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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第四章 白の大陸
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動き出すために

 私たちは港の門の前で、馬車を下りた。

「少し歩きますが、つらいようでしたら、おぶりますよ」

「疲れは取っていただいたので、大丈夫です。歩けます」


 馬車の中で、魔法を使ってもらい、体は楽になった。

 第一、十四歳でおんぶは少々、恥ずかしい。



 港には旅館や店が並ぶ、にぎやかな場所とは別に、倉庫や小さな工場が建ち並ぶ場所がある。

 その外れにある、石造りの小さな倉庫に、ダニエル様は入って行った。


 入り口に足を踏み入れると、すぐに木製の壁と扉があった。

 魔導具の小さな照明が、薄暗く照らす入り口から入った場所で、ダニエル様が窓のよろい戸を次々に開けていく。

 その窓から光が差し込んで、空気中の塵が舞っていた。


 横幅は十五メートル、縦幅は三十メートルほどだろうか、

 一番奥に水回りをまとめているようで、その少し手前に、大小の木の箱が散らばっていた。

 二階もあるようで、木製のはしごが天井の穴にかかっている。


「ダニエル様、ここは倉庫ですよね?」

「ええ、外見はそうですね。私のために動いてくれている者の中には、白の民ではない者もいますからね。集まる時にはここを使います。宿を嫌う者も多いので、二階は泊まれるようにしてあるのです」


 そう言いながらダニエル様は、大きな箱を四つ集めて布をかけ、そのそばに小さい箱を四つ置いた。

「食事にしましょう」

 ルベとダニエル様が、料理を並べる様子を見て、私は急いで手伝いを始めた。


 この倉庫は隠れ家で、机と椅子はその時の人数で、形を変えるのだと思うと、急に楽しくなってきた。

 各国でお世話になった、ダニエル様の部下さんたちが、ここに集合したら、それはどんなに楽しいだろう。

 そこに私も入れてくれるだろうか。


『何か楽しい物でも見つけたか?』

 食事の後片付けをしながら、楽しく皆の事を思い出していたが、心の動きをルベに隠す事はできない。


「ほら、白の大陸に来るまで、ダニエル様の部下さんたちに、たくさんお世話になったでしょう? 皆良い人ばかりだったから、また、お会いできたらいいなあって思ったの」

『獣神官になれば、どこへでも行ける。生きている者には会える』


 私は驚いてルベを見た。

「え? 獣神官の試練は受けたから、獣神官でしょ?」

『四神獣と対面してはいないだろうが』

「ああ、忘れてた。いつ会えるの?」


『自分で言ったではないか、そう決心した時だと。膨大な魔力を受けるのだ。四神獣とて、その重大さを知っているから、その時を待っているのだ』

「そうか、大神官様しだいね」

 ルベは力が抜けたように、木箱に座ってダニエル様に目をやった。


『ダニエル、茶は向こうで飲め』

「ええ。分かっていますよ」



 どこへ行くのかと聞くまでもなく、ルベの空間は開いた。

「ここでお茶? 倉庫には誰もいなかったでしょう?」


『白の大陸は魔力の高い者が多い。この空間は人間にみつかる事はないが、中で今のベスが、魔法の使い方を間違えたら、どうなるか想像がつかない。歴代最年少の獣神官は、全てにおいて異例だが、その中にそそっかしいも、入っているからな』

 散々な言われようだが、否定ができないだけの事を、してきた自覚はある。


 ダニエル様は、楽しそうにお茶の用意をしている。

「神殿は良い茶葉を使っているのです」

『匂いがきついな』

「良い香りです。飲んだ後に鼻から抜ける香りが、豊かで好きですが、高そう」

 ルベと私に、高級な茶葉は向かないようである。


『ベス。白の学園長の家は安全だ。人間が設置できる最強の結界がある。我はこれから忙しくなる。神獣たちとも頻繁に会わねばならぬ。四六時中そばにいてやれぬだろう』


「うん。赤の神獣様に、お肉のお礼を言ってね」

 寂しくなるが、私が勉強をしている時間は、ルベも退屈だと思うと、ここは少し我慢をするべきだろう。


「私は白の学園地区内にある、学園長のお宅で暮らす訳にはいきません。できるだけ会いに行きますし、手紙もだします。この官服の金のモールは大神官の色。主神官の仕事の他に、やるべき仕事も増えたのです」


「会いに来てくれる?」

「ええ。私はベスの後見人ですからね」


 私はそのために、白の学園に行こうと決心をしたのである。

 ダニエル様のそばにはいたいが、足かせになってはいけない。

 たくさんの仕事を抱えている事は、魔導具のトリが運んでくる書類の量で、想像はついていたのだ。



『それで、今からベスに空間をやる』

「へ?」

 全く、思考が追い付かないのは、頭が不器用なせいだろうか。


『だから、我らがそばにいられぬ時、荷物は困るであろう』

「だって前は、大きな袋やカバンに、着替えとかを入れて運んだよ?」

『四神獣の基本の魔法は使えるのだから、袋は持つ必要がないだろう』

「そうか」


 素直に返事はしたが、実は理解ができないとは、言いにくい。

『ダニエルと同じ物だ』

「薬箱?」

「覚えていましたか。あの時はまだ、ベスに教えるには早かったのですよ」


『ベス、我に触れるのだ、そして我の魔力を感じるがいい』

「うん」

 私はルベを抱きしめて、魔力を感じようとギュッと力を入れた。


『そんなに力を入れると、逆に感じ取れぬ。ダニエル、ベスに小動物を抱かせるな。危険だぞ』

 ダニエル様は、クスクスと笑ってうなずいていた。


 ルベの体の中に、静かに流れている魔力は、お湯のような感じがした。

「あ、あった。分かる! 温かいね」

『にやけるな!』

 それは無理。お湯入りのぬいぐるみは、そうそう手放せない。


「あれ、ルベの手の先に何かがある」

『それを、自分の指に移してみろ』

「おお、移った、あれ?」

 小さなシャボン玉のような物は、割れるでもなく、まるで私の中に吸い込まれるように消えた。


『自分の指先に、もう一度出してみろ』

 実際には見えてはいない物が、頭の中で映像になっていたのだから、これはきっと、魔法のように、思い描く事ができれば良いのだろうと思った。


 案の定、それは私の指先に現れた。


『それがベスのカバンだ。そこにあるカップを入れてみるといい』

 ダニエル様の好きなティーセットである。

 落として割れる事を考えたら、手はだせない。

 消えても良い物はないかと考えて、頭に乗っている、邪魔な帽子を入れた。


「おお、入った。でも片方の腕しか使えないよ?」

 毎回指先にある空間に、物を入れるとなれば、使いにくい。


「そのカバンはベスの好きな場所にあるのです。自分の手の届く範囲の、どこにでもあるのですよ。ただ、入れる時と出す時は、人の目を気にしなければなりませんよ。私はポケットや袋から、出し入れしているように見せています」


 触れるだけで使えるので、重たい物を移動させるには、楽だろうと思った。

 私はいろいろな位置から、出し入れができるように練習をした。

 その空間は、時間が経過しないようで、熱い物や冷たい物、鮮度までが保たれるようだが、心臓が動いている物は入れる事ができないらしい。


 大きさは魔力に比例するらしく、四神獣に会うとかなり大きい物も入ると聞いて、ルベが巨大な魔物を入れていた事を思い出した。

 これで、着替えを自分で持てると思うと、嬉しかった。

 ルベは人間ではないが、下着は少し恥ずかしかったのである。


「ベスのカバンは誰にも見えません。盗む事も開ける事もできません。ただ、魔法を研究している者は、その存在を知っています。誰にも見られてはいけませんよ」

「もう、誘拐されるのは嫌です。そういう意味ですよね?」

 ダニエル様は、少し困った顔でうなずいた。



 ルベから渡された、私の物はそう多くはなかった。

 全財産は、学園に楽に通える額だとは聞いていたが、かなり多く、ダニエル様が小さな袋に少額を移してくれた。


「これで自分の持ち物が分かったでしょう? 学園で買い物はできますが、ここは港ですから、お店を見ながら楽しむのも良いでしょう。明日は学園に行きますよ」


 私はこの世界で初めて、一人になる気がした。

 ダニエル様やルベと、離れて暮らす事は何度もあったが、二人は必ず迎えに来てくれると、信じていた。

 私が待つ場所には必ず、二人とつながる人が、いてくれたのである。


 今の私は、どこか不安なのである。

 まるで、自分の荷物を抱えて、放り出されたような気がしていた。

 白の大陸には家族もいるというのに、小さな孤独が、心の中に急に現れた気がして、私は思わず、ダニエル様にしがみついた。


「どうしました? 急に独り立ちさせられた気分ですか?」

「はい」

「それは、お金と荷物のせいですよ。私もルベも、まだまだベスからは、目が離せませんから、そばにいますよ」


『学園では問題を起こすな。追い出されるぞ。我とダニエルがいなければ、神殿に閉じ込められるぞ』

 それは嫌だ。

「すごく良い子にしている。ありったけの猫を被っているわ」


「化けの皮ははがれますからね。ベスは良い子ですから、普通にしていてください。頑張り過ぎると、何かをしでかしそうですからね」

 ダニエル様は楽しそうに笑ったが、私を何だと思っているのだろう。



 港に並ぶ店には、世界中から集まったものが並ぶようだ。

 ルベがいない時のために、私は茶色のカバンを買った。

 学園には、寮や職員の住宅もあるので、買い物には困らないようだが、空間を人混みで使う練習も兼ねて、買い物をした。


 カゴを編む材料は、買った後で店を出て、人目のない場所で空間に入れる。

 コツをつかむと、それは思っていたより、面倒ではなかった。

 大きめの布の袋も、使えそうなので購入した。


「ベス、あなたは女の子なのですよ?」

「はい、そうですが?」

「服やリボンや、お菓子は良いのですか?」

 ダニエル様は呆れたように言うが、私はそれを望んだ事はないと思う。


「服もリボンもあります。お菓子は一人で食べると、悲しくなるから、乾燥果実で十分です」

 ダニエル様は困った顔をして、小さな陶器の器に入ったあめ玉を買ってくれた。


「ありがとうございます。懐かしい」

「どういたしまして」


 生まれて初めて魔物を倒した後に、買ってもらったのは、あめ玉だった。

 その容器は大切に手拭いに包んで、ルベに預けておいた宝物で、今は私の空間にある。

 この世界の子供たちには、なじみのあるものだろうが、私にとっては、二つ目の宝物なのである。


 大人はきっと、忘れてしまっているのだろう。

 子供にあめ玉を買い与える時、大人は本心を見せる。

 その顔は、店主に金を払う、ほんのわずかの間ではあるのだが。


 私の宝物には、飛び切り優しい、ダニエル様の笑顔が刻まれている。


 教えてはやらないが……。








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