梅昆布茶、実は好きじゃない作者
「ふむ、まぁ及第点ね」
「厳しい評価で」
「いえ、十分凄いわよ? まだ10歳だっていうのにうちの学校の問題集を難なく解いているんだもの。もちろんミスはあるけど数学に至ってはほぼ満点、国語は書き取り読み取り問題なく、読解力よりも至高性の違いで満点に届かないものの結構な物。科学や生物、歴史だって苦手分野だというのに赤点になっていないもの」
その辺は学校向け教材の丸暗記だな。
分厚い教科書だったが暗記して上書きすれば問題ない。
爺の得意分野だが、嫌な事を上書き保存で消し去るってな。
「それとこれ、さっき命が気になるって言っていた本も用意したから」
「おぉ、助かる。流石姉さんだ」
「そこはお姉ちゃんと呼んでほしい所ね」
「ご褒美は結果の後に、だろ?」
「なまいき」
むぎゅっと鼻を摘ままれ……いてえいてえ!
「ふごふごと何言ってるかわからないわねー」
「はなひぇ!」
「んー、なにかしらぁ」
咄嗟にスマホを手に取り文字を入力する。
そして自動音声でそれを流した。
『離さないとお姉ちゃんと一生呼んでやらないぞ』
ピタリとその手が止まった。
にやにやとした笑みを浮かべていたのに、真っ青になって手を放す。
「冗談だ……ただ普通に痛かったし苦しいから次からは別のやり方で頼む」
耳を引っ張られるくらいなら……いや、あの力だと引きちぎられそうで怖いな。
「そうね……じゃあ次は乳首を摘まむか……いや、いっそキスでも……」
「おいロリコン」
「何を言う! 可愛い妹にキスくらい普通だろ!」
「たぶんそれ普通じゃないし俺は知らん常識だ!」
「それ! つぎその俺って言い方したら本当にキスして口塞ぐわよ!」
「ヒッ……」
目がマジだ。
これは本格的に喰長を矯正……いや、記憶戻る前の状態にする必要があるな。
「あと口調も乱暴! もっと女の子らしくしなさい! 月神家の中でそんな口のきき方したら蹴り飛ばされるわよ?」
……口調は前世も今世も大差ないんだが、本格的に猫被りしなければいけないようだ。
そういやゲームの命も一定以上仲良くなると口調が砕けるお嬢様だったっけ。
「わか……りました」
「ぎこちないけど今は良し! それで、お姉ちゃんにおねだりしたいもの、他にない? アイスとか買ってくるわよ?」
今2月だぞ……暖房の聞いた部屋で食うアイスは最高だと思うが、少なくとも入院真っただ中の人間に喰わせるもんじゃねえな。
「梅昆布茶が飲みたい」
「……見かけによらず渋いチョイス。だけどそのギャップもまたあり! というわけでちょっと行ってくるわ」
「おー、よろしくー」
なんとも、元気な姉さんができたもんだ。
前世の記憶はとぎれとぎれで若い頃、子供の頃、そんで晩年しか思い出せねえけど悪くないもんだ。
思えば姉なんて初めてできたからな。
実兄と義兄がいたけど、実兄は今の俺よりも子供の頃戦地で死んだって話で、義兄は病弱故に徴兵こそ免れたが若くして死んじまった。
だからとし上に甘えるってのは新鮮だ。
あの二人の名前が思い出せないのが悔やまれるな。
……あぁ、あと兄貴って呼んでた相手が一人いたっけ。
チンピラのまとめ役みたいな人だったけど、俺も一時期世話になった。
結婚のきっかけもあの人だったか?
まぁいい、今は梅昆布茶が届くのを楽しみにするとしよう。




