6 父の誕生日ディナー 2
その日の夕食は父の誕生日ディナーということだけあって、豪華だった。それどころかフィオナも夫人も見たことのない洋服を着ている。
「あなた、お誕生日おめでとうございます」
夫人はテーブルの脇に置いておいた箱の蓋を開けると、中からワインを取り出した。
「これは私たちが出会ったときに作られたワインなの。どうぞ受け取ってくださいな」
そして一瞬私をちらりと見る。完全に私への当てつけであることがすぐに分かった。
「……上質なワインだな。ありがとう」
父はワインを受け取ると目を細める。
「お父様、次は私からのプレゼントです。どうぞ受け取って下さい」
フィオナは箱の蓋を開けると、悪びれる様子もなく笑みを浮かべた。
「カフスボタンです。セブラン様と選びました」
勿論、私をチラリと見たのはいうまでも無い。
「セブランと? ……そうか。うむ、良い品だな。ありがとう、フィオナ」
するとすかさず夫人が口を挟んできた。
「あなた、聞いて下さい。実は本日の私とフィオナの服もセブラン様が選んでくださったの。あの方は本当に良い人ね。将来の義理の母になる私と義妹になるフィオナにも親切にしてくれるのだから。レティは幸せね。セブラン様の婚約者になれるのだから」
「……は、はい」
もう、私にはこれ以上の言葉は口に出来なかった。どうしてここまで残酷な話を平気で言えるのだろう?
夫人はそこまで私が憎いのだろうか?
目頭が熱くなりそうになるのを必死で堪えながら父に視線を移すと、何故か苦虫を噛み潰した様子で夫人を見ている。
お父様……?
「レティ、今度はあなたの番よ。早くお父様に見せてあげたら?」
フィオナがワクワクした様子で私に声を掛けてきた。私の反応が見たいのだろう。
『これでフィオナの鼻を明かせるだろう?』
耳元でイザークの声が聞こえた気がした。
鼻を明かすつもりはないけれど……フィオナの反応が知りたかった。
「お父様、私は……紫色のネクタイピンを用意しました。受け取って頂けますか?」
そっと箱を開いて中を見せた。
「そんな!」
その瞬間にフィオナが驚愕の表情を浮かべて立ち上がった。夫人も目を見開いて私をみる。
一方の父も驚いた様子で私に声を掛けてきた。
「何? 紫色のネクタイピンだと? 近くに持ってきて見せてくれ!」
「はい、お父様」
箱を持って父の側へ持っていくと手渡した。
「これは……」
じっとネクタイピンを見つめる父。そして私に顔を向ける。
「……ありがとう。レティ、素晴らしいプレゼントだ」
「い、いえ……」
父の言葉が照れくさく、俯くとフィオナが大きな声を上げた。
「レティ! どうしてなの!? カフスボタンじゃなかったの!?」
「ええ。カフスボタンもあるわ」
「カフスボタン……それもあるのか?」
父が尋ねる。
「はい、今回はどちらか選びきれず……二種類用意しました」
嘘をついた罪悪感に胸がチクリと痛みながらもポケットに入れておいたカフスボタンの箱を取り出して蓋を開いた。
「ほう……こちらも色が紫だな。気に入ったよ」
偶然にも、カフスボタンも紫だったのだ。
「レティ……どういうことよ? 何故ネクタイピンも用意していたこと教えてくれなかったの?」
「そうよ。フィオナの言うとおりよ。嘘をつくのはよくないわ。謝りなさい」
夫人まで私に文句を言ってくる。
「よさないか、ふたりとも!」
その時、父が強めの口調で言った。
「あなた……」
「何故レティシアが謝らなくてはならない? それに第一、セブランはレティシアの婚約者になる予定だ。なのに、レティシア抜きで三人で出かけるのはどうかと思うぞ? もう少し節度のある態度を取るように」
「「はい……」」
フィオナと夫人は項垂れて返事をする。まさか、父が二人を叱責するなんて……
「よし、それではこの話はもう終わりだ。折角の料理が冷めないうちにいただこう」
そして父は何事もなかったかのように料理を口にした。私達も父にならい、食事を始めた。
夫人は敵意のある目で私を見るし、フィオナもチラチラと私を見ている。
けれど……こんな状況下でも、いつもの食事より美味しく感じることが出来た――




