2 矛盾する心
レオナルドのことが気がかりで、本当は朝の挨拶をしたかったが祖母に止められたのでやむなく部屋にとどまることにした。
7時半になると、メイドが部屋に朝食を運んできてくれたので1人でゆっくり食事をすませると時刻は8時を少し過ぎていた。
「そろそろ大学へ行く時間ね……」
窓辺に近付いて何気なく下を見下ろすと、丁度レオナルドが馬車に乗り込むところだった。
「レオナルド様……今から大学へ行くのね。ここから見送るだけなら大丈夫よね」
どうせ、下にいるレオナルドには私が窓から見つめていることに気づくはずも無いだろう。
そう思っていたのに………あろうことか、レオナルドが顔を上げてコチラを見つめてきたのだ。
「え?」
戸惑っていると私とレオナルドの視線が合い、彼は嬉しそうに笑顔で手を振ってきた。
「レオナルド様……」
祖母には姿を見せないようにと注意されていたけれども、笑顔で私に手をふるレオナルドを気づかない振りをする訳にはいかない。
そこで、私も口元に笑みを浮かべてレオナルドに手をふると彼はますます嬉しそうに笑う。
それはまるで子供のような無邪気な笑顔に見えた。
やがて、レオナルドは御者に何か声をかけられたようで馬車に乗り込むとすぐに走り去っていった。
「行ってらっしゃいませ……レオナルド様」
私は彼を乗せた馬車が見えなくなるまで、じっと見送った――
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この日は一日、グレンジャー家でおとなしく過ごすことにした。
祖母とリビングでお茶を飲んでおしゃべりをしたり、祖父と2人で温室を散歩したり……と静かな時間を過ごせた。
それは祖父母が婚約の話について一言も触れなかったおかげだろう。
祖父母の心遣いに感謝する一方で、レオナルドのことが気がかりでならなかった。
今日、レオナルドはカサンドラさんに婚約の申し出をすると言っていた。
恐らくカサンドラさんは喜んで、婚約を受け入れるだろう。けれど、レオナルドは本当にそれで良いのだろうか……?
あんなに悲しそうな表情を浮かべていたのに……本当は好きな女性がいると話していたのに……。
私は数え切れないくらい色々とレオナルドにお世話になった。だから幸せになって欲しい。
矛盾しているかもしれないけれど、出来ればカサンドラさんに婚約の申し出を断って貰えれば……。
そんな風に考えている自分がいた。
――16時半
部屋にこもって、ヘレンさんから依頼を受けていたクッションカバーに貝殻の刺繍をしていたときのこと。
廊下からにぎやかな声が聞こえてきた。
もしかするとレオナルドが帰ってきたのだろうか?
刺繍の手を止めると、私は扉をそっと開けて息を呑んだ。
「!」
レオナルドとカサンドラさんが、話をしながら廊下を歩いている姿を見てしまった。
2人が一緒にグレンジャー家に帰宅したということは……。
「カサンドラさんが……レオナルド様の婚約の申し出を受け入れたってことよね……?」
その事実を口にした時、胸がズキリと痛んだ。
レオナルド様……本当に、それで良いのですか……?
好きな人に気持ちを告げず……このままカサンドラさんと婚約しても良いのですか?
心の中で、私はレオナルドに語りかけるのだった――




