観客側も面白い
こういうのは主人公が受けそうなものだけどね
ハンマーズとゼクストリア騎士団とやらの決闘が決定したようであり、決闘場所はギルドで以前里宇たちが受けたランクアップ試験会場となった。
「さぁ!この肉体美にかけて公正でな判断を下すことをこのマッスルンは誓おう!!」
ムキッツっとポージングする、この都市デルベスタのギルドマスターにして、異名が「筋肉魔人」のマッスルンさんが審判をするようである。
ギルドそのものは国とは独立した機関であり、そこで決闘を行うことによってありとあらゆる権力からの判決の捻じ曲げがないようにという事で、ここに決まったようだ。
観客席も丁寧に設立されて、せっかくなので里宇たちも観客席に着席してその勝負を見守ることにした。
「うーん、どっちが勝つと思うかなハクロ、コンゴウ」
「私の予想ですと、ハンマーズの方々ですかね。接近戦で言えば、そちらの方が場数をおそらく多く踏んでいるでしょう」
『ハクロに同意だよ。ぼっこぼこのフルボッコの可能性が大きいよ(^O^)』
ハクロもコンゴウも、あの騎士たちは負けると予想しているようである。
ついでに言うなら賭け事も行われているようで……
「倍率が……『ハンマーズ』が『1.4倍』、『ゼクストリア騎士団』が『23倍』‥‥‥って、どれだけの差があるんだよ!!」
騎士たちが負ける方に賭けている人が圧倒的に多い。
あのギルド前のやり取りを見ても、おそらく印象からして最悪なのだろう。
「さぁ!!両方とも構えよ!!」
っと、マッスルンさんがポージングを決めて、戦闘開始の合図を出そうとする。
ハンマーズの方々は、今日はそのパーティー名の由来でもあるハンマーを持っており、凶悪そうな感じである。
一方、騎士たちの方は剣組と魔法組で分けるようで、前衛後衛をしっかり分けているようだ。
その点だけを見れば、前衛のみのハンマーズに比べると勝機がありそうだが……
「それではぁ!!はじめぇぇぇぇ!!」
開始の合図をマッスルンさんが言うと同時に、両方とも雄たけびを上げて攻撃を開始する。
「くらえやぁぁぁぁ!!」
グォォン!!っと勢いよく重量あるハンマーが振り回されて、前衛の騎士の一人が持っていた盾でガードをしようとしたが……
ドッガァァァァァン!!
「ぐぁぁぁぁぁぁあっつ!?」
重量ある攻撃で、防ぎきれずに何名かがまとめて薙ぎ払われた。
「魔法を放て!!」
リーダーらしき人が合図すると同時に、魔法を準備していた組が魔法を発動させる。
「『ファイヤーランス』!!」
「『アクアランス』!!」
「『サンダーランス』!!」
それぞれの魔法の特徴を持った槍が出現し、どれも違う種類なので一気に防ごうとしても難しいモノだろう。
そのままハンマーズの面子に直撃かと思われたが……
「きくかぼけぇ!!」
「この程度の魔法がなんぼのもんじゃ!!」
「打ち返したらぁぁぁあぁl!!」
いうがはやいが、全員ハンマーでそれぞれの魔法を……打ち返した。
「「「「なにぃぃぃぃぃ!?」」」」
騎士たちはそれが予想外だったのか、慌てて戻って来た魔法を防ぐのだが、数発ほどはもろに喰らったようであった。
「……ハクロ、魔法ってああいう感じに打ち返せるのか?」
「実力によりますね。本来は着弾した時点で爆発したりするのですが、ある程度見極められるようになるとその前に跳ね返せたりするんですよ。まぁ魔法を扱い側もその可能性を考えてできないような工夫をするのですが……あの騎士たちの場合、威力も実力も低いんでしょう」
「ん?威力があれで低いのか?」
そこそこの大きさの魔法のように里宇は思ったが、ハクロとしては威力が低いように思うのだとか。
「見た目だけですよ。威力が高いのであればもう少し綺麗な魔法になるのですが、荒っぽくて無駄に魔力も消費して威力を下げていますね」
魔法を扱う者としては、不合格点であるという。
「派手さ、傲慢さにとらわれたが故の結末があれですからね……もうすぐ終わりますよ」
ハクロの言葉で決闘の方に目をやると、もうすぐ確かに終わりそうであった。
剣戟があったが、力ずくで抑え込前れてふっ飛ばされたり、ハンマーで地面に釘のように打ち付けられる人がいたり、挙句の果てには魔法を何回も撃たれてきたのをすべて打ち返してとことんプライドを折っていた。
言っちゃえば、毎日が弱肉強食な冒険者たちにとって、ぬくぬくと過ごしていた騎士たちは生ぬるい獲物であろう。
ご愁傷様と手を合わせつつも、決闘はハンマーズの優勢状態となる。
いや蹂躙か?
「オラオラオラァ!!」
「ぐっがぁぁぁ!?」
ぐしゃ!!
「あしがぁぁぁあl!?」
「鎧で守っても関節部分が弱い!!」
ぼきぅつ!!
「骨がぁぁ!?」
「おっと、つい骨盤骨折をさせてしまったか」
「……悲惨すぎるというか、あの強さで本当にCランクなのかと疑問に思うのだが」
「どうやらあの凄まじいやり過ぎが、ランクアップの足かせになっているようですね」
『鎧が砕ける音か、はたまた骨が砕ける音か、それとも彼らのプライドが壊されていく音か(`・ω・´)』
もうすでにズタボロ状態へと騎士たちは陥り、鎧はひびが入っていたり、骨が砕けている者達が多くなった。
「くそぅ、こんなやつらに我々がここまで苦戦するとは」
「おいおい、現実が見えてねぇのかよ」
「苦戦どころかなすすべないじゃん」
唯一まだ無事なリーダ格の騎士のつぶやきに、呆れるような声を出すハンマーズの人達。
決闘のルールはどちらかの降参もしくは全滅で終わるそうだが……
「だが、まだ騎士の名をかがさぬように持っていた奥の手が我々にはあるのだ!!」
そうリーダー格の騎士がいうと、何か黒い結晶を取り出した。
「これぞ騎士団起死回生のために極秘的に研究し創り出された人工的なワイバーンの種なのである!!」
ワイバーンの種?
その発言に、決闘を見ていた観客たちがにわかにざわめく。
「人工的にモンスターって作れるのか?」
「うーん、たしかスライムなら可能なはずですが、ワイバーンとなると……」
モンスターは自然に発生するようなものであり、人為的に作られることはまずない。
だが、何事にも例外というモノがあり、人工的なモンスターを生み出す技術というのはある事にはあるらしい。
ただまぁ、出来るのはなぜかスライムだけであり、ほとんど生命力がないそうだが……というか、そんなものがあるなら最初から使えばいいよな。
「ワイバーンを求めなくても、人工的なので作れるのならそれでよかったんじゃ……」
「何か問題があるのでしょう。そうでなければ使用しませんし……」
危険物だとすれば、なぜそのようなものをこのタイミングで出したのか。
考えられるのは、負けたくないという気持ちが変な方向へ偏って出してしまったことであろう。
「いでよワイバーン!」
っと、そう叫びながらその種を地面に騎士がたたきつけて、
パリン
ガラスが割れるかのような軽い音が鳴った……けれども、何も起きない。
その様子に、皆「ん?」と疑問に思い、やった騎士の方の予想外だったのかぽかんとしていた。
何が起きるのかわからぬまま、時間が経過し、変化がなかったので待つ意味がなくなったのかハンマーズたちがフルボッコにしたところで、決闘は終了した。
結局、最期のあれは何だったんだと言いたくなったが……何も起きていないし、騎士の方も「こうすれば煙と共にワイバーンが出るのだと思っていた」と供述しており、問い合わせに行くそうである。
「ただ何かをたたきつけただけというショボさだったな……」
「こう、ドッカン!!っと何かが現れたほうが面白そうでしたけどね」
『不発なのか、はたまたあの騎士が騙されたのか……まぁ、どうでもいいか( 一一)』
観客たち共に、里宇たちもその場を去る。
その決闘が行われた場所は何も起きておらず、翌日も使用が可能だそうだ。
結局、あれは何だったのだろうか。
里宇はそう疑問に思いつつも、ハクロたちと共に今夜の宿へと向かうのであった。
……この時、誰も気が付かなかった。
騎士があの黒い種をたたきつけたとき、その中から何かが飛び出ていたことを。
まだ形成もされておらず、不安定な見えざる「力」のみの存在がその場にいたことを。
そして、引き寄せられるかのように、その「力」が里宇の後を追いかけるかのようについていったことを……
……力というモノは、持つ人によってその形が変わる。
暴力であれば破壊、防御であれば守りと言った具合にである。
求めるものが違う物であるならば……




