19 レオナルド・グレンジャーの事情 ⑲
大学に到着すると、門のところでレティと別れて教室へ足を向けた。
レティの気持ちは確認出来た。
シオンにレティのことをどう思っているのか確認していないが、多分彼だってレティのことを意識しているはずだ。
あれほど警戒心が強く、人を寄せ付けない彼がレティにはその様な態度を取ったことがないのだから。
「……とりあえずカサンドラに声をかけてみるか」
カサンドラは以前から、自分は婚約者を捜していると何度か仄めかされたことがある。
彼女も婚約者を捜している……だから、これはお互いにとって利益なのだと無理に自分自身に言い聞かせる。
そうでなければ、やりきれなかったからだ。
1時限目の講義が行われる教室に行くと、案の定彼女を中心に女子学生達が集まっていた。
社交的なカサンドラは人気者で、常に彼女の周りには人が集まっている。
そして、そんなカサンドラは……。
「あ! おはよう、レオナルド」
友人たちと話をしていたカサンドラが俺の姿に気付き、手を振って呼びかけてきた。
「おはよう」
挨拶を返すと、カサンドラは急ぎ足でやって来た。
「どうしたの? 今日はいつもより少し登校するのが遅かったじゃない。心配したわ」
「実は今日シオンが一旦帰国したから港に送りに行っていたんだ。レティと一緒にね」
「……そう。シオン様、今日が帰国する日だったのね……。大学に戻ってこれるのかしら?」
「俺もよく知らないが、戻るんじゃないのか? 卒業はしたいと言ってたから」
「それにしても、本当にレオナルドとレティシアさんは仲の良い兄妹なのね。羨ましいわ」
「そ、そうだな」
カサンドラは俺とレティが本当の兄妹だと信じきっている。俺が、レティのことを好きだと知ったら……どう思うだろう。
「ところでカサンドラ、いいのか? 友達と話をしていたんじゃないのか?」
「ええ、いいのよ。だって私があなたを優先していることは皆知っているもの」
「……そうか」
きっと、カサンドラは俺が婚約を申し出れば……受けてくれるだろう。
そんな自負が自分の中にあった――
****
――昼休み
「カサンドラ、今日一緒に昼食に行かないか?」
授業が終わると、彼女に声をかけた。
「え? 本当? 勿論行くわ。初めてね、レオナルドから私を誘ってくれるなんて」
カサンドラが嬉しそうに俺を見上げる。
「そうだったか?」
「ええ、そうよ。いつも私からあなたに声をかけているんだから。忘れたとは言わせないわよ?」
「確かにそうかもしれないな。ごめん、悪かった」
「いいのよ、それじゃ行きましょう」
片付けを終えたカサンドラが立ち上がり、笑顔を向けた。
2人で学食に向かって渡り廊下を歩いていると、女子学生とすれ違いざまに声をかけられた。
「あ、あの。もしかするとレオナルド様ですか?」
「え? ええ。そうですけど?」
返事をして、改めて女子学生を見ると何処かで見覚えがあるような気がしてきた。
「あら? あなたは誰かしら? あまり見ない顔ね……ひょっとして、新入生?」
カサンドラが女子学生に尋ねる。
「はい、今年入学してきました。ノエル・シューマンと申します。レティシアさんの友達です」
「レティシアの……?」
どうりで何処かで見かけたことがあるはずだ。
「そうだったの。それでレティシアさんのお友達が、一体何の用かしら? 彼女はどうしたの?」
何故か、その場を仕切ろうとするカサンドラ。
「そのことなのですけど、実は彼女は本日具合が悪くなって早退してしまったんです。そこでお兄様であるレオナルド様に伝えておきたくて」
「え? レティシアが?」
「まぁ……そうだったの?」
「レティシア……」
いつから具合が悪かったのだろう? ひょっとして朝から……? だが、あのときは具合が悪そうに見えなかった。
もしかすると、帰りに具合が悪くなっていたのだろうか?
考えてみればあの時、寝たふりをしてレティシアの様子を気にもかけていなかった。
「教えてくれてありがとう。早速家族に連絡を入れるよ」
「はい、よろしくお願いします」
ノエルと名乗った女子学生はお辞儀をすると、そのまま立ち去っていった。
「カサンドラ、悪いが先に学食へ行っててもらえないか? これから学務課で電話を借りて家に連絡を入れるから」
「ええ、分かったわ。……心配ね、妹さん」
「……そうだな。それじゃ、また後で」
カサンドラに告げると、急ぎ足で学務課へ向かった。
レティ……気づいてやれず、すまなかった……!
心の中で彼女に詫びながら――




