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love it  作者: 滝沢美月
5便
35/78

初恋は実らない? 7



 社長が連れてきてくれた中華料理の食べ放題のお店はオーダー制で、注文してから作ってくれる本格的な中華で、できたてあつあつを食べることができた。

 麻婆豆腐、棒棒鶏、海老チリ、酢豚、海鮮野菜炒め、餃子、焼売、小龍包、焼き小龍包、チャーハン、五目あんかけ焼きそば、ちまき、肉まん、桃まん、エトセトラ……

 どれも美味しくて大満足。

 特に桃まんが最高に美味しくて、おかわりで注文してしまった。

 中華の中でも飲茶が大好きで桃まんも大好きなんだけど、私の中で桃まんってあまり美味しいイメージじゃない。というのも、桃まんの可愛い見た目に惹かれて食べるものの、いままで食べた桃まんは残念なことにあまり美味しくなかったんだよね……

 だけど!!

 今日食べた桃まんは、生地がふわっふわっ! 餡の甘さはちょうど良く、口どけが良くて、何個でも食べられちゃいそうな美味しさだった。

 何個目になるかわからない桃まんを、頬が落ちそうなうっとりした表情で頬張っていた私に、社長がくすりと笑みをこぼす。


「美味しい?」

「はいっ、すっごくっ!」

「それはよかった」


 ふわっと微笑んだ社長の表情は桃まんの餡よりも甘くて、変にどきどきしてしまう。

 やっぱ、社長の男装姿は慣れないよぉ……

 でも、そんなことも気にならないくらい桃まんが美味しい~

 ぱくっと桃まんにかぶりついたら。


「瑠璃ちゃん」


 うっとりするような美声で名前を呼ばれて、驚きのあまり桃まんを飲み込んでしまい咳き込む。


「っ!! ……けほっけほっ」


 私は口元を手で押さえて、恐る恐る視線を社長に向ける。

 予想通り――というか、切れ長の瞳に甘い笑みをにじませた社長の表情はめまいがするほど素敵で、どぎまぎする。


「しゃちょう~??」


 動揺して声が裏返ってしまう。


「って、これから下の名前で呼んでもいい?」


 社長は笑顔でこくりと首を傾げる。

 その口から出てきた言葉は疑問形なのに、なぜだか嫌だとは言えない雰囲気が漂っていて、私はこくこくと頷く。

 まあ、名前で呼ばれるのは抵抗ないからいいけど。


「社長っていうのもやめてね?」

「じゃあ、なんて呼べば……?」

「柚希」


 なんでもないという表情で言い、社長は私の様子を伺うようにまっすぐに私を見つめる。

 うきうきしているというか、期待するような視線が突き刺さり、私は恥ずかしさを押し込めて声を振り絞る。


「柚希さん……」


 たったそれだけを言っただけなのに、私の顔はみるみる赤くなっていくのが自分でも分かるから恥ずかしい。

 社長が普通に女性の格好しててくれれば、名前で呼ぶのなんてなんともないのに。男装だと、変に緊張してしまうから困る。

 いまだって、隣に社長がいることに緊張しっぱなしなのに。

 恥ずかしすぎて穴があったら埋まってしまいたい心地でいたら。


「やっぱ瑠璃ちゃんって可愛いね~」


 とくすくす笑われてしまった。

 褒められたというよりはからかわれた感があって、私は不満げに唇を尖らせる。

 文句を言いたかったけど、ちらりと視線をあげれば、こっちをまっすぐ見つめる社長の視線とぶつかって。瞬間、ふっと麗しい微笑みを浮かべるから、どきっとしてしまう。いつもの社長なのに男性の格好だからか、対応に困ってしまい、私は俯いた。



  ※



 中華をお腹いっぱい食べて、他にどこか行きたいところはあるかって尋ねられて、私はうーんと首をひねる。

 中華街をぶらっとしたり、横浜でショッピングするのもありだけど……


「ユニバースワールドに行きたいですっ!」


 中華街のすぐそばにある遊園地だ。


「大学卒業してからぜんぜん遊園地って行ってないんですよね」

「ははっ、私なんか何年ぶりだろう」


 そう言って笑った社長とユニバースワールドで絶叫系のジェットコースターに乗った。

 待ち合わせ場所に社長が来た時は、予想外の男装にどきどきして、中華街ではすぐ隣に座っている社長に緊張していたけど、一緒に遊園地のアトラクションに乗ってはしゃいでいる社長はなんだか友達のように、いつのまにか緊張せずに社長と話していた。

 あまりに楽しくて、あっという間に一日が終わってしまった。


「楽しかったです。ありがとうございます」


 車で来ていた社長が帰りは家まで送ってくれるといい、社長の車は高速道路を都内に向けて走っている。

 社長は視線を前に向けたまま、優しい声で言う。


「こちらこそ」

「今日はほんと、ビックリしました」

「ん?」

「まさか、社長が男性の格好でいらっしゃるとは思っていなかったので。なんだかデートみたいで楽しかったです」


 そう言ったら、社長が困ったように苦笑する。


「えーっと、みたいじゃなくて、私はそのつもりだったんだけど」

「えっ!?」

「デートのつもりだったんだけど……」


 ため息まじりにちらりと艶っぽい流し目を送られて、私はびっくりする。


「えっ、でも、社長って、男性が好きだから女性の格好をしてるんじゃ……?」

「待って! それ誤解だからっ!!」


 私が困惑して尋ねたら、間髪入れずに社長が慌てた様子で否定する。


「まさか、そんな誤解してたなんて……」


 社長が苦々しげに小声でもらすけど、誰だって、そう思っちゃうよ……?


「本当は昨日、家まで送った時に説明したかったんだけど」

「昨日はいろいろありましたからね……」


 苦笑した社長に、私もつられて苦笑する。


「ちょっと長くなるけど、聞いてもらえるかな――?」


 そう言って聞かされた話は、私には途方もない話だった。




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