いくら木枯らしが啼いたとしても。私はもう、戻らない。
廃墟を駆け抜ける木枯らしが、まるで竜の咆哮のように響く。
「かつて栄えた竜族の都がこんなに無残に……。風の音が啼き声に聞こえる……」
女が呟いた。
「でも、都を滅ぼしたのは竜皇。その原因を作ったのも彼だから」
応じる声がきっぱりと言う。
「気に病む必要はないよ。ミア」
ミアと呼ばれた女が、傍らに立つ男を見た。
遠い過去を想い巡らせながら──。
◇
「ミアはどこだ!」
竜皇の怒声に、駆けつけた側近が平伏した。
「恐れながら。ミア妃は三か月も前に後宮を辞しておられます」
「何?」
鋭い眼光が、側近を貫く。
「ミアは我が番ぞ。なぜ引き留めなかった」
「へ、陛下にご報告いたしましたところ、"捨て置け"と言う事でしたので」
「ちっ」
言われてみれば覚えがある。
三か月前は他の妃に強請られ、百夜連続の宴を催していた。
地味なミアの戯言になど付き合ってられん、と放置を命じた気がする。
「ですがミア妃は偽の番ではございませんでしたか? "彼女は違う"と陛下は何度も否定されておいででしたが……」
「アレこそが! 我が番であった! 我が身の変化が、それを告げている」
竜皇が着衣を捲ると、腕にはびっしりと鱗が光っていた。
「番が離れれば、竜返りが抑えられなくなる。ここ最近気が乱れると思ったら、ミアの職務放棄とは生意気な!」
竜皇は吐き捨てる。
ミアは貴族家の生まれであったが、目立たぬ娘だった。
規定により番候補として幼いうちから後宮入りし、妃の一人として暮らしていた。
そんなミアも成年となり。
"私が竜皇の番です"と名乗り出たが、竜皇は「自分の気を引きたいための嘘」と断じた。
彼女を認めれば他の妃を廃し、番との子作りを強いられるのが慣例。
どんな花も手折り放題なのに、冴えない草を唯一妃として残す理由はない。
だがミアの傍は確かに落ち着くので、たまに顔を見せてやれば良いと、彼はそう思っていた。
「すぐに呼び戻せ。我が身が竜に変じれば、理性を失い都が滅ぶぞ」
竜皇の命令で側近が走った。
「なに。番とは輪廻を超えた結びつき。仮に転生したとても、我が手に戻る存在よ」
しかしミアは行方を晦ませ、竜皇は魂の番を探し出すことが出来なかった。
◇
「番の絆を断ち切る為に竜族ではなくなると聞いたから、私は人間になるのだと思っていたわ」
「ははっ。人間では、輪廻の輪から抜けられないから、神にしたんだよ」
孤独に泣き、日々、祠に祈りを捧げたミアが神界に引き上げられたことは、誰も知らなかった。
お読みいただき有り難うございました!
以前X(旧Twitter)で、"アンチ番"のお題をいただき、構想のまま置いていたのですが、なろラジで使えるのでは?と書き起こしてみました!(*´∀`*ゞ)
ミアはここに至るまで、竜皇だけでなく、他の妃から冷笑され、宦官たちから冷遇され、実家からも「早く皇子を孕め、役立たずめが!」と罵倒されて、それはもう切なく過ごしていた設定です。
竜皇の心が自分に向いてくれますようにと祈っていましたが、ある日とうとう番の心を得るのを諦め、「ここから逃げ去りたい」と祈りました。
祠に祀られている始祖竜はそれを叶え、ミアを自分がいる神界に渡らせたことで、竜皇は番を失う結果となります。
(始祖竜は始祖竜で、傲慢な子孫を嘆いていた&ミアを気に入っていた。本当はここで恋愛書きたかったけど、文字数足りずファンタジージャンルです)
1000文字少ないよね? 泣く( ;∀;)
というわけで、なろラジ4作めはキーワード「木枯らし」でした。
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