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TS爺、百合エロゲ―の世界のダンジョンに挑む  作者: 蒼井茜


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どうしてこうなった!(なろうn回目)

「っ……!」


 ズキンという痛み、激しい頭痛と吐き気で目を覚ました。

 また前世の記憶だ。

 これは……あぁ、この世界と似た設定のゲームだ。

 和皇国、洋帝国、羅神聖王国、そんで共和国連合。

 この四つの代表国家からなる世界の設定集を読んでいた時の事だ。

 和皇国は小さいながらも資源が多く、しかしその大半は採掘と利益が釣り合わず放置されている。

 そして災害が多く、同時にダンジョンと呼ばれる迷宮もその一つに数えられる。

 ダンジョンの中には多種多様なモンスターが生息していて、たまにそいつらが外に出て悪さをするという設定だった。


 洋帝国や羅神聖王国なんかにもダンジョンはあるが密度は和皇国がぶっちぎりだったはずだ。

 国家での管理が間に合わないため、県や町村に管理をゆだねていた。

 設定的には日本に似ているが、その国土はおよそ3倍。

 代わりに天然のダンジョンとなった土地があるから実質使える場所は限られている。

 雑草のごとく勝手に生えてくるダンジョンは災害だが、災い転じて福となす。

 迷宮に住むモンスター共から得られるアイテムや魔石と呼ばれるエネルギー源となるそれらは高値で売買される。

 各国が魔石の収取とレアなアイテム集め、特に治療用に使われ、いざとなれば死にかけでも癒せるポーションと呼ばれる類は権力者や金持ちが莫大な金を積み上げて購入していく。

 低品質の物や、作れる物ならば一般人にも手が届く金額だがそれでも病院で治療するよりよほど高額だ。


 ポンポンと使えるのはやはり金持ちくらいだろう。

 あとは……あぁ、うん、最大の問題があったわ。


「百合エロゲ―かよ!」


「うわびっくりした」


 飛び起きた俺の前にいたのは若い女性……なんかこの人も見おぼえあるな?

 いや、見覚えと言うか……俺が知っている姿よりもうちょい若いか?


「あんたは……」


「初めまして、月神蓮野よ」


「……名乗る名前は無い」


「そう、スラムの子だったわね。まず最初にお礼を、貴方が言う通りの場所にダンジョンができていたわ。まさしくといった場所だった。中にいたのはゴブリンや小柄な鬼、つまり小鬼ダンジョンね」


「その対価が治療か?」


 身体を見れば包帯すら撒かれていない。

 ポーションか、治癒魔法による回復だろう。


「それは前金といったところね。少なくとも人が立ち寄らないスラムの一角に、初心者向けのいいダンジョンが見つかった。しかも飽和寸前であと少し遅ければあの一帯は大変なことになっていたでしょうから」


 ダンジョンブレイク、スタンピード、モンスターボム、呼び名は色々あるがダンジョンが発生してからモンスターが増え続ける事で普段は内部に留まっている連中が飛び出してくることを言う。

 これこそがダンジョンが災害とされる所以であり、常にダンジョンは警戒されている。

 どの国でも一般市民だろうと最低限の自衛はできるように訓練されているが、それでも万全ではない。

 スラム出身者はその訓練も教育も受けられないし、俺と同年代であろう子供だって同様だ。

 年齢制限があるからな。


 少なくともスラムは壊滅して、そこからあふれた小鬼連中によって多少の被害が出ただろう。

 そんでもって犠牲者の数に関わらずスタンピード……一番使われている呼称だが、これを起こした自治体の人間や地方議員の首が飛ぶのは珍しくない。

 たしか作中では語られなかったが小鬼ダンジョンもスタンピードを起こして県知事の首が飛んで、後々国を揺るがす邪教徒になって中ボスになったんだったか。

 それがとあるヒロインの関係者で……ん?


「月……神?」


「えぇ、そうよ」


 待て、待て待て待て待て。

 この世界じゃ神の字や名前を持つのは権力者だけだ。

 その中でも和皇国は日本神話をなぞらえている。

 太陽の対になる月、その神の名を月読……その名を意味する苗字を持っているって相当な大物だぞ!

 そんでもってそのとあるヒロインはスラムで小鬼に襲われているところを県知事の娘に救われて……。


「おかげで父が失脚しなくてすんだわ。改めてお礼を言わせてちょうだい」


 県知事の娘!

 そうだよどこで見たのかって思ったけどエロゲのスチルだ!

 要するにエロシーン!

 この世界とよく似たゲームは百合エロゲ、つまり女の子同士のキャッキャウフフアハンアハンな設定だった!

 その中で年上お姉さん教師枠として出てきたのが月神蓮野!

 今俺の前にいる女だ!

 まだ成人していないが、ダンジョン関係の仕事に就くには避けて通れない名門校、天照学院の生徒会長にして将来有望な特府就職予定の大令嬢!

 結局事件が原因で特府への就職こそできなかったが、その名門校で教鞭を振るうようになった設定だった。

 あれ、ということは……。


「先ほど報酬の話をしたわね。治療は前金、そして正式な報酬として貴方を月神家の養子としようという話が持ち上がっているの。もちろん嫌だったら断ってもいいわよ」


「その場合は……」


「そうね、最悪の場合でも孤児院は確約するわ」


 孤児院か……立身出世は無理だな。

 一方で容易いとは言えないが将来性が高いのはどう考えても月神家の養子になる事。

 あともう一つ気になる事があるのだが……。


「どちらにせよまともな戸籍が必要。お……私の名前はどうなる」


「苗字はどちらを選ぶかで変わるけれど、そうね……命なんてどうかしら」


 ハイ決定! この世界、あのゲームの世界だ!

 正式名称『百合の花園~男に興味はありません、美少女よ集え!』。

 ……名前考えた奴馬鹿じゃねえのかな?


「わかった、養子になる」


「……言っておくけれど、礼儀作法とか厳しく躾けられるわよ? 口調も矯正されると思うわ」


「デカい餌に喰いつくなら、それ相応の覚悟も必要だろ」


「なるほど、肝が据わってるわね。ならこれを渡しておくわ」


 差し出されたのは一台のスマホ。

 手に取ると画面に様々な情報が映し出されていく。

 俺の名前……決まったばかりだというのに月神命として記録されている。

 年齢は10歳、蓮野の妹として扱われるようだ。

 そして気になる欄がいくつかある。

 レベル、攻略済みダンジョン、そしてスキルの三つだ。


「これは……」


「各国で使用されているダンジョン関係者専用の端末よ。個人情報の塊だけど、魔力の性質と生体認証の両方をクリアしないと画面すら見られない。クレジットカードの代わりにも使えるし、交通機関もこれひとつ。一応お小遣いとして100万振り込んでおいたけどどう?」


 どうと言われてもな。

 100万円ポンッと渡されて素直に喜べない俺がいる。

 復興期のあれこれやら、バブル期のよく思い出せないけど死に物狂いで働いて稼いだ記憶のせいだろうか。

 幸いと言うか不動産関連や商売には手を出さなかったし、戦場での勘というか危なそうな企業は片っ端から避けてたり、経営が危なく鳴ったら即座に退職して次を捜していたから金に困る生活はほとんどしてこなかった

 ただ、だからこそその金の重みを知っている立場として子供に持たせるには大げさすぎるだろうと……。


「あ、それとスキルとかどんな感じか見せてもらってもいいかしら」


「スキル……イージスと錬金術って書いてあるぞ」


 錬金術はコモンスキルと呼ばれるもので、ちょっと努力すれば一般人でも身につけられる。

 薬や武器、その他ダンジョン産の下位互換となるアイテムを生産できるスキルだ。

 序盤はそれなりに役に立つが、後半では不要となる代名詞だな。

 一方のイージスだが……ぶっちゃけ冷や汗が止まらない。

 月神家の養子、スラム出身、そしてこの世界に一つしかないと言われるユニークスキル。

 これらを合わせた結果、俺はヒロイン候補の一人になってしまったらしい。

 ……どうしてこうなった!


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