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TS爺、百合エロゲ―の世界のダンジョンに挑む  作者: 蒼井茜


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エロトラップダンジョンだよ!くそったれ!

 ダンジョンの大半は腹ペコである、というのが私の持論だ。

 そのうち論文にでもして高く売りつけてやろうともくろんでいるのだが、その代表例がエロトラップダンジョンである。

 数こそ少ないものの、悪辣な罠や敵が出てこないダンジョンの多くに存在する隠しエリア的なソレ。

 生かさず殺さず永遠に魔力を搾り取る事を目的とした……ある意味では最も質の悪いステージともいえる場所。

 具体的に言えばイージスの空間遮断という特殊な属性すら無視してくるエロ攻撃の数々は、それらがリソースの大半を耐空間属性に舵を切った結果と言える。


 そして今回のエロトラップダンジョンもその例にもれず、絶えず展開していたイージスの膜を突き抜けて私の四肢に攻撃をしてきた。

 徐々に思い出してきたが、このダンジョンの特性は拘束である。

 アンデッド、主にゴースト系を中心に配置された低燃費なダンジョンは表向きの話。

 そこに付随するガスは死体から回収した有毒性の物というだけで、あくまでもおまけにすぎない。

 本質は完全に空間属性に舵を切った悪辣な罠とエロへの執着だけである。


「あー……そうか、ここだったな」


 思わず声が漏れた。

 両手足にはめられたリング、それらが一瞬魔力を発したと思ったら地面にべしゃりと落ちる。

 幸い肉壁のような、というか文字通り脈動する肉で形成されたダンジョンだからこそダメージは皆無だが、生肉に顔面から突撃するというのは気分のいいものではない。


 空間転移四肢拘束、要するに感覚こそ繋がっているが手足を胴体から離してしまう事で物理的な阻害を不可能にするという糞みたいなトラップだ。

 しかも回避不可能、防御不可能というTRPGならばGMの顔面を殴りかねない悪辣さを持ち合わせている。

 だってこいつら勝手に転移してきて、こちらの手足を奪っていくからね?

 幸いにして転移範囲が決まっているからそこまで遠くには行っていない。

 視界内にそれらが存在して、指先や足首を動かせることにひとまず安心する。

 問題はここからだった。


 まずイージスで糸を操り両手を身体に向けて引っ張る。

 リングの特性は二つに分かれる事で短距離転移による拘束をしてくることで、断面を合わせればリングも外れて自由の身になれるというものだ。

 おまけとして解除後はリングを装備アイテムにできるが、魔法以外の一切の攻撃をできなくなるという誰得な効果を持っている。

 ……一応、本当に一応だが、これを装備した状態で特定の場所に連れていく事で新しいエロシーンを拝むことができるが、それ以上の使い道のない糞アイテムである。


 そんなリング対策ができていたのは僥倖だが、空間属性は馬鹿みたいなコストがかかる一方で、逆に馬鹿みたいにコストがいいダンジョンの特性もある。

 その代表格が依然持ち帰った服だけ溶かすスライムだが、あれはいくつかアドオンが追加されており痛覚遮断やらをじわじわと浸透させていくものだった。

 その烈火版というか、オリジナルである、文字通り服だけしか溶かせないスライムが登場した。


 こいつらは安い癖に改造の幅が広く、そしてダンジョン内のあれこれに適応するため耐空間属性が蔓延しているこのステージにおいて勝手にそれらを習得するという厄介な特性も持っているため、私の制服が徐々に溶かされていく。

 まーたダンジョン出た時素っ裸か……今回は調査員がいるし、静江や蓮野もいるから大騒ぎになるのは目に見えているが着替えなど持ってきていないのであきらめた。


 余談だが、ダンジョンに潜るドリーマーにとって一番重要なのは何かと問われた際に多くの者が精神力と答える。

 その理由として着たきり雀で、風呂もシャワーもなく、食事は貧相、水もダンジョンによってはあまり口にすることはできず、トイレなんて気の利いたものは無い。

 さらに敵がいつ出てくるかわからないため、安全地帯など存在しないダンジョンでの休息は常に不足する事になる。


 ようするに塹壕戦だな。

 前世で経験したからこそ、そして記憶に強くへばりついているからこそ私は耐えられているが、普通の女学生なら半月も潜れば憔悴して、ともすれば精神的な病気をバステという形で得る事になる。

 ……多分静江連れてきたらここに到達する前に精神が限界だっただろうし、蓮野も引き連れてここまで来られたとしても手足を転移させられた時点でパニックを起こしていただろう。

 下手すればギャン泣きしていたかもしれないと思うと……いや、意外と連れてくるのも悪くないか?

 あの整った顔が悲哀にまみれるのは、それはそれで一回見てみたいものがあるが……まぁ性癖の話を抜きにすればそのうち嫌でも潜る事になるので適当なダンジョンで一週間くらい遊んでみるのもありかもしれないと考えておこう。


「さてさて、裸になるのが早いか、それとも腕を引き寄せるのが早いか」


 釣り糸を使っていたからこそ、衣類と判断されなかったのか腕を引っ張っている糸は溶かされていない。

 だが腕を覆っている衣類は全て溶かされてしまい、糸一本の出力ではそこそこ時間がかかってしまっている。

 多分裸になるのが先だろう。

 そう思っていた矢先、部屋を桃色の煙が満たし始めた。


 媚薬ガスである。


 追い打ちと言わんばかりに呼吸のみならず、皮膚からも浸透するガスが噴霧されたことで肉体の感度が上がり、スライムの這いずる刺激すら身もだえしそうになるが我慢である。

 思い出せ、前世で毛虱と戦い抜いた塹壕戦の終盤を。

 ……いや、やっぱトラウマほじくり返す事になりそうだからやめておこう。

 というか、あれに比べてしまえば大抵の事はどうでもよくなって寝落ちしかねない。

 そのくらいにきつかったのだ。

 隣で寝てた戦友がひき肉になっているのは珍しくなく、死者生者問わず垂れ流す糞尿の臭いに鼻をやられ、爆撃で耳をやられ、視界は砂ぼこりで奪われ、冷え込みにより手足の感覚が無くなり、ついには食料も水も尽きて血の味しかしなくなるという五感ほぼ全てを奪われた状況に比べれば大抵の事は昼寝して考えるくらいの時間ができてしまうのだ。


 かくもいじらしく、どうにかこうにか右手が肩に触れた。

 そのまま身体をひねり、更に糸を使って断面を繋げればリングはポロリと手首まで落ちて右腕が自由になった。

 そのまま近くまで引き寄せた左腕を掴み繋げ、匍匐前進で妙な形状に変形し快感を与える事だけを目的にしたような悪辣な肉の床を這いずる。

 ……正直、気持ち悪いというのが本音だが媚薬のせいで多少敏感になった肉体にはきついものがあったが、それでも足を繋いで奥に見える光の球を見据える事が出来た。


 随分と強力なガスも耐空間属性だったのだが、それを加味しても多量摂取により毒になっているのだろう。

 ふと思いついて近くのスライムのコアを引き抜き、同時に空っぽのボトルにガスとスライムを詰め込む。

 こいつら空間属性をはじめとする防御無視の能力を持っているのなら使い道もあるんじゃないか、そうじゃなくてもいたずらには使えるのではないかと考えた結果である。

 いやなに、立場上私はいじめられっ子でもあるので、万が一の時はムカつく奴に投げつけてやるだけで十分な仕返しとなろう。

 下手したら一生モノのトラウマになるかもしれないが、それは加害者に回っていた自分を責めてくれ。

 ついでにリングも確保できた……と思っていたら壁際に無数の転移拘束型リングがいくつもくっつけられているのを見つけた。

 ふむ……せっかくだから何個か貰っていこう。

 使い道は、案外多いかもしれんからな。


 そう思いながら光の球に触れると、視界が光転して見覚えのある集団の前に放り出されていた。

 ダンジョンの外、調査員たちの宇宙服じみたそれらであった。


「きゃー!」


 いや、悲鳴上げるの私の側では?

 と思いながら、その野太い悲鳴を上げた誰かを捜していると方々からバスタオルが投げつけられた。

 ……すまないが、服だけ溶かすスライムというのは正しく言うと編み込まれた繊維を食べてしまうスライムなのだよ。

 じゅうじゅうと音を立てながら、徐々に食われていくバスタオルを暗闇で確認できないまま私は持ち上げられてどこかへ運ばれることになってしまった。

 ……どうでもいいが、コーヒーが飲みたいな。

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