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<書籍、電子書籍発売中・コミカライズ連載中> ただ静かに消え去るつもりでした  作者: 結城芙由奈@コミカライズ連載中


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16-b イザークの恋心

 俺――イザーク・ベイリーはレティシアの話を信じられない思いで聞いていた。


俺とヴィオラが交際? レティシアはそんな風に俺たちのことを見ていたのか?


「私、以前から二人はお似合いだと思っていたのよ。何だかすごく気が合ってみえたし。ヴィオラはとても素敵な女性だから、大切にしてあげてね?」


そして俺に笑いかけるレティシア。


「レティシア……」


以前までの彼女の笑顔はいつもどこか寂しげだった。けれど、今の笑顔は違う。

本心から笑っている。


まるで何かを吹っ切れたかのような笑顔だった。この島にやってきてレティシアは何処か変わったのかもしれない。

今までずっと彼女のことを見てきた俺には分かる。


分かるからこそ……辛かった。よりにもよって、それが俺とヴィオラの仲を応援しての笑顔なのだから。


思わず、唇を噛み締めてしまった。すると、レティシアが心配そうな顔つきになる。


「イザーク、どうしたの? 何か気に障ることを言ってしまったかしら? 私はセブランとはうまくいかなかったら……つい応援したくなって……。でもごめんなさい。余計なおせっかいだったわよね」


落ち込んだ様子で謝ってくるレティシアに俺はどうしても尋ねてみたくなった。


「レティシア、一つ聞いていいか?」


「何?」


「何で俺とヴィオラが交際していると思ったんだ?」


自分の声が震えているのが分かる。


「え? 高校時代から何となく、二人は気が合っているように見えたし。それに……一緒に『アネモネ』島へ来たっていうことは、つまり……そういうことに……え? ひょっとして違った……の?」


レティシアに困惑の表情が浮かぶ。

もし、今ここで……自分の気持ちを告げたらどうなるだろう? 緊張で喉がカラカラになる。


「レティシア!」


思わず大きな声で彼女の名を呼ぶ。


「は、はい?」


「レティシア、俺は……!」


そこで、ふと思いとどまった。今のレティシアの話で、彼女は俺のことを全く意識していない存在であることに気付いてしまった。それどころか、ヴィオラとの幸せを願っている。

そんな状態で告白をしても……恐らく無駄だ。

それどころか、かえってレティシアを困らせてしまうだけになるだろう。


俺は……彼女のことが好きだ。けれど、困らせるつもりは毛頭無かった。


「イザーク? どうしたの……?」


困惑気味のレティシアに俺は言葉を掛けた。


「い、いや。すごく……綺麗だと思って」


「え? 綺麗って……?」


美しい星空の下、長い髪を風にたなびかせるレティシアは本当に綺麗だった。今の彼女を目に焼き付けておけば……それだけで俺は……


「ああ、星空が凄く綺麗じゃないか」


俺は夜空を見上げた。


「ええ、そうでしょう? この島は星空が美しいことでも有名なのよ」


レティシアも星空を見上げる。


二人で並んで美しい星空を見上げる。こうして二人でいられるだけで本望だと思わなければ。


その時――


「レティシア、捜したよ」


背後からレオナルドの声が聞こえた。


「あ、レオナルド様」


「ヴィオラから二人がここにいると聞いてやってきたんだ」


レオナルドは俺たちに近づいてきた。


「何か御用ですか?」


「ああ、祖父母が呼んでいるんだ。大事な話があるらしい。邪魔して悪いが、来てもらえるか?」


そしてレオナルドは意味深に俺を見る。


「はい、行きます」


レティシアは頷くと、次に俺を見た。


「イザーク、今夜は一緒に星を眺めることが出来て良かったわ。おやすみなさい」


「あ、ああ。おやすみ」


視線をそらしながら、俺は挨拶を返した。


「それじゃ行こう」


「はい」


そしてレティシアはレオナルドに連れられて去って行った。


一人、残された俺は再び芝生の上に寝転がると星空を見つめるのだった――




* 次話、レティシアの視点に戻ります


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