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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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4 新しいプレゼントは

「いらっしゃいませ。……おや? あなたは?」


店に入るとグレーのスーツを来た男性が出迎え、私を見て首を傾げた。

あ……この人は……


「こんにちは。あの……品物を見に来ました」


「こんにちは。レティシアさん」


男性は笑顔を向ける。


「レティシア、もしかして知り合いなのか?」


イザークが不思議そうに尋ねてくる。


「ええ。こちらの方はこのお店の店主さんで、父の取引先のお相手のポールさんなの。私、父の仕事を手伝っていて何度かお会いしたことがあって。でもお店で会うのは初めてよ」


「今日は従業員が休みなのですよ。だから私が代わりに店番をしているんです。何かお探しですか?」


すると、イザークが声を掛けてきた。


「レティシア。だったらこの人に父親のプレゼントを選んでもらったらどうだ? 顔見知りなら尚更いいじゃないか」


「ああ、なるほど。それでこの店にお越しいただいたのですね?」


「はい。……実は半月ほど前にカフスボタンを購入したのですが……もう一点プレゼントしようかと思って」


とても本当のことは告げられない。


「なる程、それなら良い品がありますよ。ネクタイピンはいかがでしょうか?」


「ネクタイピンですか?」


「ええ、実は三日前にカルディナ伯爵が仕事の関係で当店にいらしたのです。その際に熱心にネクタイピンを見ていらっしゃいました。そして紫のネクタイピンは無いか尋ねられたのです。ですがあいにく紫は欠品で残念そうな様子でした」


「紫……ですか?」


紫は私の瞳の色と同じだ。まさか……? でもきっと偶然に決まっている。


「そこで念の為に紫のネクタイピンを発注し、本日入荷したのですよ」


「本当ですか?」


「ええ、御覧になりますか?」


「はい、是非お願いします」


するとポールさんはショーケースから小箱を取り出し、蓋を開けた。


「まぁ……」


中には上品な薄紫色のネクタイピンが収められていた。


「良い品じゃないか」


イザークが背後から声をかけてくる。私もその通りだと思った。


「おいくらになりますか?」


値段を聞けば、手持ちのお金で購入できそうな金額だった。


「ではこちらを下さい」


「はい、すぐに御用意いたしますのでお待ち下さい」


ポールさんがラッピングしてくれている間に私はイザークに話しかけた。


「ありがとう、イザーク。あなたのお陰で良い品物が買えたわ」


「別に礼を言われるようなことはしていない。だけど、良かったじゃないか。これでフィオナの鼻を明かせるだろう?」


「それは……」


鼻を明かす? そんなことは今迄考えたことはなかった。


「ところで……セブランとは一体どうなっているんだ?」


「え? どうなっているって……」


思わず俯いてしまった。するとすかさず謝ってくるイザーク。


「ごめん、悪かった。俺には関係ない話なのに……」


「……本当に、どうなっているのかしら……」


セブランは私よりもフィオナと一緒にいる時間が多い。セブランは何も言わないけれど、時々夫人も交えて三人で外出していることも知っている。

けれど、私は夫人が怖くて何も言い出せなかった。


「どうした? レティシア」


その時。


「どうもお待たせいたしました」


ポールさんが小さな紙袋を持ってこちらへやってきた。


「ありがとうございます」


礼を述べ、私とイザークはポールさんの笑顔に見送られて店を後にした。





「辻馬車乗り場はこのすぐ先だ。気をつけて帰れよ」


店を出ると、イザークは自転車にまたがる。そんな彼が少しだけ羨ましかった。


「いいわね、イザークは。自転車に乗れて」


「レティシアは乗れないのか?」


「ええ、だって男の人だってまだまだ乗れない人が大勢いるじゃない?」


周囲を見渡しても、イザークのように自転車に乗る人は見ない。

……私も自転車に乗れれば……何処へでも好きなところへ行けるのに。


「……俺でよければ……」


「え? 何か言った?」


「いや、何でも無い。それじゃ、またな」


イザークはそれだけ告げると自転車にまたがると去って行った。


「私も……帰りましょう」


明日は父の誕生日。ディナーの席でプレゼントを渡すことになっている。


「お父様……喜んでくださるかしら」


手にしていた紙袋をギュッと握った――




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