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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第三章 黒の大陸
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イーズリ第二学園

 ダニエル様は来客用の建物で、今夜はお爺さんとお酒を飲むようである。

 私とアリスは、自己紹介を交わした後、退室する事にした。


「今日の授業は終わったのよ。学園の中を案内するわね。この時間だと人だかりができずに済むわ」

「人だかり?」

 私は廊下を歩きながら、横にいるアリスに尋ねた。


「ベスは学園長のひ孫だもの、やじうまが多くなりそう。学園は刺激が少ないから、こんなに可愛い子がひ孫だと分かったら、確実に大騒ぎよ」

 ひ孫だったか……。

 ダニエル様のお兄様の娘なら、確かにひ孫だが、その設定はまだ有効だったのなら、先に言って欲しいものである。


「ごめんなさい。私の親友を紹介させてくれる? ずっと付いてきそうなの。悪い人ではないのよ。ちょっとがさつで、驚かせてしまうかもしれないけれど」

「はい」

 本人は隠れているつもりだろうが、後ろに人の気配は感じていた。

 カバンのルベが、少しも反応しなかったので、悪意がない事は分かっていた。


「もう隠れないで良いわよ。一緒に学園を案内しましょう」

 細身で背の高い人だった。緑の目の下に、そばかすがある。

 そして何より驚いたのは、焦げ茶色の髪がとても短い事だった。

 この世界の人は男女ともに、長髪が多いのである。


「呼ぶのが遅いよアリス。初めまして、私はシャーロット。シャルでいいよ」

「ベスです。よろしくお願いします、シャル」

 なんて爽やかな笑顔なのだろう。

 差し出された手に、握手を返して見つめた。


「シャルの髪が短くて、驚いたでしょう?」

「はい。少し」

 初対面で見つめるのは、失礼だっただろうか。

 アリスが良いように誤解をしているが、私にとってショートカットの女の子は、ロングヘヤーの男性より見慣れているのである。


「私は武術科なんだ。一年生の時に男子と喧嘩になってね。女の癖に生意気だとしつこく言うから、目の前で髪を切ってやったのさ。ところが、この髪形は洗髪がしやすくて、止められなくなったんだ」

 それが理解できるので、少し笑った。


 私も髪を切った時は、首の寒さと洗髪が楽な事に、驚いた記憶がある。

「とても似合っています」

「ありがとう。母が泣きながらカツラを買ってくれたんだ。この姿で帰省してほしくはないのだそうだ」

 シャルは少し困った顔で笑う。


「気にしていないのは、あなただけよ。彼だっていまだに、自分のせいだと思っているのよ。そろそろ伸ばしたらどうなのよ」

「良き仲間になれたのだから、気にするなと言ってある」


 アリスとシャルの性格の違いが、面白くて笑ってしまった。

 その不器用な男子生徒には気の毒だと思う。

 気になる女の子を、泣かせてしまった気まずさどころの騒ぎでは、きっとなかっただろう。


 二人は校内の案内をしてくれているが、会話の方が楽しい。

 学園を訪れたのは、これで二校目だが、教室の雰囲気はどこの世界でも、大きな差はないと思った。

 この学園は私の通っていた高校と同じく、木製ではあるが、一人用の机と椅子だった。


 体育館はないが、武術用の練習場と、魔法の練習場があり、式典などは講堂を使用するらしい。

 図書館は広く、本の数は私の通っていた高校より、はるかに多い気がした。


 食堂には、数人の生徒がいて、楽しそうな笑い声が聞こえた。

「昼食以外にも、お茶を楽しんだり、友人とおしゃべりをしたりするのよ。ここは夕方までやっているの」

 アリスの言葉に、私は首をかしげた。

「寮には、このような場所がないのですか?」


「寮は男女別になっていて、年齢制限が二十歳までなんだ。大人の人たちは外で下宿したり、友人と部屋を借りていたりする。自宅通学者もいるし、貴族は別荘があったりするからな。ここは、そんな人たちと過ごす場所にもなっている」


 シャルに言われて思い出した。

 学園は十五歳から入学できるが上限がなく、お金の用意ができてから、入学する者も多いのだと、ダニエル様が言っていた。


「お二人の服は制服ですよね? 大人の方も同じ服装を?」

「十八歳までの未成年者だけよ。それ以上は指定のローブだけを着用するの」

 私としては、制服は若い人に着用してもらいたい。

 いい年をした大人の制服姿は、本人が思っている以上に不気味だと、テレビを見て思っていた。好みと性癖の問題ではあるが。



 二人は、学園内の人気がある場所を紹介しながら、最後は寮に到着した。

「学園長はベスに空き部屋をと、おっしゃったけど、良ければ私の部屋に泊まる? 空き部屋に一人でいても、体験にはならないでしょう?」


「良いのでしょうか」

 アリスの言葉が嬉しかった。学園長の部屋からここまでが、あまりにも楽しかったので、一人では寂しいと思っていた。


「もちろんよ、歓迎するわ」

「今夜は仲良し会か?」

「シャル、あなたは別のお部屋でしょ?」


「仲間外れにするなよ」

「うん。最初から、そのつもりだったわ」

 二人の息が合う会話を聞きながら、学園長の言いたい事が分かった気がした。


 私は出会いが少ないと、決して思ってはいない。

 ただ、十六歳の私は時を止めたまま、誰とも出会ってはいないのである。

 学園に行こう。

 同級生とともに、同じ時を刻んで生きてみたいと思った。


 寮の広い玄関の横には管理人がいて、入る時には部屋の札を提示する。

 私はアリスから、学園長の許可札を渡されて、それを出した。

「学園長から聞いているよ。ゆっくり休んでおくれ」

「一晩、お世話になります」


 玄関の正面には、食堂と談話室を兼ねている大きな部屋があった。

 長机とベンチ型の椅子が並んでいる簡素な場所だが、数組が楽しそうに話し込んでいた。

 窓の外には、たくさんの物干し台が並んでいる。

 その向こうにも同じような建物があり、渡り廊下が左右に付いていた。


 アリスの部屋は二階の角部屋だった。

「どうぞ」

「おじゃまします」

 ベッドと勉強机が二組あり、トイレと風呂が付いていた。


「そっちのベッドに座ってね」

 アリスは一つのベッドに視線を向けた。

 いやいや、人様のベッドに勝手に腰掛けるのは、まずいでしょう。


「同室の方は?」

「ああ、そのベッドは今夜、ベスが使うんだよ。アリスは羨ましい事に一人でこの部屋を使っているんだ」

 そう言いながら、向かいのベッドに腰を下ろすシャル。


「同室だった人が、二十歳だったのよ。今年一年、寮で暮らす予定だったけれど、一緒に部屋を借りてくれる人が見つかって、引っ越しをしたの。信用できる相手を探すのは大変みたい」

 部屋の隅にあった細長い机が、ベッドの間に丁度良く収まった所を見ると、きっと、どの部屋にもあるのだろう。


 このイーズリ第二学園は学園外でも暮らせるが、第一学園は学園外で暮らす事が許可されていないらしい。

 医学と薬学の、貴重な資料や研究があるからだそうだ。

 学園の規則をよく把握してから、進学するように勧められた。


「白の学園と、マニージュの学園は、寮の掃除をしなくて良いらしい。これ、結構重要な情報だ」

「寮の掃除は生徒がするの?」


「そう、自分の部屋だけだが、同室の子がだらしがないと、トラブルになる」

 シャルが顔をしかめて、アリスが笑ったところを見ると、どうやら、経験があるようだ。


 寮で快適に過ごす方法を、二人はたくさん伝授してくれたが、学園ごとに寮の規則は違う。

 ほとんどが他校では使えない裏技だと思ったが、ありがたく拝聴した。


 夕食の時間になり、私の分もあるというので、二人と一緒に食堂に入った。

 学園長のひ孫は、整理券が欲しいほどの人気だった。

 これほどの人に囲まれると、自分の心は体から離脱するのだと初めて知った。

 前世を入れても、人気者だった経験はないのである。


「はいはい、退いた、退いた。ベスが驚いているだろう。第一、見られていたら食べにくい、散れ!」

 シャルの大声で、周りに人がいなくなり、私は静かに息を吐き出した。


「散れって……。シャルは乱暴ね」

 アリスは私の前に食事のトレーを置いて、横に座った。

「私に上品さを求める者は、学園にはいないよ」

 浅い付き合いではあるが、私も望んではいない。

 だがシャルは頼りにはなる。


「求められているのは、優勝カップだものね」

 アリスはシャルの顔を、のぞき込んで笑顔を作る。

「気楽に言わないでほしいよ。結構大変なんだから」

 シャルは何かの選手なのだろうか。


「だって、去年の優勝者は卒業しているのよ。準優勝だったシャルに、期待が集まるのは仕方がないわよ」

「分かっているさ。だからアリスにしか泣き言を言わないようにしている」

 シャルの視線に、アリスはゆっくりとうなずいた。


 食事は食堂の黒板にメニューが張り出されていて、決まっているようである。

 肉は脂身のない部位をローストした物で、酸味のあるソースが付いていた。

 野菜と豆がたっぷりと入ったシチューと、果実が付いていた。


「パンとシチューはお替わりが自由だ。持ってこようか?」

 空になったパン皿を持って、シャルが言った。

「いいえ。これだけの量を、食べる自信がありません」

「それならば残すといいよ」

 シャルはそう言うと、パンを取りに行った。


「残しても、大丈夫よ。この学園では、魔獣も飼育しているから」

 アリスに言われて、私はうなずいた。

 忘れていたが、この学園は農業、林業、水産業の学部があり、畜産は農業学部の畜産科になる。


 この世界の学園には必ず、武術科と魔法科がある。卒業後は、城や各領地に務めるが、冒険者になっても優遇されるようである。


 部屋に戻って、早速、私は気になっている事を尋ねた。

「シャルは、何かの大会にでるの? ほら優勝カップとか言っていたでしょう?」

「ああ、あれはね、年に一度世界中の学校から代表選手が集まって、競技大会をするのさ。武術は男女別で、魔法は一緒。私は毎年武術部門に出場させられる」

 シャルは少し困った顔をした。


「出場は嫌なの?」

「シャルは学園の期待だけでなく、家からも期待されているから、大変なのよ」

「女の子なのに、家も期待をするの?」

 女性は護身以外の目的で、武器を持つ者は少ないと聞いていたのである。


「我が家は四姉妹なんだ。小さいが赤の大陸で代々領主を務めている」

「貴族様?!」

 私の素っ頓狂な声に、シャルは笑った。

「黒と白の大陸には貴族がいない。だから、学園では家名を名乗る事を禁止している。それが理由で私はこの学園を選んだのだ」


 シャルは卒業後、ラバーブ国の騎士団に入るのだと言う。それは、将来領地の兵を統率する力を得るためだと言った。

 髪が短い事を嘆く親が、武術大会の成果に期待するとは、驚くばかりだ。

 貴族は娘の幸せと、領民の幸せを願うのだから、いろいろと大変なようだ。


「魔力が高ければ白の学園に行きたかったよ」

「どうして?」

 うなだれているシャルの横で、アリスが小さく笑う。

「競技大会には、白の学園だけは参加をしないからよ」

「なるほど」

 魔力が高い者を集めている学園なのだ、出場されては迷惑だろうと思う。


 そう言えば、日本の高校も大会があった事を思い出した。

 私の通っていた高校では、地区予選を勝ち抜いた部活動の話を、一度も聞いた事がなかったが。







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