ⅢーⅡ
「お兄ちゃんは夏海と同じく素直なんです。それに夏海思いの優しいお兄ちゃんですから、お兄ちゃんが夏海の言う言葉を疑ったりする筈ないじゃないですか」
そんなことを楽しく言い合いながら、俺達は何とか会場に到着する。
「あっ、なーちゃんが来ました。なーちゃん、おはよぉう☆」
俺達が入った瞬間、唯織さんが物凄い速さで駆け寄ってきて夏海に飛び付く。
「おはようございます。それじゃ、練習始めましょう」
それを大人にも夏海はスルーし、挨拶をして歩き出した。
「宜しくお願いしまぁす」
挨拶をすると夏海は、早速練習を始める気満々である。
「お兄さんはお客さん役よ。ただで二人のライブを見れるの、楽しんで頂戴」
俺にそう言うと、アリスちゃんはテクテク去って行ってしまった。
「今日は来てくれてありがとう。新作発売記念、皆に大サービス」
あんま可愛いとは思わないけれど、確かにショコラティエ感のある衣装で二人は登場してくれる。
「今日は特別に、全メニュー振る舞っちゃおっかな」
ビックリした。最初の唯織さんの台詞は、いつも通りカッコいいなくらいにしか思わなかった。どっからそんな声出てるんだろう、くらいにしか思わなかった。
でも今の台詞、本当に我が妹の声だっただろうか。
「やっぱ最初はこれでしょ。俺らが初めて作ったチョコの味を」
そこまで唯織さんのイケボが言う。
「「せ~の、甘くて苦い恋のちょこれーと!」」
そして二人でしっかり叫んでくれる。まあ叫んでるだけあって、ちょっと二人とも地声に近付いちゃってはいたけど。
まあそれで音楽が流れ始めて、二人が歌い始めてくれる。と思ったら、歌いはしないらしい。
「待って下さい。ワタシにもう一度だけチャンスを下さい」
その後続けるんじゃなくて、唯織さんがそうお願いをしていた。
「う~ん、まあさっきのは微妙でしたね。夏海ももう少し声が……、お願いします」
二人の希望で、もう一度やり直しをするらしい。へぇ、二人とも自分に厳しいんだね。
でもまあ当然か。人の前で演技をするんだ、歌を歌うんだ。それも、それを見にお金まで払って貰ってるんだから。練習もしっかりして、最高に楽しんで貰いたい、最高を見て貰いたいと思うのが当然だよね。
そして二人は、さっきのシーンをもう一度やり直した。二回目はやっと何とか、二人も納得がいったらしい。
「あれ? 次って何でしたっけ」
続きをやっていたのだが、夏海が台詞を忘れてしまったらしい。
「じゃあなーちゃん、今日の練習では台本を見てもいいんじゃないですか? まだ最初の練習なんですから」




