表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第一章 青の大陸
4/185

別れと出会いは突然に

 私は九歳。この世界は誕生日ではなく、一月一日に年齢が上がる。

 同じ年齢でも一年の差があると、幼い時には雲泥の差がある。

 私の場合は兄が双子であったせいか、気にはならなかった。いつの間にか身長は抜かれたが、それ以外は前世の記憶というズルがあるので、死守していた。


「じいちゃん!」

「ウィリー。教室では村長と呼べと言っただろう」

 突然叫び出した兄に、そっとため息をつく。


「聞いてない! それより、ベスばかり、えこひいきしてるだろう?!」

「しとらん」

「じゃあ、なぜベスは、今日習ったばかりの分数の問題が、全部できるんだよ」

 兄は最近、遊び相手ができて、勉強が疎かになっていた。


「ベスは、予習も復習もしているからだ。ウィリーは遊んでばかりいるのだから、仕方がないだろう」

「そんな事はいいんだ! えこひいきをするな!」


 ウィリーは最近反抗期のようで、怒って教室をでていった。

 近頃はこのような会話が多くなった。

 私はまた、ため息をつく。反抗期は兄だけではなかったのである。

 エルモもまた、反抗期で家族を困らせていた。


「ただいま。母さん、どうしたの?」

「ベス、お帰り。エルモがお昼を食べないんだよ」

「私が代わる。やることがまだあるんでしょ?」

 私は急いで手を洗った。


「朝も任せたのに、ごめんね」

「気にしないで。行ってもいいよ」

 母さんは小走りで部屋を出る。授業が終わった後は、村長と次の準備の打ち合わせがあるのだ。


「エルモ、おいしそうなスープとパンだね。ベスに頂戴よ」

「いや!」

「赤ちゃんだから、一人じゃ食べられないんでしょう?」

 私は少し、意地の悪い笑顔を作る。


「食べられる!」

「うそぉ」

「ベス。見ていろ」

 反抗期のやせ我慢だったのだろうか、おなかはすいていたようで、良い食べっぷりを披露して得意気のエルモ。


「すごいねぇ。そんなに上手に食べられる子を、見た事がないわ! エルモは何をやっても天才ね」

 反抗期は褒められても、素直になれないようで、すぐに遊びにでかけたが、顔は正直に喜んでいた。


 エルモの反抗期は何でも否定するタイプのもので、うまく否定させれば幼い分、扱いやすいのである。後は姉として、ひたすら褒めて育てようと思っている。

 弟は天使なのだから、何をしてもかわいいのである。

 別れが近いせいか、私は今、家族をとても大切に思っている。



 今は夏。秋にはこの村を出なければならない。

 この国の冬は雪が深く、移動には向かない季節なのだ。

 先日、村長に呼ばれて、それを聞かされたばかりだった。


 私は魔力が高いだろうから、神官様に任せる事になったのだと、子供だましのような理由が、後に付けられていた。

 生まれる前から決まっていたとは、言えなかったのだろう。

 ちなみにこの世界は、一日二十四時間、一年は十三カ月。大陸により長さは違うが四季がある。




 それは突然の事だった。

「ベス、起きなさい。ベス」

 眠っている私を起こしたのは、母さんだった。


「母さん? どうしたの?」

「とにかく、服を着て」

 私は訳も分からずに、言われるがまま着替えを済ませた。


「いいかい。今から神官様の部屋に向かいな。父さんが待っているからね」

「母さん?」

「愛しているよ。達者でね。いつかきっと会えるからね」


 母さんが私を抱きしめて涙を見せた。私は母さんに別れを告げられているのだと寝ぼけた頭で理解した。説明は要らなかった。おそらくそんな時間もないだろう。

「母さん。会える日を楽しみにしているわ。大好きよ」

「さあ。お行き!」


 私は礼拝堂の奥を目指した。

 夜だというのに、教会の外が騒がしい。

 胸が締め付けられる気がするのは、今しがたの別れのせいだろうか?

 それとも、緊張や恐怖からくるものだろうか?


「父さん!」

 私は父さんを見つけて、駆け寄った。

「さあ、急いで」

 父さんは神官様の部屋に私を入れた。

 本棚と本棚の間で父さんは何かをすると、私に手招きをした。


 そこには、人が入れる程の穴があいていた。

「ベス。よく聞くんだよ。ここに入ったら、右手を決して壁から離してはいけない。最初の角を曲がったところにカバンがある。それを持って行きなさい。中には水や食料や毛布が入っている。休みながら行くんだ。突き当たりまで行き着いたら、小さな穴がある。それにこいつを入れるんだ」


 それは、父さんの腰にいつも下がっていた。香木だった。

「すぐに開くといいが、何日待たされるかは分からない。だが、そこをけっして動いてはいけない。いいね?」

「はい」

「右手は壁。忘れるな。さあ、行け」


「父さん!」

 私は父さんに抱き付いた。

「ベス。きっとまた会える。それまで、元気でいろよ。愛している」

 父さんはそう言うと、私を抱きしめてから、そっと背中を押した。


「ここは閉じるから、ベスに追っ手はない。だが、戻れないからな。さあ、行け。人が来る」

 振り向いた私に、父さんはそう言った。


「はい。行ってきます」

 そう、再び会えるなら、別れではないのだ。

 私は父さんに背を向けて、壁に右手を添えると歩きだした。


 背後で音がした。

 私は立ち止まって振り返った。その先に光はなかった。


 急に押し寄せる不安と悲しみを、奥歯をかみ締めて堪えた。

 何かがあった事は確かなのだ。ただならぬ雰囲気と、私が逃げる理由、そして追われる理由が分からない。ただ、私は三人の無事を祈るしかなかった。


 二時間ほど歩いただろうか。

 私の手は曲がり角にあった。父さんの話ではカバンがあるはずなのだが、見つかるとは思えなかった。


 暗闇に目が慣れるのは、わずかにでも光があるからだと思う。

 この穴は土の中のようで、明かりは全くない。

 どんなに目を凝らしても、自分の足先も見えないのである。


 地面か、壁にあるのだろうが、先を考えれば水や食料は欲しい。

 私はゆっくりと角を曲がった。

 暗闇の中に、小さな赤い光があった。

 周りに光はないのだから、自ら光っているのだろう。


 私はその光の場所に急いだ。それは、縦が二十センチ横が三十センチ、幅は十センチ程のカバンで、持ち手は、肩から斜め掛けをする長さがあった。


 私はその大きさに毛布が入っているとは思えず、そっと手を入れてみた。

「あれ? 何もない。水がほしかったのに……」

 その時、手に何かが触れた。

 私はそれが何かを知っていた。この世界では水袋と呼ばれている水筒である。


 栓を開けて臭いを嗅いでみたが、異臭がなかったので、ゆっくりと口に含む。

 変な味もしなかったので、とりあえず、渇いた喉を潤した。

 水は貴重なので、それをカバンに入れて、また歩きだす。

 先は長そうだが最悪、水があればしのげると思った。


「おなかがすいた……。少し休憩」

 暗がりの中で歩いたせいか、疲れを感じて座り込んだ。

 子供だって疲れる時はある。

 右手が触れていた壁を背もたれにして、目を閉じた。

 父さんと母さんとエルモの顔が浮かんだ。


 生まれて十年。こんな時、日本の家族が最初にでてこない私は、情が薄いのだろうか?

 祖父である村長や、実の両親、双子の兄に別れを言う時間はなかったが、彼らともまた会えるだろうか……。



 温かなベッドで、私はエルモを抱いて、幸せに眠る夢を見ていた。

 随分と眠っていたようだ。起こされたのは夜だったので、仕方がないかと思いながら、そのぬくもりで気が付いた。


「毛布?! え? 誰が掛けてくれたの?」

 辺りには誰もいない。

「あれ? 見えている……」

 私の横にはカンテラがあり、それは、優しく辺りを照らしていたのだ。


 毛布の中で、私ではない何かがモゾモゾと動いた。

 それはゆっくりと毛布の中から現れた。

「フェネック? 違うよね。顔が丸いもの。おでこに赤い石……。まさか、カーバンクルだったりして。そりゃないか……」


 その生き物は右前足と左後ろ足を、気持ち良さそうに伸ばすと、逆も同じように伸ばして、お座りをした。

 毛布とカンテラ。そしてかわいい生き物。

 私は頭を抱えた。眠っている間に何が起こったのだろう。


「暗闇を歩くのは危ないぞ? そんな薄着で寝るな。風邪をひく。欲しい物があるなら、欲しいと言え。ある物は出す。ない物は出せない」


 キョロキョロと辺りを見渡す私は、おかしいだろうか?

 辺りには誰もいないと、確認していたはずなのに、その声は確かに親切な説教とともに、聞こえたのである。


 目の前にいるのは、白いぬいぐるみのような生き物だけ。

「うさぎ耳の長毛種の猫? 耳は大きいけど、三角だからキツネ? おでこの石はアクセサリーかしら? 餌とトイレはどうするんだろう? それより重要な事があるわ。野良かしらね?」


 とりあえず、私はその生き物の前に手をだした。

「お手」

 私の手に右前足がチョコンとのせられた。

「お替わり」

 左前足をのせて、その生き物は言った。

「気が済んだか?」

「やはり、その声はさっきの声……。話せるのね?」


 タイミングがいいのか、悪いのか。私のおなかがなった。

「カバンから飯を出せ」

「うん。あれカバンはどこだろう?」


 辺りを見回してもカバンはなかった。だが、目の前にカバンはあった。

「そそっかしいのよね。目の前にあるじゃない」

 私はカバンの中から、奇麗な布に包まれた物を取り出した。

 それはサンドウィッチだった。


 早速食べようとして、今度は先程の生き物がいない事に気が付いた。

「あれ? 大耳猫ちゃんは?」

「猫ではない」

 今度はちゃんと見えた……。見てはいけない物を……。多分夢……。


「おい。大丈夫か? 食うのか、(ほう)けるのか、どちらかにしろ」

「あなたはカバンなの? それとも猫なの?」

「だから猫ではないと言っただろう」

「カバンなのね」


 その生き物はうなだれて首を振った。

 あり得ないが、自分の目で見てしまったのだ。ならば事実なのだろうと、私は諦めて、食事をする事にした。


「食べる?」

「いらん」

「はい、どうぞ」

「なぜ聞いたんだ……」


 私はパンにはさまっていた。ロースト肉をひときれ手に載せて差し出した。

 その生き物は、それを食べてから、私の手を舐めた。

「うまいな。懐かしい味がする」


「お肉が好きなの?」

「いや。魔力だ」

「魔力? お肉にあるの?」

 人間以外のため息を、私は初めて聞いた。


「お主の手だ」

「手? 私の手に魔力があるの?」

「そこからか……」

 うなだれる生き物はかわいいが、私はどうやら失望させたようである。


「よく分からないけど、おいしかったのなら良かったね」

「ああ。百年振りの味だ」

 仙人に飼われていた猫だろうか。


「えぇとぉ。ごめんね。私は十年しか生きていないのよ」

「知っている。この日を待っていたのだからな」

「え?」

「最後に舐めたその魔力は、ミッシェルという名の女の魔力だった」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ