17 イメルダの罪と末路 6
私の強い訴えの甲斐あってフランクは月に4回は訪ねるようになった。もっと来てもらいたかったが、これ以上は限界だと彼が断固拒否したので諦めるしか無かった。
私達三人の仲は円満だった。フィオナはフランクに良く懐いていたし、彼も良く可愛がってくれた。
恐らく自分の娘であることを信じて疑っていないのだろう。
そして更に私にとっては良い情報がもたらされた。
ルクレチアが心を病んでしまったそうだ。フランクの口からはルクレチアやレティシアの話が出てくることは一切無かった。
この話を教えてくれたのは父だったのだ。ルクレチアは難産でレティシアを出産したために心を病んでしまったというのだ。
「本当に可哀想なルクレチア様だ」
父はため息をつきながら教えてくれたが……私は薄々感づいていた。
きっと、父が何かしてくれたに違いないと。
その後も徐々にルクレチアは衰弱していき……ついにその日がやってきた。
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――十六年後
その日は朝から雪が降っていた。
「よく降るわね……フィオナは、ちゃんと学校から帰ってこれるかしら」
窓の外を眺めながらため息をついたとき――
ドンドンドン!!
突然扉を激しく叩く音が聞こえた。
「な、何!?」
慌てて扉を開けると、雪まみれの父が立っている。
「イ、イメルダ……」
父はガタガタと震え、顔は青ざめている。
「ちょっと! 何でここへ来たのよ! いつフィオナが帰宅するか分からないからすぐに帰ってよ!」
私は父をフィオナには見られたくなかった。父はフィオナがフランクの子供では無いかもしれないと疑っていたからだ。余計なことを口走られては困る。
「ああ、分かっているよ。だ、だがこれは本当に大事な話なのだよ。頼む、中にいれてくれないか?」
今にも泣きそうな顔で懇願してくる父に、流石にただ事ではない雰囲気を感じた。
「仕方ないわね……今回は特別よ」
「ありがとう、イメルダ」
私は渋々父を家の中に入れた。
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「それで? 話って一体何?」
「じ、実は……ルクレチア様が死んでしまったのだよ……」
ガタガタ震える父。
「え? 今、何て言ったの?」
一瞬耳を疑う。
「だから、ルクレチア様が死んでしまったのだ!」
叫ぶ父。とても嘘をついているようには見えない。
「本当に? でも……どうして突然死んでしまったの?」
父の話から、衰弱しきっていたルクレチアはいつ死んでもおかしくない状況だったかもしれないが、あまりにも突然の話だ。
「悪くない……俺は悪くないんだ……ただ、雪を見たがっていたから……庭まで送ってあげただけなんだ……」
震えながらうわ言のように呟く父。けれど、今とても重要なことを口走った気がする。
「え? ちょっと待って。お父さんがルクレチアを庭に連れて行ったの? その後は?」
「帰りましょうと言っても、首を振って拒否するので……満足するまで雪を見ればいいと思ったから……俺は……」
その言葉に耳を疑う。つまり、父はルクレチアを狂わせただけでなく……死に追いやった張本人だということだ。
「ルクレチアを外に連れ出すところを誰かに見られたりしていないでしょうね!?」
「あ、ああ。多分……誰にも見られていないはず……」
「見られていないならいいわ。だけど、ルクレチアが死んでしまったのはお父さんのせいよ! もしこのことがバレたら警察に捕まるわよ」
万一誰かに見られていたら、すぐに父は尋問を受ける。こんなに怯えた状態では余計なことを口走りかねない。
「そ、そんな……!」
真っ青になる父。
「バレたくないなら、すぐにでもカルディナ家の仕事は辞めることね」
「辞める、すぐに辞めるよ。だが、そうなったら家賃を払えなくなってしまう。今月分は支払っているが、来月からは……どうすればいいか……」
「な、何よ。何が言いたいのよ!」
「もう一度、ここに住まわせてくれないだろうか……?」
媚を売る目で私を見る。一緒に暮らす? 冗談じゃない! けれど、ここで拒否して居座られるのも困る。フィオナがそろそろ帰宅して来る時間が迫っているのに。
「分かったわよ! でも今月は家賃を払っているから住めるのでしょう? 同居は来月からよ。とにかく、すぐにカルディナ家のフットマンの仕事は辞めてよ!」
「分かったよ。全てお前の言う通りにするよ」
納得した父は家を出ていき……翌日、カルディナ家のフットマンの仕事を辞めた。
仕事を辞めて、暇になった父はすっかり飲んだくれになってしまった。
昼間から酒場に行き、酔っ払った状態で我が家に訪ねてくるようになったからだ。
「イメルダ、いるのだろう? ここを開けておくれよ。今日こそ家に入れてくれないか?」
今日も父は酔っ払った状態で我が家の扉を激しく叩く。私は限界だった。ただでさえ近所から白い目で見られて居心地が悪いというのに。
こうなったら……
私は家に保管しておいた度数の強い酒に睡眠薬を入れた。……この睡眠薬はほんの出来心だ。特に深い意味など無い。
「ほら! このお酒をあげるから、今日のところは帰ってちょうだい!」
扉を開けると、父に睡眠薬入りの酒瓶を押し付けた。
「これをくれるのかい?」
嬉しそうに笑う父。
「ええ、そうよ。だから早く帰ってよ!」
「分かった、ありがとう。それじゃもらっていくよ」
父は酒瓶を受け取ると、嬉しそうに帰って行った。
「ふん、二度と来ないでよ」
その後姿に小さく呟いた。
私の言葉は現実になった。この日の帰り道……酔っ払って車道を歩いていた父は馬車に轢かれてこの世を去ったのだ。
これで、私を脅かす存在は全ていなくなった。
私はフランクを説得し続け……ついにルクレチアが亡くなって二ヶ月後。
私達母娘はカルディナ家に上がり込むことに成功したのだった――
****
「なるほど、つまりお前が全ての元凶だったというわけだな」
テーブルの向かい側に座る警察官が冷たい声で言い放った。
「だから違うと言ってるでしょう! 私は何も悪くないわよ! だって、誰にも手を下していないじゃないの!」
この警察官はどうしても私を罪人に仕立てたいようだ。
「ああ。確かにそうかも知れないが、ゴードンが罪を犯したのは全てお前に命じられたからだ。実行役はゴードンだが、主犯格はお前だ。イメルダ」
「な、何ですって……! 主犯格ですって!」
「それだけじゃない。実の父親も間接的に殺した。睡眠薬入りのアルコールを飲ませたのだからな」
「飲ませた? 違うわ! プレゼントしただけよ! だって既にあのとき父は酔っ払ってたのよ! 死んだのだって馬車に轢かれたのが原因でしょう!」
すると警察官は不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、確かに死因は事故死だ。だから、お前には告げていなかったが……実は彼の体内からは大量のアルコールに加え、睡眠薬も検出されていたのだ。ゴードンが死亡したとき、持っていた酒瓶のアルコールは半分ほどしか無かった」
「な、何ですって……?」
自分の心臓が早鐘を打つ。
「これだけ罪を重ねているのだから覚悟しておくんだな。お前のような悪人はそれ相応の罰を受けることになるだろう。おい! この女を牢屋に連れていけ!」
すると扉が開かれて二人の男が現れると、左右から腕を掴まれた。
「そ、そんな! いやよ! 牢屋になんか入りたくないわ! 離してよ!」
暴れるも、無理やり部屋から連れ出されてしまった。
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ガシャーン!!
とうとう私は鉄格子のはめられた牢屋に入れられ、無常にも鍵を掛けられてしまった。
こんな牢屋に入れられるなんて屈辱以外の何物でもない。
「どうだ? 牢屋に入れられた気分は」
警察官が声を掛けてくる。だが、私は返事をしない。誰が答えてやるものか。
私の気持にお構いなしに警察官は言葉を続ける。
「お前のような極悪人にはすぐに罰が下るだろう。恐らく流刑島に送られるのは確実だろうな」
「流刑島ですって……!」
その言葉に青ざめる。
「せいぜい、それまでの間ここでおとなしくしていろ」
警察官はそれだけ告げると去っていった。
「そ、そんな……流刑島なんて冗談じゃないわ……」
あの島に送られた囚人は過酷な環境下で辛い労役を課され、一生出ることが許されない。早死する囚人も数多くいると噂で聞いたことがある。
いや、あの警察官は単に脅しで言ってるだけだ。第一、私は誰も手にかけていないのだから。
「大丈夫、きっと大丈夫……あの警察官が勝手に言ってるだけよ……」
私は自分に必死で言い聞かせた。
――その後
結局警察官の言葉通り、私に流刑島送りの罰が下された――
※次話、フィオナの話になります




