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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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3 レオナルド・グレンジャーの事情 ③


 祖父母の娘が亡くなり、2年の歳月が流れていた。


俺は20歳になり、祖父から家督を受け継いだ。そして大学に通いながら当主としての仕事をこなす忙しい日々を送っていた。



そんな、ある日のことだった――



大学が夏休みに入ったことで、仕事に集中できるようになっていた。

この日も溜まっていた事務仕事を片付けるために、朝から書斎にこもっていると不意に扉がノックされた。


――コンコン


「誰だ?」


声をかけると返事があった。


『私です、執事のチャーリーです』


「チャーリー? 入ってくれ」


「失礼致します」


チャーリーは落ち着かない様子で部屋に入ってきた。


「どうかしたのか? 何か急用でもあるのか?」


「はい。レオナルド様にお伝えしたいことがあり、参りました」


「俺に……? 珍しいな」


チャーリーは父の執事であり、あまり関わりがなかった。それなのに、父ではなく俺に用件があるとは……。


「ええ、実はレティシア・カルディナ様を名乗る女性が訪ねてきたのです。……いかが致しましょうか?」


「何だって!? レティシアだって!?」


その言葉に耳を疑った。

一生会うこともないだろうと思っていた人物が、訪ねてくるなんて……。自分の母親の葬儀には祖父母を呼ぶこともしなかったくせに、今更訪ねてくるとはどういうつもりなのだ?


「はい。……流石に旦那様と奥様にお伝えするのはいかがなものかと思いました。そこでまずはレオナルド様に報せに伺った次第です」


「分かった! すぐに行く!」


立ち上がり、書斎を出ると何故かチャーリーもついてくる。


「チャーリー、何故ついてくるのだ?」


「え? あ、あの私も一緒にお話を……」


「いや、いい。それよりもレティシアが屋敷に来たことは誰にも告げないでおいてくれ。勿論祖父母にもだ」


「……はい。かしこまりました」


チャーリーは一瞬渋る態度を見せながらも頷き、俺は急ぎ足でエントランスへ向かった――



 明るい日差しが差し込むエントランスで、レティシアは太陽を背に立っていた。


青みがかかった銀色に輝く長い髪、紫色の大きな瞳のレティシアは、息を呑むほどに可憐な少女だった。


「……」


俺は言葉をかけるのも忘れ、目の前のレティシアに見惚れてしまった。すると……。


「あ、あの……」


レティシアが戸惑いがちに声をかけてきて、俺はそこで我に返った。

そうだ……レティシアは、あの冷たいカルディナ伯爵の血を引く娘……祖父母を徹底的に無視してきた憎むべき存在なのだ。


「君が……祖父母の薄情な孫娘なのか?」


そう思えば、自分でも驚くほど冷たい言葉が口から出てきた。


「薄情な孫娘……私のことでしょうか?」


レティシアが困った顔で俺を見る。その声も、外見同様美しかった。


「当然だろう? 君以外に他に誰がいるというんだ?」


駄目だ……大人しそうな見た目に騙されては。彼女は祖母の手紙すら無視するような冷たい人間だ。

自分の心に強く、そう言い聞かせる。

それなのにレティシアは祖父母に会わせて欲しいと訴えてきたのだ。だが当然会わせるわけにはいかない。

断ると、今度は俺が何者なのか尋ねてきた。


「俺はこのグレンジャー家に跡取りとして養子に入ったレオナルド・グレンジャー。

祖父母の子供は君の母親だけだったからな。現在は俺がここの当主をつとめている」


名乗ると、レティシアは驚いた様子で俺を見た。まさか祖父母が養子を迎えているとは思ってもいなかったのだろう。

そこで当主である自分に今は全て決定権があると言い切った。ここまで言えば祖父母に会うことを断念するだろう。


俺はじっとレティシアの姿を見つめた。


ブラウスに紺色のジャンパースカート。……とても伯爵令嬢の姿には見えなかった。

けれど、清楚なイメージのレティシアには良く似合っていた。


だが……彼女の外見に騙されてはいけない。


「その姿、まるで着の身着のままでやってきたような身なりだな」


「!」


レティシアの小さな肩がピクリと跳ねた。……なるほど、やはりそういうことか。

恐らくこの娘は父親と喧嘩でもしたのだろう。そこで家出をしたものの、行く宛もなかった。それで今まで散々存在を無視してきた祖父母を頼ってこの島にやってきたに違いない。

俺は心のなかでそう結論づけた。


そこで自分の考えをレティシアに告げる。その間、彼女は無言で俺の話を聞いていた。恐らく図星だったのだろう。


だが、俺の言葉が終わるとレティシアの口からは意外な言葉が出てきた。


家を出たのは事実だが、父親と喧嘩をしたわけではない。この屋敷を訪ねたのも、祖父母に一目会いたかっただけで、居座るつもりは全くないと言ってきたのだ。


その挙げ句に、この島でアパートメントを借りて自立するつもりだと言うから驚きだ。


「何? この島でひとりで暮らすつもりなのか? 苦労知らずの貴族令嬢が?」


「はい、そうです。本日はそのことを伝えるために伺いました。……でもお会い出来ないのですから仕方ありません。いきなり訪ねてしまい、申し訳ございませんでした。それでは失礼致します。でも……父には私がここにいることは黙っていてもらえませんか?」


あの父親に連絡する? 頼まれたって相手になどしたくない。


「俺が君の父親に居場所を教える? 冗談じゃない。連絡をする気もないからな」


冷たく言い放つと、そのときになって初めてレティシアの顔に悲しみの色が浮かぶ。


「!」


紫色の大きな瞳は今にも泣きそうに見えてしまった。


レティシア……。


自分がまだ少年だったころ……一度でもいいから会ってみたいと切望していた相手。

その相手を俺は酷く傷つけてしまっている。途端に後悔の念が押し寄せてくる。


だが……今更、後には引けなかった――


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