報告会
「というわけで、あのダンジョンも魔力枯渇に近い状態だったんだろうな。エロトラップダンジョンにやられて媚薬ガスをたんまり摂取した。服だけ溶かすスライムもいたし、イージスですら防げない耐空間属性の能力に特化していた」
諸々の説明をしながらラーメンをすする。
保健室に運び込まれ、スライム除去剤をぶっかけられてから服を着せられてベッドに寝かされたはいいが、ぶっちゃけ私の身体に異常はなかったのだ。
なので三大欲求の食欲で性欲を上書きしているのである。
この後がっつり眠って、睡眠欲も満足させた頃には毒抜きも済んでいるだろう。
「なるほどね……けどアンデッド……」
「そう、そこが気になる。ゴーストとアンデッドは似ているがジャンル違いだ。それが同時に存在するなら相当力のあるダンジョンじゃなければ無理だな」
例えるなら和製ホラーと洋画ホラーの違いだ。
えーと、じわじわ系とドッキリ系の違いみたいな。
どっちも聖属性に弱いという弱点こそあるが、ジャンルとしては別物扱いになる。
なので本来は同時に出現するのは終盤ダンジョンクラスになるわけだが、今回のは良くて中盤。
だというのにそんなのが出てきた。
「仮説だが、過去のドリーマーがゴーストに操られてアンデッド化したという可能性は無いかしら」
「わからない。そもそものダンジョンが謎だらけだから仮説も意味を成さない」
「そうよねぇ……」
蓮野が困ったように顎に手を当てているが、正直な所私にもなにがなにやらだ。
ゲームと違うというのは問題ない、そもそも世界を演算するレベルのゲームなんか作れないんだから齟齬があって当然だ。
それ以上に抜け落ちている部分があるという事実が判明しただけでも行幸、今回のダンジョンアタックは錆を落とす以外にも得る物はあった。
ただ……問題はといえば私が暴れすぎると先の展開をある程度知っているというアドバンテージが薄れる可能性が出てきたという事だろう。
「それと新しいスキルを得た。魔力を増やすスキルだ」
端末を操作し、自分のスキルを見れば魔力強化の文字。
そしてその前に操糸の文字……糸を操るスキルか?
「これは……」
試しに手元に置いておいた釣り糸を手に取り、魔力を通してみればある程度思い通りに動いてくれた。
ただ、少しばかり操作が難しい。
イージスでやるよりも直感的だが、だからこそ多少の思考がノイズになって反映される。
なるほど、これは便利そうだが難儀なスキルだな。
と、思っていたら忍術に統合されたと表記された。
……いや、便利なんだけどさ、忍術チートじゃね?
多分これから覚える魔法とかそういうのまとめて忍術に統合されそうな気がする。
そうじゃなくても忍術スキルで代用できそうだ。
……やっべ、もしかして本当に強いのイージスじゃなくてこっちか?
「忍術……情報がないのよね。けどとんでもないスキルっていうのはわかるは」
「蓮野もそう思うか」
「静江さんも同意見みたいだけど、今は授業中だし話を聞くのは後でになるかしら」
「そう言えば今そんな時間か……」
普段授業に参加していないからうっかりしていた。
静江もその辺許可得たうえで授業に参加してなかったからな。
どういう変化か、私がダンジョンに潜っている間は大人しく授業受けてたらしいけど。
「どうにもね、もっと強くなりたいって思ってるみたい。今でも十分強いけれど、それはあくまでも一般的なドリーマーに比べた強さ。命を基準にすれば弱いでしょ?」
「……まぁ、強いとは言い難い、とだけ」
事実静江は強い。
けどそれは世間一般から見た場合で、まだまだスキルを使いこなせていないし、魔法だって中途半端。
中学生という観点からすれば相当な戦力と言えるけれど、それでもトップ層のドリーマーには手が届かない。
そんな中途半端な位置にいる。
ぶっちゃけ蓮野でも静江相手ならまともに戦って勝てるだろう。
それもスキルを使わず勝てる、その程度でしかない。
「まぁそういうのもあって今は座学も武道も全力で挑んでいるみたいよ。今まではあった余裕……というか油断が無くなった。あの子は強くなるわ」
「ほう? じゃあ私はどうだ」
「言うまでもないでしょ。そもそも未確認ダンジョンを一人で踏破できる人間が何人いるかって話よ」
デコピンされながら蓮野の言葉を受け止める。
けど、まだ足りない。
私が、前世を含めて知っているこの流れが、気に喰わないものが多い。
いわゆるバッドエンドや胸糞ルートってやつだな。
それをへし折りたい、そんな願望……いや、希望が湧いてきたんだ。
ゲームと仕様が違う?
いいじゃないか、だとしたらクリアまでに必要だったあれやこれやの糞イベントを踏みにじる事だってできる。
そのためにどれほど強くならなければいけないのか、なんてのは横に置いておきながら、けれどとにかく強くなればいいんだろうという希望が湧いてくる。
「蓮野、調査が終わったダンジョンとそうでないダンジョンのデータをくれ」
「……また潜るの?」
「中学の3年間を有効活用したい。ただ調査に同行するだけっていうのは性に合わないからな」
「わかった。ただし魔法の授業にはちゃんと出席する事、それができないなら今後は普通の授業も受けてもらうわよ」
「……しょうがないな」
「というわけで、これ教材一覧ね!」
どどんと、蓮野の指輪から取り出された分厚い書物。
……明らかに中学生向けじゃないものまで混ざっているが、どれもが魔法に関する本だった。
「これ、どの程度の範囲なんだ?」
「そうねぇ、大学の選考クラスまでは網羅しているわ。流石にその先の研究職用まではまだ早いかなって」
「そうか……授業参加、来週からでいいか?」
とりあえずこいつらを読み終えてから参加したい、そう思っての言葉だ。
断じてサボりたいという理由じゃない。
「じゃあこの後月神の実家で毒抜きね。まずは点滴をして……」
その言葉を聞いて私は飛び起き、窓枠に手をかけたところで蓮野に抱きかかえられた。
「はなせ! 注射は嫌だ!」
「だーめ」
くそっ、振りほどけない!
なんでこいつこんなに強いんだよ!
この時点だとまだレベル引くはずなのに勝てる気がしないのはなんでだ!




