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love it  作者: 滝沢美月
5便
30/78

初恋は実らない? 2

新年あけましておめでとうございます。

今年も時間を見つけての執筆&更新になると思いますが

楽しんで読んで頂けるように頑張るのでよろしくお願いします。



「宇佐美さん、どうかした?」


 包装機の包装紙が切れてしまい、なんとか自分でやろうと悪戦苦闘していたら、背後から声をかけられた。

 その声が天の助けに聞こえて、私はすがりつくような思いで振り返った。


「しゃちょぉ~~……」


 情けない声が出てしまったのは、一生懸命背伸びして包装機の上になんとか包装紙を通そうとしている態勢で声を出そうとしてお腹が震えてしまう。

 しかも、つま先立ちの不安定な態勢で振り返ったものだから、危うく転びそうになって。

 その様子に気づいた社長が駆け寄ってきてくれたから、私は頭から社長の胸に飛び込んでしまった。

 わわっ……

 やわらかな胸におもいっきり頬を埋めてしまい、かぁーっと自分でも分かるくらい顔が赤くなってしまう。

 なんで胸……!?

 いやいや、きっとなにかの詰め物とかだろうけど、本物みたいにやわらかい!

 ってかそうじゃなくてっっっ!!!!

 社長は女性じゃないって分かっているけどなんだか照れてしまう。

 ぎゅっと社長に抱きしめられて、余計に思考が混乱して、慌てて社長から離れる。


「っっっ……、ありがとう、ございますっっっ」

「どういたしまして」


 挙動不審な私を不思議そうに見下ろして、社長はにっこりと笑う。

 それから社長の視線が私の背後の包装機へと移動し、なにかに納得したように笑みを深くする。


「ああ、包装紙がなくなっちゃたの?」

「そうなんです……、でも私じゃ背が届かなくて……」

「ははっ、そうなんだ」


 声をあげて笑われてしまって、なんだか恥ずかしい。


「貸して」


 その言葉の意味が分からなくて首を傾げたら、社長は私が手に持っていた包装紙を抜き取った。

 それから包装機に近づき、慣れた手つきでするすると包装機に包装紙をセットしていく。

 その様子を私は振り仰いで見つめる。

 だって、包装機の側に立っていた私の頭越しに社長が作業しているから仕方がない。

 ってか、近い……

 心なしか、自分の頬が赤い気がして、それを隠すように両手で頬を抑える。

 だけど、視線は社長に注がれたまま動かない。

 包装紙をセットする社長は、どこからどう見ても女性で、偽物だろうけど立派な胸もあって、さらさらの黒髪は羨ましいくらい艶めいてて、私なんかより百倍女性らしいのに。

 私が背伸びしても届かなかった包装機の上に、いとも簡単に手が届いて、なんなく包装紙をセットしてしまう社長は、やっぱり男性なんだなぁと納得してしまう。


「これでよしっと」


 包装紙をセットし終わって微笑んだ社長に、私は勢いよく頭を下げる。


「ありがとうございます、社長。やっぱり社長はだん――」


 勢い余ってうっかりこぼれそうになった私の言葉を、社長が慌てて私の口を塞ぐことで防ぐ。


「宇佐美さん……?」


 ひんやりとした声音で呼びかけられて、恐々視線をあげたら、社長は呆れたような苦笑を浮かべ。


「お願いだから、うっかりで言わないでね?」


 しっかりくぎを刺されて、私は口をふさがれた状態で、首が外れそうな勢いでコクコクト縦に首を振った。

 それを見て、社長がぷぷっと噴き出す。


「うん、お願いね」


 くすくす笑いながら去っていく社長の後姿を見て、私はなんで笑われたのか分からなくてきょとんと首を傾げた。

 ってか、社長、なにか用事があってここに来たんじゃないのかな……?

 まぁいっか。

 勤務時間が過ぎて、同じフロアの人にお先に失礼しますと挨拶して五階の事務所に向かって階段を上がる。

 今日もなんだかいろいろあった一日だったけど、時間に追われるように作業をしているとあっという間に一日が終わってしまう。

 事務所で退勤のタイムカードを切って事務の牧野さんに挨拶して、帰ろう事務所のドアを開けたら、ちょうど事務所に入ってこようとした社長と事務所の入り口で鉢合わせた。


「あっ、お疲れ様です」


 反射的に頭を下げると、社長はにっこりと綺麗な笑みを浮かべる。


「お疲れさま。上がり?」

「はい、今日は時間通りに終わりそうなので帰っていいと言われました」

「そう、じゃあ、送るよ」

「えっ!?」


 世間話の延長でさらっと言われた言葉に、私はすっとんきょうな声をあげてしまう。


「ええっ、大丈夫ですよ、社長」

「うんうん、宇佐美さんが遠慮深いのはわかったけど、自転車ないこと忘れていない?」

「あっ……、忘れてました……」


 つい昨日の出来事なのに、すっかり忘れていたことに驚いてしまう。

 まあ、昨日今日で、なんだかいろいろありすぎて、自転車盗まれた出来事が些細なことに思えて記憶に埋もれてしまったというか……


「でも、電車で帰れますよ……?」

「いいから素直に送られなさい、ちょうど私も店舗周りに行くからそのついで」


 顔は笑顔なのに、なんだか有無を言わさせない迫力に、なんと答えていいか分からなくなる。

 困っていたら、背後から遠慮がちに、でも好奇心に満ちた声がかけられる。


「あのぉ~」


 振り返れば、デスクに座っている牧野さんが興味津々という雰囲気を漂わせてこちらを見ていた。


「社長とうさちゃんっていつからそんな親密になったんですか……?」


 好奇心丸出しの牧野さんのうきうきとした表情から、私と社長の関係をとんでもなく誤解をしていそうで、私は慌てて否定しようとしたんだけど。

 私が口を開くよりも先に、社長が私の腰を抱き寄せて、ふふっと妖艶に微笑む。


「秘密よ」


 牧野さんは興奮に瞳を輝かせ、私はぽかんと社長を見上げる・

 ええっと……

 どこからどうつっこんだらいいのだろうか……

 だけど、私が突っ込む前に社長は牧野さんに店舗周りに行く旨を伝えて、さっさと私を連れて駐車場に向かってしまった。




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