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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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9 誕生日前日

 私と婚約後もセブランの心が変わらずにフィオナにあるのなら、『アネモネ』島へ行こうと決心した私は少しずつ身辺整理を始めていた。


いくら祖父母の住む島で暮らすとしても、私はふたりのお世話になるつもりはなかった。

なぜなら祖父母は母を蔑ろにした父に激怒していたから。娘の葬儀の席にも参列しなかったほどなのだから、その怒りは相当のものに違いない。

そして当然、父の血を引く私のことも良く思っていないに決まっている。


とりあえず、『アネモネ』島に到着後は挨拶だけ済ませて住む場所が決まるまではホテルに滞在することにしよう。


「お金なら……貯金があるから当面大丈夫よね」


恐らく、これだけあれば数年は働かなくても食べていけそうだ。それどころか銀行の利子だけでも節約すれば生活出来るかもしれない。


あまり物欲も無かった私に、父は私が七歳の誕生日に「ここに毎月お金を振り込むので、買いたいものがあれば自由に買いなさい」と言って通帳を渡してきた。


さらに父の仕事を手伝うようになってからは、「給料」としてお金を上乗せしてくれるようになっていた。


そのお陰で金銭感覚も身についたし、本当に欲しいものだけを買う生活が身に染み付いている。


「大丈夫……きっと何とかなるはず」


それに『アネモネ』島は観光地として有名で観光業が栄えている。経済学の授業で、『アネモネ』島は働き手の人手不足に悩まされていると学んだ。

私にも働き口が見つかるかもしれない。



「後は……一人で行きていく生活力を身につけることよね」


そして私は厨房に足を運び、副料理長に頼み込んで空き時間に少しずつ料理も習い始めたのだった――



****



「レティ、今日も自分でランチを用意したの?」


学生食堂で三人掛けのテーブル席を確保するとヴィオラが尋ねてきた。


「ええ、今日はバゲットサンドイッチを作ってきたの」


「すごいわね〜。私なんか野菜の皮むきも経験無いのに。でも最近急にどうしたの?」


「ええ、ちょっとね……何となく料理に目覚めたのよ」


まさか家を出て、自活するためとは言えない。


「そうなのね、私もレティを見習って料理の勉強でも始めようかしら。それじゃ、お昼を買ってくるわね」


「ええ。行ってらっしゃい」


手を振ると、ヴィオラはカウンターへと向かっていった。

ひとりになり、バスケットの蓋を開けた時背後から声を掛けられた。


「レティ」


振り向くと、驚いたことにセブランが笑顔で立っていた。しかも珍しくフィオナの姿が無い。


「驚いた……どうしたの? フィオナは?」


「フィオナは日直で職員室に行っているから、席を取るために先に食堂へ来たんだよ」


一緒にいるのが当然のように尋ねる私自身も情けないけれども、当然のように質問に答えるセブランを悲しい気持ちで見つめる。


「ところで、レティ。いよいよ明日、レティの十八歳の誕生日だね」


「え、ええ。そうね」


すると、セブランがにっこり笑った。


「レティ、明日は丁度学校が休みだから、会いに行くね。とびきりの言葉を用意して君に婚約を申し入れるから」


「え……? ほ、本当に……?」


まさかの言葉に嬉しくて耳を疑ってしまった。


「勿論本当だよ。だって約束したじゃないか」


「え、ええ。そうね」


「それじゃ、また放課後にね」


セブランはそれだけ言うと手を振って去っていった。


「セブラン……」



私はこの言葉で、愚かにもすっかり舞い上がってしまっていたのだ。


人が誰かを思う心は、そう簡単には変われないということに気付きもせずに――

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