ちょっとある人の話
今回主人公出番なし
SIDEゼクストリア騎士団:とある騎士の手記
‥‥‥つい先日、我々はある冒険者パーティーに決闘でフルボッコにされたばっかりだというのに、うちの大バカ貴族出身傲慢隊長は全く懲りていないというか、阿呆な事を企てようとしている。
なんでも、ある魔物使いの持つ従魔を狙っているようで、表向きで穏便に手に入れられなかったから、今からやる方法で手に入れようとしているそうなのだ。
馬鹿なの?阿保なの?間抜けなの?学習能力ないの?
唯一この騎士団の中で、自分はおそらくまだまともだと思えるから言うのだが、多分悲惨な目に合う未来しか見えない。
何しろ隊長はどうやら依頼に出ているその魔物使いが、野宿でもしたすきに闇討ちを仕掛ける予定らしい。
冒険者たちの依頼によっては、宿に戻らないでそのまま一晩星空の下で野宿することがある。
夜中にしか収穫できない薬草や、出現しないモンスターがいるからね。
で、それって思いっきり盗賊行為ではないだろうかと、自分は告げたよ。
そしたらなんと言ったと思う?
「我々はあのゼクストリア騎士団だ!!かつての栄光を手に入れるために、このような犠牲は仕方が無い事なのである!!正義はこちらにあるのだ!!」
‥‥‥もう一度言うけど、本気で馬鹿か?
あの魔物使いを自分は見たのだが‥‥‥おそらく異界人と呼ばれる類の者だろう。
この世界の人ではないと、なんとなくだがわかるというのが特徴である。というか、この自分も同じだし。
いろいろやらかす人や、知恵や恩恵を授ける人がいるというが、あの魔物使いの少年はおそらく後者。
やらかしてはいないし、周囲からの信頼もあるようだしな。
で、その魔物使いを襲撃しようと隊長は言っているんだけど‥‥‥返り討ちに遭う未来しか見えねぇ。
従魔がまずあれだからな?こちらよりも格段に魔法が扱えるリッチの美女。
体がやや透けて見えるけど、あの美しさは良いなぁ‥‥‥人だったら一晩のお相手をしたい。でも、実力が桁違いすぎるだろうし何かあったらこっちがゾンビとかにされそう。
次に、従魔として意外だと思えたミミック。
見た目が金属質であり、重量もかなりあるようだからな。人食い箱と名高いモンスターだぞ?
かつての記録では、金属すらバリバリ砕いて食べることができたってのもあるんだけど?
そして、今回隊長が狙っている相手でもあるドッペルゲンガーの少女。
見た目的に、多分リッチの女性をモデルにしたんだろうけど‥‥‥どうやって攫うんだ?
え?力づく?薬も使って?
無理無理無理無理!!ドッペルゲンガーって様々なものに化けられるそうだし、これでサイクロプスやワイバーン、デュラハンとか言った物凄い奴に化けられたらこちらが死にますって!!
というか隊長!!あんたがそう狙う理由って汚名返上に自身のプライドの回復、クビ回避の為でしょう!!
この騎士団って自分はおとなしくて何も言っていないけど、巷では傲慢の騎士たちとか言われているんだからな!!
栄光にすがって夢見るのもいい加減にしてください!!
大体、あの討伐予定だったモンスターを手なずけて騎士団のモノにしてしまおうといって、逆にその態度で激怒させて死にかけたのはあんただろうが隊長!!
そして、冒険者パーティーに決闘を挑んで、フルボッコにされた原因でもあるでしょうが!!
その上さらに、今わが国で軍事機密で開発中の試作品の人工モンスターの種の無断使用もあなたの責任でしょうが!!
はぁ?あの時あれで逆転して、皆の注目を浴びようとしたぁ?
全くでなくてむしろ大恥の機密漏洩で、帰還したらクビどころか厳重な処罰決定になっただろうがぁぁぁぁ!!
‥‥‥はぁ、もういいですよ隊長。
自分、もうこの騎士団を辞職して田舎に帰らせていただきます。
自己満足のために、身を亡ぼすような真似は絶対に絶対に絶対に関わりたくないですからね!!
でもまぁ、まずはその所業を包み隠さず報告いたしますよ。
仮に生きて帰ってこれたとしても、帰る処はないでしょう。
え?成功したらどうするんだって?
いやいやいや、無理でしょ。返り討ちに遭うでしょ。
あー‥‥‥この話をばらす前にここで処分する?‥‥‥全く愚かな人ですよ。
なぜ、この常識人がこの騎士団にいるのかすらわかっていないもん。
というわけでさらば!!
「『転移魔法』!!」
魔法を唱えるのと同時に、隊長の姿がそこから消えて戻ってきたのは懐かしの騎士団専用寮の自室。
さてさて、これから国王様に報告に出向きましょうかね。
しかし、怪我をしたふりというのも大変だよ。あのハンマーズの人達手加減してなかったけど、どさくさに紛れてやられた振りをしていればやり過ごせたもん。
でも、こうやって油断させないと無能な下っ端とは思ってくれなかったでしょう?隊長や。
自分、騎士団処分のための監査員、宮廷魔導士筆頭でしたからね。いやぁ、やっと帰還できた。
あのむさくるしい騎士団、過去の栄光にすがり、傲慢さや横暴さを隠そうとしない馬鹿たちの相手は大変だった。
‥‥‥しかし、あの魔物使いの事は気になるなぁ。特に、あの美しかったリッチだけど何かの本や絵で見たことがあるような?
ま、国王に報告をしてさっさと休暇を取るか。長期的な潜入捜査のようなものだったし、褒美も約束してもらっているしね!!
でもまぁ、騎士団の壊滅どころか消滅は免れないだろうなぁ。もう関係ないがな(笑)。
既に見限られているという騎士団。
果たしてどうなるだろうか?




