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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第六章 幸せの赤と銀
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ドレア村の結界

 私はキノコの本で、ブリューキノコを調べてから、首をかしげた。


「ドレア村って森の近くにあるのに、村人がキノコを間違える事ってあるの?」


 ブリューは晩秋に出回る、香りの良いキノコで、傘は肉厚で味も良い事から、人気があるキノコだ。

 ブリューの仲間で、傘に白線模様があるハクセンブリューは、素人でも見分けが付く程で、その毒キノコは薬師でもなければ、手にする事はないようだ。


 世界中でも数十年に一度、その毒の中毒患者がでるらしい。

 神経系の症状は、軽い目まいやしびれがあり、胃腸などの消化器にも軽い症状がでる程度で、余程衰弱している者を除けば、重篤なものにはならないと、本には書いてあった。


「教会に行って、治療にあたった神官に、直接聞いてみたのですが、毎年ブリューが森に出る頃は畑の収穫も終わり、ドレア村は皆でシチューを作って食べる習慣があるようなのです。村にも毒消し草は用意してあったようですが、効果がなく、教会に魔導具で知らせがきたようです」


「間に合ったの?」

「ええ、頑張って三日で到着したようです。衰弱している者もいたそうですが、全員回復したと言っていました」


 ダニエルは神官から、特別な情報は得られなかったようだ。

 それにしても、収穫が終わった後で皆と食べるシチューは、村人の楽しみだったに違いないと思うと、気の毒な話である。


「回復しても、魔物からは逃げられなかったら、意味がねえだろうよ」

 ギルドに行っていたジルが、腹立たしそうに言う。


「そんなに強い魔物だったの?」

 逃げられる魔物なら、生存者はいるだろうと思うと、その魔物が気になる。


「いや、森や山に近い村ならどこでも食べていると思うぜ。ボアだったらしい」

 ボアとはイノシシのような魔物で、その種類や大きさも様々だが、捨てる部位がないと言われている。


「村人がなすすべもなく、全滅したの? 村人って二人か三人だったの?」

 普通のブラウンボアならば、仕掛けがなくても狩る事ができる魔物である。

 彼らは子育ての時期以外は単独行動をするので、弱い魔物ではないが、討伐はしやすい。


「ギルド員の話では、普通のブラウンボアとそれより大きなブラックボアを村の近くで討伐したらしいが、群れを作らないと言われるボアの集団には驚いたらしい。それより、知っている奴から聞いた話だが、ブラックボアの倍以上はある、大きな足跡を見た者がいるようだ」


「ブラックボアの倍以上?!」

「それならば巨大ですから、冒険者たちでも見えたと思いますけれど」

 驚く私の横で、ダニエルが不思議そうな顔をした。


「ボアだとおかしいよ。僕は村人の荼毘について、兵士に聞いてきたんだよ。村人は抵抗した跡が無く、内臓だけを食われていたらしいよ。ボアは暴食だから、部位を選んだりしないだろう」

 ディランは兵士のところに、情報を聞きに行っていたのである。


「シルバーボアかしら?」

 私は読んだばかりの本を開いて、もう一度確かめた。


「シルバーボア?」

「グレーボアなら、確かに巨大だが、黒の大陸にしかいないと思うよ」


 初めて聞いた名前なのだろうか、ジルに続いてディランが言ったが、グレーボアならば、私はルベに食べさせてもらった記憶がある。


「このキノコの本に書いてあるのよ。ブリューの仲間には、傘に銀色の斑点が付いているキノコがあって、独特の匂いがシルバーボアを凶暴にするらしいわ。銀のブリューはシルバーボアの排便で育つって本に書いてあるのよ」


「シルバーボアと、シルバーブリューですか……」

 ダニエルはそう言ってルベを見た。


『我はキノコの名前を知らぬが、金属色のボアならばいるぞ。うまいぞ』

 ルベの魔物の説明は、最後には必ず味の感想が付く。


「分からないキノコと、知らない魔物、それから近付けない村ですか。これは行ってどうにかなるんでしょうかねえ」

 ディランはそう言って、困ったような顔をする。


「行ってみなければ、分かりませんね」

 ダニエルは、初めから行く気だったと思うが、あえて言葉にしたようだ。


「だよなあ。俺は机に向かって考えても、答えはでないと思うぜ」

 ジルが机に向かっている姿は、想像ができない。


「ジルの場合は、机に向かうと寝ちゃうから、答えがでないんだろう?」

「まあな」

 ディランはジルをからかって、楽しそうに笑った。


「それでは、明日の朝には村に向かいましょう」

 ダニエルはそう言って、皆の顔を見た。

 任務なので、私たちは首を縦に振るしかなかった。




 幌付きの馬車で、村や小さな町の人たちにドレア村の情報を聞きながら、のんびりと五日ほどかけて、私たちは村の近くまでやってきた。

 村に続く道の横には小さな小屋があり、その前にはクレトロアの私兵が、立っていて、私たちの馬車に近付いてきた。


「ここから先は、通行禁止区域になっております」

「ご苦労さま。領主からの許可証です。私たちは領主の依頼で、ドレア村の危険を調べにきたのです」


 兵士の言葉に、ダニエルが通行証を見せながら言った。


「そうでしたか、それでは馬が怯えますので、馬車はこちらに置いて行かれると良いでしょう。私たちの馬と一緒に面倒は見ています。危険ですから、よろしければ、粗末な小屋ですが、お嬢様をお預かりして置きましょうか?」


「彼女は私たちより、はるかに強いですから連れていきます。ご心配をいただき、ありがとうございます。お言葉に甘えて、馬車をお願いいたします」


 兵士はこちらを見て、小さく首をかしげて笑みを浮かべたので、私も同じように笑みを浮かべてみせた。

 兵士と私の疑問に、大きな差はないと思う。

 ダニエルたちより魔力はあるが、私は強くはない。


 私たちは、お隣の家にでも行くように何も持ってはいない。

 私がルベのカバンを、斜め掛けにしているだけなのである。

 兵士は心配そうな顔をしているが、領主が許可をだした者たちを、止める訳にもいかないのだろう。

 私たちはいろいろとズルイので、こちらが逆に申し訳ない気持ちになる。


「ベス様は、本当に初対面美人だよねえ。動かずに黙っていれば、周りが守ってくれそうだものね」

 そう言えば、初対面美人と言い出したのは、ディランだった。


「エリー譲りの気の強さと度胸に、ダニエル様の口の悪さだからなあ。おまけに守られるより、守りたい勇者気質ときてる。あんな小屋には預けられない」

 ジルは楽しそうに私の悪口を言っているが、きっと自覚はしていない。


「間違いなく小屋を破壊して、追いかけてくるよね」

 ディランはそう言って私を見たが、返事などしてやるものか。


「ベス様を置いて行ったら、そこのカバンに怒られますよ」

 ダニエルの言葉に、二人はカバンのルベを見て笑った。


 兵士の小屋を壊したら、彼らが困る事くらいは分かっている。

 もちろん、ちゃんと謝罪の手紙を残して、礼儀正しく抜け出すが、追い付いたら、無理難題を山のように言われる覚悟は、していてもらいたいものだ。

 十七歳になっても、結界に閉じ込められるなら、頼まれても出てはやらない。


『ベス! 止まれ!』

「皆! 止まって!」

 ルベの言葉を伝えながら、私は剣を抜いていた。


『結界が張られておる。ベス、油断をしてはならぬ。目を凝らせ』

「あっ、奇麗な結界だね」

 ルベに言われて見えたのは、透明なパラフィンのような結界だった。


「見えるのですか?」

「うん。言われなければ気が付かなかったと思う」

 ダニエルが私のそばで大きな杖を構えていた。


『この結界は、与えられた力をそのまま返すものだ』

「それじゃあ、けが人は自分の力で傷が付いたの? 具合が悪くなった人は?」


 ここに来た人たちが全員、悪意があった訳ではないだろうが、結界の先へは行けなかったのである。

 誰が、何の目的で結界を張ったのだろう。


『その者の気持ちなのだろう。この結界は人を入れないために、張ってあるのだろう。我は力ずくで入る事ができるが、悪意のない相手を怒らせて、皆を危険にさらす気にはなれぬな』

 ルベの言葉を、ダニエルはジルやディランに話した。


「とりあえず、飯にしませんか? 俺、腹が空いていると、考えがまとまらないんで。ねっ?」

「ねっ? じゃない! ジルは腹が膨れたら、考えるどころか、寝てしまうじゃないか。僕は何度も同じ罠には掛からないよ」

 どうやら、ディランは痛い目にあったようだ。


「私も休憩するわ。待っていようと思うのよ」

「誰をですか?」

 ダニエルが私を見て聞いた。


「奇麗な結界を張れる、優しい人をよ」


 ダニエルやルベが、私のために張ってくれる結界とは全く違うのだが、それでも少しの不安も感じない、優しい気持ちが伝わってくるような結界である。

 そんな物を広範囲に張れる人が本当にいるのならば、とんでもない魔力の持ち主なのだろう、一度は会ってみたいと思った。


『ダニエル、ベスに飯を食わせろ。長期戦になるかもしれん』

「そうですね、休憩を兼ねて食事にしましょうか」


 空間を使わずに、外で食事をするのは久しぶりだった。

 私は小さなカマドを作って、お茶用にも使えるように湯を沸かす事にした。

 そのカマドの横に、テーブルをだして、ベンチもだした。


 焼きたてのパンは、出盛りの木の実がたくさん入っている物で、私の大好物なのだが、料理が食べられなくなるから、一個しか許されてはいない。

 菓子パンをご飯前に食べても平気な女子は、少ないと思うが。


「ヘンリーは……」

「うは、何の冗談ですかね。うまそうだけど」

 ダニエルの持ち上げたお玉には、キノコがタップリのクリームシチュー。


「任務中に変なキノコを食べないようにしたんだろう?」

 ジルがなぜか、私を見て言った。


「海グモを初めに食べたんだよね?」

 ディランが私を見る目に、なんとなくいらついた。


「海ネズミも食べましたからね」

 ダニエルは、絶対に私をゲテモノ食いと認識していると思う。


 皆の分の食器をだして、ダニエルによそってもらう。


「ベス様。一人分多いですよ?」

 ダニエルは私に、優しい笑みを浮かべて言った。


「いいの、ダニエル。あなたも食べるでしょう?」

 私は振り返って、彼女に語り掛けた。


「そ、そうですね。ご一緒にどうぞ?」

 ダニエルは私の後ろに視線を置いて、そう言った。

 ダニエルには彼女が見えていないようだ。


「お、おう。飯は皆で食べる方がうまいからな」

「ジルは一人でも、おいしそうですが? うるさい食卓ですが、いかがですか?」

 ジルとディランは見えない相手に、歓迎の意思を伝えたいようである。


 不自然なほどに賑やかで、上滑りする会話に苦笑いをするしかない。


 見えているのは、私とルベだけなのである。


 がんばれ、みんな!







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