中ではという但し書きがつくんだけどな。


「残念ながら届かない」


 最近覚えた……というか、ダンジョンで糸を操り続けた結果覚えたイージスの多重展開。

 基本的に耐空間属性を持っていても攻撃そのものの減衰はできる、ようするにどんな魔法でも多重展開したイージスで防ぎきる事も……理論上は可能だ。

 本当に理論上であって、今私ができるのは3枚が限界だけど。


「チッ……」


 おい、露骨な舌打ちするなよ。


「ほう、既にスキルが第二段階になっていますね。随分と無茶をしたようだ」


「それほどでも。ここひと月ダンジョンに潜っていただけです」


 その言葉に周囲がざわつく。

 ダンジョンに一カ月、言葉にすれば容易いがいつ敵が襲ってくるかもわからない状況で……例えるならアマゾンのジャングルで野営を続けるような生活をしろと言われれば現代人の多くが無理か嫌というだろう。

 例えスキルがあろうと、むしろ代わりに文明の利器をふんだんに用いたとしても、喜んでという奴は余程のメリットがなければいないだろう。

 私の場合そのメリットがあったからやったんだけどな。

 あるいは持ち前のデメリット打消し。


「ふむ、ひと月……ではスキルを中心に戦ったと」


「というより魔法の使い方を知りません。なのでスキルだけです」


「それは……無謀に近しい行為です。皆さんは真似しないように……と言っても今学園側が公開しているダンジョンはそんなに時間をかける場所でもありませんが」


 隠しダンジョンの多くは情報すら秘匿されている。

 もちろん部外者の宇宙服連中がうろついているのは目立つが、それでも隠蔽の魔法やそういう道具を使って身を隠している。

 つまるところ誰かが軟化やってる程度の認識しかされていないのだ。


「ではシールド魔法と、ファイヤーボールの魔法の使い方を教えましょう」


 先生の言葉に従い、魔力の練り方などを覚えていけば自然とそれはできるようになった。

 まずシールドだが、強固な壁をイメージしながら魔力を板状に展開する事。

 これは全ての基礎に通じるもので、魔力放出の得手不得手が見えてくるという。

 そういう意味では私は中の上から上の下といった塩梅らしいが、これも魔法を使い続ける事で伸びていくという。

 魔力量は別換算らしいので魔力強化の効果が乗らないのは残念だ。


 一方でファイヤーボールも基礎中の基礎、魔力置換という技術が使われる。

 本来ただのエネルギーに過ぎないそれを、炎という形をとるに足る熱エネルギーに変換する事。

 それが基礎である。


 これを覚えた結果、私にできる事が一気に増えた。


「ならこれを組み合わせれば……」


「ほう、初見でファイヤーウォールを作りますか。流石というべきですね。この魔法は魔力放出と魔力置換ができれば簡単に会得できますが、繊細な調整が必要になってきます。失敗すれば不発に終わりますね」


「けどこれではっきりしました。私が潜ったダンジョンは魔法殺しです」


「と、いいますと?」


「ダンジョン内は可燃性の毒ガスが充満していました。風属性でも水属性でも防ぎきることは不可能、途中で空気が枯渇するような環境だったので、イージスを用いてガスと攻撃だけを遮断して空気を取り入れる必要があったのです。魔法はその辺りの繊細なコントロールができない、言うなればスキルは網で魔法は壁です」


 そう、何を通して何を通さないという選択ができない。

 それがスキルと魔法の違いの一つだ。

 なんなら成長云々よりでかい問題ともいえる。


「正解です。スキルと違い魔法は繊細なコントロールを苦手とします。なのであらかじめ何を通すかを決めておく事でそのようなダンジョンにも対応するのが魔術、これは個々人が作り出すものですので軽々に教えることはできません。術式などは今後習っていく事になるので焦らず、じっくりとやっていきましょう」


 先生は皆を諭すように口にしたが、少し残念そうな顔をしている面々。


「それと繊細なコントロールだけじゃなく、発動可能範囲も決まっていますね。イージスは使用者から離れた場所に設置する事もできます。言いかえるなら後方から前衛の味方を守ったり、あるいは敵を閉じ込めたりという使い方もできますが魔法はその範囲が狭い」


「はい、それもスキルと魔法の大きな違いです。ですがスキルの遠隔発動はなかなかに難しい。今後魔法系スキルであれば簡単に覚えられると思いますが、皆さんは使用時の負荷を考えて用いた方がいいでしょう」


 魔法系スキル、要するに炎魔法Lvいくつというアレだ。

 最大は10だが、炎魔法を使う際に火力上昇消費魔力減少と美味しい効果がてんこ盛りである。

 私も覚えたいなと思っていたのだが、今スマホを確認すれば炎魔法のスキル取得と、それが忍術に統合されたという表示が出たのであきらめた。

 ……この忍術ってスキルな、実はとんでもないチートなの判明してきたんだ。


 例えば近接格闘術、これも最近忍術に統合されたのだが……というかほとんどの武器術も統合されてイージスと忍術のみという結構寂しい構成になってしまったのだが、それぞれが持つスキルのレベルを何段階か上げてくれるという面がある。

 一方でその使用範囲はかなり狭まる。


 普通に炎魔法のスキルを持っていれば最大で100m先にさっきのファイヤーウォールを展開する事もできるだろうけれど、忍術だとせいぜいが10mだ。

 火力強化、消費魔力据え置き、範囲減少と言った所だろうか。

 つまりこのスキル一個あれば大抵の事ができるソロプレイヤーになってしまうのだ。

 あぁ、いや、流石に回復系の光魔法は別かな?

 忍者っぽくない物は除外されそうだというのが推測なんだけど。


「さて……じゃあ、えーと、名前覚えてないけど煽り女子」


「白崎よ!」


「そうか、白崎。私の攻撃を受け止めてみな」


「やってやろうじゃないの!」


 そう言って展開したシールド、そこに向けて忍術に統合された炎魔法、もとい忍法を使う。


「火遁!」


 ボッと音を立てて広がる火炎を噴き出した。

 俗にいう範囲攻撃だが、この攻撃の狙いは他にある。


「熱っ! くっシールド! シールド! シールド!」


 追加で3枚、自分の周りを覆うようにして壁を出した白崎とやら。

 範囲ってことは正面だけ防いでも上や横から来る熱風は避けられない。

 そしてこれを防ぐために必要な魔力はかなり多いので、1秒の放射で息を荒くしている。

 その背後にはイージスでコーティングして、炎に焼かれないようにした糸が接近しているとも知らずに。


「ふ、ふんっ。どう……ぐっ」


 油断せずシールドを展開したままの白崎の首を糸が占める。

 イージスは既に解除しているので首が落ちることは無いが、あと少し強く締めればこのまま気絶するだろう。


「後方注意だ。シールド魔法を複数展開するくらいなら自分を包む球状にした方がいいな。その法が威力も分散出来て、多方面からの攻撃に対処できる」


「かはっ……はぁはぁ……」


 糸を緩めてやれば地面にしゃがみこんで荒い息遣いになった。

 ふむ、これ不意打ちとしてはかなり上等な手段だな。

 ただ普通に糸を操るだけと言っても志向が入り込むと結構好き勝手に動くから慣れが必要だ。

 あと今後は数と種類を増やしつつ、複数の糸を同時に多方面からというのも覚えたいものだが……練習あるのみだな。


「さすが、イージスを使い込んでいますね。その通り、シールド魔法は壁としての役割ばかりに注目されがちですが、上手く使えばダンジョン内で一時的な休憩所を作る事もできます。複数人で挑むなら交代でシールドを使う事で休息もできますし、不意打ちに耐える事も可能です。またそれらを補うための魔道具もありますので皆さんしっかり勉強しておくように。さて、白崎さん、月神さん、なにか補足はありますか?」


「……ありません」


 白崎が悔しそうに答えた。

 一方で私は一つだけ言っておくことがあった。

 このシールド魔法、イージスの互換だが本質は空間属性だ。

 魔力を壁として存在させるという事は、その空間を押しのけているのと同義。

 例えナノミリでもその場から全てを排除しているのだから。


「一つ、意地の悪いダンジョンや高レベルな敵は耐空間属性という能力を持っています。そのためシールドでは防げない攻撃も出てくるという事だけ」


「それは……余程のダンジョンでなければ存在しないと思いますが」


「先日まで潜ってたダンジョンでは服だけ溶かすスライム、つまり本来なら雑魚の代名詞になるような奴が持っていました。おかげで制服が一着駄目になりましたがね」


「……皆さん、今の月神さんの言葉はしっかりと覚えつつ、無茶なダンジョンアタックはしないように。そんなレベルのダンジョンは私でも死にかねません」


 真剣な表情で先生が全員に告げた。

 一方で私は耐空間属性服だけ溶かすスライムのコアを取り出して片手で弄び、まだ白崎が突っかかってくるようなら水遁とともにこれを投げつけてやろうと考えていたが……どうやら睨むだけみたいだ。

 まぁこの程度ならいいだろ。

 競争心って大切だからな。


 それより今後は忍術関係の強化もしていきたいところだ。

 イージスは、まぁまだまだとはいえ、それなりに使えるようになったしな。

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