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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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4 入学式の後で

 今日は忙しい1日だった。


クラス担当教授による校舎の案内から、授業科目の選択。さらに今週中に自分の希望するゼミに入るようにと、リストまで配られたのであった。



「ふ〜……やっと長い一日が終わったわね」


2人で校舎を出ると、ノエルがため息をついた。


「ええ、そうね」


時刻は午後3時を過ぎた頃だった。授業こそ無かったもの色々とハードな時間ではあったと思う。


「それに、これから寮に行って荷物を解かないといけないし……やることがあって色々大変だわ」


「そう言えば、寮はどこにあるの?」


この大学に寮があることはノエルの話を聞くまでは知らなかった。


「ほら、あれよ」


ノエルが足を止めると指をさした。その方角には青いトンガリ屋根の白い建物が建っている。


「まぁ、敷地内に建っていたのね」


てっきり、町中にあるのだとばかり思っていた。


「ええ、そうよ。だから寮に入ることにしたのよ。寮母さんもいるし、掃除、洗濯もすべてお願いできるのだから」


「……そうだったのね」


やはり『アネモネ』大学は貴族やお金持ちだけが通える大学だったのだ。

……祖父母にこの大学に通わせてもらえることに感謝しなければ。本来ならカルディナ家を出たときから大学進学は諦めていたのだから。


「ねぇ、レティシアが住んでいる場所は大学から近いの?」


「そうね。自転車で15分位かしら。でも今日は入学式だから兄と一緒に馬車で来たけれど」


「まさか……レティシアは自転車に乗れるの?」


ノエルが驚きの表情を浮かべる。


「え? ええ、そうよ?」


「信じられないわ……男の人だって、まだまだ乗れる人が少ないのに女性で自転車に乗れるなんて。どうやって練習したの?」


「高等部時代に自転車に乗って通学しているクラスメイトがいたから練習に付き合ってもらったのよ」


イザークのことが脳裏に浮かぶ。彼も今日から大学生活が始まるはず。……元気にしているだろうか?

そんなことを考えていると、ノエルがどこか楽しそうに尋ねてきた。


「その人って……まさか男の人?」


「そうだけど……?」


「それじゃ、レティシアの恋人だったのね?」


「ええ!? 恋人? 違うわよ。ただのクラスメイトよ」


「ふ〜ん……ただのクラスメイトが自転車の練習に付き合ってくれるかしら?」


どうやら、ノエルは恋愛話が好きなようだ。イザークに告白されたことは言わないでおこう。


「それよりも、ノエル。寮の片付けが残っているんじゃなかったの?」


「そうだったわ! ごめんね、レティシア。私、もう寮に帰らなくちゃ。明日、また会いましょう!」


「ええ、ノエル。また明日ね」


ノエルは元気に手をふると、急ぎ足で寮へ帰っていった。


「フフフ……ノエルって元気な人ね。やっぱりどこかヴィオラに似ているわ……」


そして1人残された私は思案することになる。


「困ったわ……どうやって帰ろうかしら」


入学式が始まる直前、祖父母が講堂に入ってくる姿は見えた。けれども式が終わると、新入生の親族は先に講堂を出た為に祖父母と会話することは出来なかった。

頼みのレオナルドも何処にいるのか検討もつかない。


「……今日は辻馬車を借りて帰るしか無いわね……」


でもその前に、シオンさんに会っておきたい。今日はまだ一度も彼に会えていないから。


「ハーブ菜園に行けば会えるかしら」


小さな期待を抱きつつ、私はハーブ菜園に足を向けた――



****


「シオンさん!」


ハーブ菜園に行くと思った通り、シオンさんがハーブの世話をしていた。


「あれ……ひょっとしてレティシアかい?」


「はい、そうです。私も今日からいよいよ大学生です」


シオンさんに会えた嬉しさで、思わず顔がほころぶ。


「それにしても、一瞬誰だか分からなかったよ。今日はいつにもまして綺麗だよ」


いつにもまして……その言葉に思わず顔が赤くなる。


「い、いえ。そんなことありません。それより今日もお一人で作業してらしたのですね。私にもお手伝いさせて下さい」


傍らに落ちていたスコップを拾おうとした時。


「駄目だよ!」


「え?」


突然右手首をつかまれ、シオンさんが顔を覗き込んでくる。今までこんなに近づいたことがなく、自分の顔が真っ赤になる。


「あ、あの……」


「あ! ご、ごめん!」


私の赤面する顔に慌てたように手を離すシオンさん。


「い、いえ。……あ、あの……もしかして、お手伝い……迷惑でしたか……?」


何か気に障ることをしてしまっただろうか?


「違うんだ。その……別に迷惑だとか、そんなんじゃなくて。今日みたいな素敵な服を着ているときに、汚れるような園芸作業を手伝わせたくなかったんだよ。ほんと、それだけだから」


「そうだったのですか?」


「うん、だからその……今日は手伝いはしなくていいよ」


「はい、分かりました」


「ところでレオナルドは一緒じゃないのかい? 入学式の日は君の送迎をすると言っていたんだけど」


「そのことなのですけど、実は入学式の後でレオナルド様にはお会いしました。ですが、会話の途中でカサンドラさんが現れて最後までお話できなかったのです」


「え? そうだったのかい? そうか……それじゃ帰りは……」


「辻馬車を拾って帰ります」


するとシオンさんが首を振った。


「いいよ、今日は俺の馬車を使おう。そんなに素敵な服を着ているんだから、送らせてもらうよ」


それは、とても嬉しいシオンさんからの提案だった――

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