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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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16話 悲しみと衝撃

 今夜はグレンジャー家に泊まることになりそうだったので、一旦家に戻ることにした。


自転車をこいで家に帰ると、郵便受けの蓋が少しだけ開いている。


「え? どうして蓋が‥‥‥」


何げなく蓋を開けてみると、手紙が1通入っている。


「手紙? 一体誰が……えっ!」


宛名を見た時、息が止まりそうになった。その手紙はシオンさんからだったのだ。


「シ、シオンさんから……どうして……?」


封筒にはシオンさんの名前しか書いておらず、住所も消印も押されていない。


「まさか……この島にシオンさんが……」


心臓がドキドキと激しく脈打ち、痛いくらいだ。手紙をポケットにしまうと鍵を開けて家の中へ入り、すぐに手紙を開封した。


この手紙に一体何が書かれているのだろう……。

震える手で手紙を開封すると、目を走らせた――



カチコチカチコチ……


しんと静まり返った部屋に時計の針が動く音だけが響いている。


手紙に書かれていたのは、噂で聞いた通りの内容だった。父親が亡くなり、シオンさんが爵位を継いだこと。侯爵令嬢と婚約し、大学を辞めなければならなくなったこと……。

そして最後に、こう記されていた。


『レティシアに会えて良かった。こんな形でお別れすることになってごめん。レオナルドをよろしく頼むよ。 どうかお元気で。 さようなら』


と――



気付けば、私は放心状態で椅子に座っていた。

ポタリと、手紙に涙が落ちてインクが滲む。その時になって始めて我に返った。

さようならと書かれた文字の上に涙が垂れて、青い染みを作っていく。


私は『リーフ』から誰にも何も告げずに静かに消え去ってしまった。

けれどシオンさんは違う。

私に別れの手紙を残してくれていったのは、恐らく彼の優しさだったのだろう。


「シオンさん……」


ポツリと名前を呟くと、再び涙が溢れだす。

最後の港での別れ。

もし、あの時シオンさんに自分の気持ちを告げていれば‥‥‥何かが変わっていたのだろうか?


「う……うっうっう………」


暫くの間、シオンさんを思って泣き続けた――




****



ボーン

ボーン

ボーン……


 

午後6時を告げる鐘の音が部屋に響き渡った。


「もう、こんな時間なのね……」


涙はもうとっくに止まっていた。窓の外を見れば、空は茜色に染まっている。

 

「そうだったわ……グレンジャー家に行かなくちゃ……」


シオンさんのことは吹っ切らなければ。もう彼は侯爵令嬢と婚約してしまったのだ。手の届かない人になってしまったのだから。


私が今、気にかけなければならない相手はレオナルド。

婚約をする約束までしていたのに、そのすぐ後に養子だったからというだけの理由で断られてしまったのだ。

きっと傷つけられただろうし、もしかすると祖父母から責められたかもしれない。


それに、何より今日は大学に来ていないようだった。


「早くグレジャー家に行かなくちゃ」


私は急いで出掛ける準備を始めた――



****


 自転車に乗って、グレンジャー家に到着したのは19時を過ぎていた。


「! レティシア様! 一体、突然どうなさったのですか?」


私を出迎えてくれたフットマンが驚いた様子で尋ねてきた。


「ええ。今日レオナルド様の姿を見なかったので、それで心配になって来てしまったの」


「そうだったのですか。夜道をわざわざ自転車でお越し下さったのですね? どうぞお入り下さい」


「ええ」


中に入り、屋敷の様子がおかしいことに気付いた。

いつもなら私の声を聞きつけて祖父母やレオナルドが駆けつけてくるのに、今夜に限って誰も出て来ない。


「あの……何か、あったの?」


すると、フットマンの表情が曇る。


「はい……実は昨晩……旦那様が倒れられたのです……」


「え……?」


その言葉に全身から血の気が引くのを感じた――




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