森の外を目指しました
のんびりと進めていくかな
リッチというモンスターにハクロという名前を与えて、晴れて魔物使いに里宇がなった翌日、朝早くから彼らはすでに森の外へ出る用意を終えていた。
「この深い森の外に村があるんだよな?」
「そのはずですね。300年ほど出ていなかったとはいえ、人口が少なかったので町ぐらいには何とかなっているでしょう」
ハクロの森の住みかだった家屋の中にあった地図はかなりボロボロであったが、この森の状態に変化は余りないそうなので、そこまで地形の急激な変化はないだろうと予想できた。
「にしても、この家から離れるのだと考えると感慨深いものがありますね・・・」
ハクロが自身の住みかにしていた森の家を見てそうつぶやく。
もうずいぶん時間が経っているのか外装もボロボロのつぎはぎになってきており、よく300年も持った名と里宇は思うが…それでも、ハクロにとってはここが唯一の居場所だったのだろう。
でも、今は里宇という主を得たのでいつまでもここに居続ける意味もない。
「さてと、改めましてこれからよろしくお願いいたしますね里宇さん」
「ああ、これから本当によろしく頼む」
互いに握手しあい、彼らは家から出て森の外へと向かう。
森の中にもモンスターがいたりするのだが…一応、ハクロはその大体の居場所を把握しているらしいので安全ルートで行けるようだ。
「魔法などでぶっ飛ばしてもいいんですが、今の私はリッチ。生前の時と感覚が違うのでそのあたりの調節がまだまだなんですよね」
「そういう物なのか」
「そういう物ですよ。よく習うより慣れろ、体が覚えているとか言う言葉はありますが・・・モンスターになると、そう言う体で覚えた感覚も変化してしまうんですよね」
不便なので、特に襲われるようなこともなかったからここ最近は生活に使用する以外は、攻撃に出来る魔法を使用していなかったそうだ。
「だったら森を出る前に一発試し打ちすればいいんじゃないか?あ、火のような奴は無しで」
「火事になりますからね。一度実験時にやらかして爆破したので封じているんですよ」
すでに何かやらかしたことがあったのか、ハクロよ。
なんとなく、この先が不安になった里宇であった。
「『ニードルアイス』!!」
ハクロが魔法を唱えると、無数のトゲのような氷の塊が狙った熊のようなモンスターに直撃していく。
ズドドドドドドドド!!
「ギュガァァァァァ!!」
あっという間にハリネズミのようになったモンスターは倒れ、そのまま絶命した。
「…うん、リッチになる前よりも明らかに魔法の威力が上がっていますね。以前はいがぐりを大量にぶつけるかのような魔法でしたが、本数が多くなってました。魔法の性質そのモノも、モンスターになってからは変化するようですしね」
「それはそれでえげつないけどな」
無数の氷の針が飛んでいく魔法と、大量のいがぐりのような塊が飛んでいく魔法…どっちにしても狙われた相手にしてみればたまったものではないだろう。
というか、狙われたくないな。どちらにしても悲惨な最期になるぞ。
ハクロの魔法の威力の試し打ちとして選ばれた、偶然にも最初この森に入る際に襲って来た熊そっくりのモンスターの無残な状態に、里宇はそうつぶやいた。
金属っぽいような外見なのに、その皮膚には無数の氷のとげが刺さりまくっている。
「確かこのモンスターは『アイアンベアー』ですね。見た目の通り鉄製の毛皮を持ち、目から怪光線を放つモンスターです。先に目をつぶしてから挑むのが良いらしいですが、今回は遠距離攻撃手段がありましたからやらなくてもよかったですよ」
「あ、魔法とかじゃなくて怪光線っていうのか」
「正確には、眼球を伸ばしているだけらしいですけどね」
「なにそれ!?」
それは光線とは言わないような。
「伸縮が早く、発光しながら不気味に攻撃してくるのでそういわれるようになったそうです。なので、発射した瞬間に横からぶった切れば失明です」
「グロイなぁ…」
モンスターというのは、訳の分からない塊らしいと森を抜けるまでの道中ハクロはそう説明した。
「私のように元人間というようなアンデッド系のモンスターもいますが、自然と発生するようなモンスターもいますし、繁殖・増殖で数を増やすモノと謎が多いのです。なぜ人を襲うのが多いのかは…ほぼ野生動物のようなものであり、それ故に弱そうな人間を襲うとか言うのが有力らしいですけどね」
「なるほどな、色々あってまだ不明なのもあるのか」
「そう言う事です。私だって、元人間だった時に比べると、こうしてリッチになったら魔力増えて、魔法の威力も向上してますからね。何でそう言う事になるのかもわかりませんよ」
そう言いながらも、周囲をハクロは気にしているようである。
この森の中は、油断したらモンスターの巣などに入り込む可能背が高いらしい。
「歴史上には、モンスターとなることで強大な力を得られると考えた人がいたそうですが、結局失敗して物凄く弱いゴブリンになった人もいるそうですしね」
「何をどうしたらそうなったのかが気になるんだけど…」
ハクロの話にちょくちょくある阿保な話が里宇は気になった。
「モンスターの中には、私のように人と会話可能な者がいるのですが、まあ個人差というか人次第で完全に敵対するか、中立か、人に協力するかにも別れるそうです。まぁ…森を300年ほど出ていませんので、そのあたりの常識も変わっているでしょうけどね」
ハクロはこの森にずっと引きこもっていたので、完全にこの世界の常識を知っているわけではない。
けれども、ある程度の事は教えてくれるので里宇にとってはありがたかったのであった。
「常識もそう簡単に変わりそうにないけどな」
「案外結構早く移り変わるモノですよ。流行だって一時的に皆が夢中になりますけど、廃れた後はわずかにしか残っていない以外は気にもならないでしょう?それと同じようなものです」
「すごい分かりやすい説明だな…」
何はともあれ森の中を里宇たちは進み、夕方近くには森を抜け切ることができたのであった。
「やっと木々が見えない平原にまで来たのかな」
「道として整備されているところがあればいいんですけどね。そこから辿っていけば、村や都市などにたどり着けるはずです」
とはいえ、もうそろそろ日が暮れてきて周囲は闇に包まれる。
今夜はここで野宿を里宇たちは行うのであった。
ついでに魔法などの詳しい説明も次回あたりで行えたらいいなと思ってます。




