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love it  作者: 滝沢美月
4便
23/78

恋にハプニングはつきもの? 3



「まあまあ、財布を届けたお礼だと思ってご馳走してもらっちゃいな」


 工場長の誘いを断ろうとしたら、社長に有無を言わさず近くの喫茶店に連行されてしまった。

 住宅街の真ん中にあるその喫茶店は「address 33」というお洒落なお店だった。喫茶店とは思えないほどメニューも豊富で、美味しかった。

 お会計時に、自分の分は自分で払おうとしたのに、やんわりと工場長に断られてしまった。

 ただ工場長が困っているだろうと思ってお財布を届けただけなのに夕飯をご馳走になってしまって、なんだか悪い気がした。

 喫茶店にはなぜか社長もついてきて――まあ、工場長と二人きりじゃ緊張しすぎて場がもたなかっただろうから、社長が来てくれてすごく助かったけど。工場長と社長はすでに夕飯を済ませていたということでコーヒーを飲むだけだった。

 なおさら、一人で食べてるのは申し訳なかったけど、そこの料理がおいしかったのと空腹も手伝ってぱくぱくと食べてしまった。

 お腹が満たされて工場長の家に向かって歩き、角を曲がって工場長の家が見えた時、私は違和感に、ぴたっと足を止める。


「あれ……?」


 工場長の家の前、歩道の道路よりの植栽の植え込みの前に鍵をかけて止めたはずのその場所に私のピンクの自転車が見当たらない……


「なんでっ!?」


 鍵もちゃんとかけていたはずなのに!

 一瞬、違法駐輪で持っていかれちゃったのかとも思ったけど、違法駐輪で撤去する場合は予め警告のタグをつけられて、すぐに撤去されることはない。ましてやこんな夜中に撤去作業をするだろうか……?

 そうなると考えられるのは……


「どうした?」


 フル回転で思考を巡らせていたら、背後からにゅっと顔を覗き込まれて、ビックリしすぎて息を飲む。


「…………っ!? あっ……、工場長……」

「宇佐美さん、どうしたの?」


 背後で社長も心配そうに眉根を寄せてこちらを見ていた。

 私は自分の推測をゆっくりと口に出す。


「自転車を盗まれたみたいです……」

「えぇ!? 鍵はしてなかったの?」


 ええ、ええ、当然の質問ですよね。

 社長の質問に苦笑しながら答える。


「鍵はしていました」

「鍵してたなら、どうやって盗んだんだ……」


 考え込むようにもらした工場長の言葉に、「さあ?」と首を傾げる。


「方法は分かりませんけど、以前にも盗まれたことがあるんです。一回は駅の駐輪場で、一回は家の前に止めてて。もちろん両方とも鍵しててですよ。まあ、その二回とも戻って来てるんですけど……」


 そうなのだ。

 いま乗っている自転車は高校の時から愛用している自転車で、高校時代に駅の駐輪場に止めてて盗まれて。近くに同じ色の自転車があったから、その自転車の持ち主が私の自転車と間違えて、それでたまたま鍵が合って、間違って乗っていっちゃったのだろう。

 ちなみに、私の鍵ではその間違われて残されていたピンクの自転車の鍵は合わなかった。

 でも、翌日には同じ場所に私の自転車が戻ってきていた。

 二度目は大学時代。家の前に止めてて盗まれた。家の前といってもちゃんとうちの敷地内で、まあ、チェーンとかはしてないから誰でも入れるんだけど、自転車自体には鍵をしていたのに盗まれた。

 この時はさすがに、「またか……」と思ってしまった。

 駐輪場で盗まれた時は、盗まれたというよりは間違われたのだろうから戻ってくる予感はしていた。

 さすがに二度目の時はもう見つけられないと思った。

 もちろん、鍵がしてあるのにどうやって盗んだんだろうという疑問はあった。

 それからもう一つ。実は後輪がパンクしてて、直さなければと思っていたのだった。

 鍵がかかった使い古した自転車、しかもパンクしているものを盗んでなんになるのだろうとはなはだ疑問だった。

 だけどもっと疑問なことが数日後。

 家から百メートルほどいった場所で、盗まれた自転車が見つかったのだ。しかも、パンクが直って……

 一体、なんだったんだと疑問ばかりの出来事だった。

 そして今回が三度目の盗難……

 なんとなくだけど、また戻ってくるんじゃないかという楽観的な気分で、これまでの二度に渉る盗難劇を語った私に、工場長と社長が顔を見合わせてなんとも言えない表情を浮かべるから、私はついむきになって言ってしまう。


「本当なんですよっ! 二回盗まれて、二回とも戻ってきたんですっ。だからきっと今回もそのうち見つかると思います~」


 へらっと笑って、片手をあげる。


「ということなので、電車で帰りますね~。あっ、もし私の自転車見つけたら教えて下さい~」


 自転車が盗まれることには慣れているといった風情で今度こそ帰ろうとしたら、今度は社長にぽんっと肩をたたかれてしまった。

 振り返ると、整った美貌になんともいたずらっぽい微笑を浮かべてとんでもないことを言った。


「もう遅いから、うちに泊まっていけば――?」




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