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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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10 初めてのアルバイト

 ――午前9時半


 今日からヘレンさんのお店でアルバイトが始まる。


私はヘレンさんのお店の前に緊張する面持ちで立っていた。

勤務時間は9時半〜17時までとなっている。


「私にうまく勤まるかしら……とにかく、ヘレンさんやお客様に迷惑をかけないようにしないと」


ゴクリと息を呑むと、目の前の扉を開けた。


「おはようございます……」


挨拶をしながら店内に入る。


「はーい」


すると店の奥で声が聞こえ、ヘレンさんが姿を現すと笑顔を向けてきた。


「レティシアさん、待っていたわ」


「おはようございます、ヘレンさん。本日からよろしく願いします」


「こちらこそ、よろしくね。それでは早速お願いしようかしら?」


「はい。頑張ります」


こうしてヘレンさんの指導の元、私の初めての接客業のアルバイトが始まった――



****


――16時半


「ありがとうございました」


お客様がお店から出ていったところでヘレンさんが声をかけてきた。


「ふふ、レティシアさん。少しは接客に慣れてきたのじゃないかしら?」


「そうですね。1人目のお客様のときはとても緊張していましたけど……大分お客様とお話出来るようにはなってきたと思います。お店の仕事って中々楽しいですね」


何よりこのお店は私の大好きな手芸の品物で溢れており、心落ち着く空間だった。


「レティシアさんは人当たりもいいし、お客様に丁寧に接してくれるからお願いして正解だったわ。それに計算も早くて正確だしね」


「本当ですか? そう言ってもらえると嬉しいです」


父の仕事で帳簿の計算を手伝った経験が活かせたのかもしれない。


「ええ。商品の金額を覚えるのも早いし……レティシアさんは頭が良いのね」


「い、いえ。そんな……でもお役に立てて良かったです」


「約に立つどころか、もう大助かりよ。それにレティシアさんが刺繍してくれた商品の売れ行きもいいし……また刺繍をお願いしてもいいかしら?」


「はい、刺繍は大好きですから。喜んで」


その時――


カランカラン


店のドアベルが店内に鳴り響き、お客が入ってきた。


「いらっしゃいませ……え?」


店内に入ってきたお客を見て、驚いた。何と店に現れたのはカサンドラさんだったからだ。


「こんにちは、レティシアさん。レオナルドの話していた通りね。本当にここでアルバイトをしていたのね」


「は、はい。こんにちは。あの……レ、兄から私がここでアルバイトを始めたことを聞いたのですか?」


危うく「レオナルド」と言いそうになってしまった。


「ええ、そうよ。ここ最近あなたと会う機会が無いと、レオナルドが心配していたのよ。だから私が様子を見に来たの」


すると、今までことの成り行きを見守っていたヘレンさんが質問してきた。


「レティシアさん、こちらのお客様とお知り合いなの?」


「はい。こちらの方は私と同じ大学の三年生で……兄と同級生なのです」


当たり障りの無い程度で紹介する。


「お兄さん……?」


ヘレンさんが首を傾げる。

そうだった……! ヘレンさんは私とレオナルドが兄妹の関係で通していることを知らないのだ。

カサンドラさんが店に現れるとは思わなかったので、説明することを忘れていた。


すると、カサンドラさんが私に声をかけてきた。


「レティシアさん」


「はい」


「レオナルドが最近元気がないのよ。それは多分あなたに会えていないからだと思うの。新生活で忙しいのは分かるけれど、たまには彼の為に会う時間を割いてもらえないかしら?」


私とレオナルドが本当の兄妹と信じているカサンドラさん。私が何故レオナルドを避けているのか知るはずもない。

だってもし、知っていれば……こんな提案をしてくるはずはないのだから。


だけど私には本当の話をすることが出来ない。


「はい……分かりました」


そう、答えるのが精一杯だった。


「本当? ありがとう」


私の答えに満足したのか、笑みを浮かべるカサンドラさん。その後、彼女は私の刺繍入りのポーチを購入し、「また来るわね」と言って帰っていった。


**


カサンドラさんが店を出ていくと、ヘレンさんが声をかけてきた。


「レティシアさん」


「は、はい?」


緊張しながら返事をする。

どうしよう……何か聞かれるだろうか?


「もう、時間になったからあがっていいわよ?」


「え?」


その言葉に驚き、壁に掛けてある時計を見ると確かに時刻は17時を少し過ぎていた。

いつの間に、こんな時間に……。


「今日は疲れたでしょう? 家に帰ったらゆっくり休んで。明日またお願いするわね」


「はい、ありがとうございます。それではお先に失礼します」


何も尋ねてこないヘレンさんに心の中で感謝しながら、私は店を後にした――






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