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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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34 少しの違和感

 レオナルドとふたりで部屋を出ると、私はすぐにお礼を述べた。


「どうもありがとうございます。レオナルド様」


「別に礼なんていらないさ。レティシアは大切な身内なのだから力になるのは当然のことだ。それよりも話は変わるが、三日後夜に花火を打ち上げるフェスティバルが開催されるんだ。ヴィオラとイザークにも声を掛けてある。皆で行ってみないか?」


「その話ならおじい様から聞きました。楽しそうですよね。是非行ってみたいです」


「そうか、なら四人で行こう。俺は少し仕事が残っているからこれで失礼するよ。また食事の席で会おう」


「はい、分かりました」



レオナルドと別れて部屋へ向かう途中。

中庭が見える渡り廊下を歩いているとイザークが中庭に立っている姿が見えた。


イザーク……? あんなところで一体何を……?


そこで私は彼に近付き、声を掛けた。


「イザーク、ここで何をしていたの?」


「あ……レティシア」


イザークが驚いた様子でこちらを振り向く。


「どうしたの? てっきり部屋にいるかと思っていたのに」


「い、いや……その、空を見ていたんだよ」


「空?」


言われて、見上げてみると頭上に広がる空はオレンジ色と濃紺の美しいグラデーションに染まっていた。


「まぁ……綺麗ね……」


思わず見惚れながら空を見上げた。


「ああ、本当に……綺麗だ」


何故か視線を感じて、振り向くとイザークがじっと私を見つめている。


「イザーク? 空はあっちよ?」


「あ、ああ。そうだったな」


指を頭上に向けると、イザークは慌てたように空を見上げた。


「やっぱり、『アネモネ』島で見る空は格別綺麗な気がするわ」


いつの間にか空には星が瞬き始めている。

少しの間イザークは黙って星を見つめていたが、不意に何かを思い出したように声を掛けてきた。


「そうだ。実はレティシアに渡したいものがあるんだ」


「渡したいもの?」


イザークはポケットに手を入れて麻袋を取り出すと、差し出してきた。


「これ、やるよ」


「え? 私に?」


受け取り、口紐を解いてみると中には貝殻が入っている。


「貝殻……?」


試しに何個か取り出してみると、全て紫色の貝だった。


「紫色の貝なのね?」


イザークを見上げて尋ねた。


「ああ、そうなんだ。……レティシアのことを思って紫の貝だけ集めた」


照れ臭いのか、イザークが視線をそらせる。

きっと、観光に行けなかった私の為に気遣って紫の貝を拾い集めてくれたのだろう。


「ありがとう、とても嬉しいわ。ガラス瓶に入れて飾っておくわね」


「そ、そうか? それで……レティシア」


「何?」


「そ、その……『リーフ』には……もう、戻らないつもりか?」


「いえ、一週間後に戻るわ」


父に一度戻ってくるように頼まれているし、それに何よりセブランとの婚約を終わらせなければならない。


「何!? ほ、本当に戻って来るのか!?」


「ええ、そうだけど?」


そんなに驚くようなことだろうか?


「そうか……それを聞いて安心した」


ポツリと呟くイザーク。


「でも、一時的な帰省になると思うわ。多分だけど」


「え? 何だって? どういうことなんだよ?」


イザークが険しい顔で尋ねてきた。


「お父様に、家のことでけじめをつけたいから一度戻って貰いたいと言われたの。それにセブランとの関係も終わらせないといけないし」


「セブランと終わりにするのは良いことだが………なら、またここに戻ってくるつもりなのか?」


「ええ。多分」


「そんな……」


イザークが俯いてしまった。何故、彼がここまで私を気に掛けるのか分からない。

ひょっとするとヴィオラの為に、私のことも気に掛けてくれているのだろう。


「そうだったわ……ヴィオラ……」


ヴィオラと後で話をする約束をしていたことを思い出した。


「え? ヴィオラだって……? ヴィオラがどうしたんだ?」


「ええ。ヴィオラから今日の観光巡りの話を聞かせてもらう約束をしていたのよ」


「なんだ……そっちか」


「そっちって何?」


気のせいだろうか? イザークの様子が何処かおかしい。


「い、いや。何でもない。なら行って来いよ。……きっと待ってるだろうから」


「ええ、分かったわ。イザークは……」


「俺はもう少し、ここで空を眺めてる。そうだ。俺の分の夕食はいらないって伝えておいてくれ。今夜は……外で食事をしてくるから」


「そうなの……? それじゃ行くわね」


「ああ」


私はその場にイザークを残してヴィオラの部屋へ向かうことにした。


少しの違和感を感じながら――




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