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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第六章 幸せの赤と銀
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結婚パーティー

 リナルドがクララに結婚を申し込んだ。

「いや、交際を吹っ飛ばして、結婚を申し込むって、クララだって女だぞ? 承知する訳がないだろう。リナルドは何を考えているんだ?」

 ジョンは呆れたように言った。


「クララは、受けたらしいよ。僕は彼女に直接聞いたんだから、間違いない。リナルドの心変わりを心配するより、ゆっくり二人で先の事を考えたいらしい」

 ディランはあの二人は変わっていると言いながら、笑っている。


 私は恋人同士になった幸せな二人を想像していたので、聞かされた時には驚いたが、リナルドとクララの付き合いは長い。

 二人がいつから両片想いだったのかは知らないが、すぐにでも結婚をしたいと思うほど、結婚相手として見極めていたのだろうか。


「それにしても、ダニエル様は二人をどのように説得したのかしら?」

『あれが、説得などする訳がなかろう。リチャードと二人で、脅していたぞ』

「ええぇ? 脅されるようなリナルドではないと思うよ」


『私も聞いていたわ。あれは脅しね』

 珍しく、アムが楽しそうに尻尾を揺らした。


“あの超絶に鈍いベス様にまで、見破られる態度は、少々目に余ります。いい加減にクララに告白したらどうなのですか。多分、彼女もあなたに惚れていますよ”


 アムがダニエルの真似をして、その会話を教えてくれた。

 それにしても“あの超絶に鈍い”は言い過ぎだと思う。

 また聞きでも傷付く……。


“適齢期の女の子は、恋心に賞味期限がありますよ。あまり放って置かれると、自分は相手の好みではないと片想いに終止符を打ち、言い寄ってくる男の手を取ります。それが、片想いの人が思い出の人になる瞬間ですね。クララはとても良い子です。私もそろそろ、身を固めたいと思っています”


「リチャードも、クララが好きなの?!」

『鈍いと言われたのよ、ベス。その上、ずれてどうするのよ? リチャードはリナルドに、のん気にしていたら取るぞと、脅しただけよ。あの二人はさすが、兄弟といったところね』


 私は鈍くてずれているのか……。

 神獣より恋愛に疎いと言われた気がして、落ち込んだ。



 リナルドの執務室には、小さなバスケットに、彼の名前と小花が刺繍された布と木の実がふんだんに入ったパンが飾られた。

 クララが結婚の申し込みを受けたお返しで、元々は貴族の風習だったが、今は身分に関係がなく行われている。


 刺繍が上達しない私は、プロポーズを受けられない事になるが、不器用な女の子は私一人ではないようで、それ用の布に刺繍をしてくれる衣料店や小間物屋があるらしい。


 結婚の行事は身分によって様々なようだが、届けを提出して、教会で神に祈ってから、家族や友人と食事会やパーティーをするのが普通である。

 結婚を届ける場所が地域により遠い所もあるが、結婚と出産は届けを出して、身分札を新しくしなければ、ケガや病気の時に教会や治療院に掛かれない。


 その報告も兼ねて、教会にも行くのだろうが、純粋に二人の末永い幸せを、神に願いに行くのかもしれない。

 取りあえず、神官がお節介にも二人の愛情を改めて確認したり、誓いを立てさせたりはしない。


 リナルドは、父親が大神官の執事で、彼は獣神官の執事である。

 クララの家は父親が本部の警備隊長で、母親も元本部の侍女という肩書きがある。

 おまけに長兄とその妻も、本部勤務という家族で、白の民の中でも、エリート一家である。


 館を代表して、昔から付き合いがある、ダニエルとリチャードと父さんと母さんがパーティーに招かれた。

 二人の雇い主である私は、獣神官という立場なので、こちらの都合に合わせて、日程が組まれたようだ。


 リナルドの実家は居住区内でも、警備が特に厳重な場所にあるが、大神官様も出席するとなれば、物々しい警備体制がひかれる事になる。

 私と大神官様の出席は当日まで伏せられる事になった。

 ルベが一緒で、結界を張るのだから、私は万が一もあり得ないと思ったが、神獣様が参加するのを知っているのは、一部の人だけなのである。



 リナルドの実家は普段、家を維持する使用人が最低限いるだけだと聞いていたが、大きな家で、ホールにはかなりの招待客がいた。

 ほとんどが本部関係者なのは、双方の実家の職業柄、仕方ない事だろう。


 クララは、母親の手製のドレスを身に着けていた。

 決して派手ではないが祝いの席にはふさわしい、品の良いドレスは、クララにとても似合っていた。


 リナルドも当然だが、いつもの執事服ではない。

 実は、執事服以外は持っていないのではと心配で、ダニエルに聞いてそれは盛大に笑われたのである。

 今もリナルドの服を見て、ダニエルが口元を抑えているのは、思い出し笑いを隠しているからに違いない。失礼な!


 ちなみに私は、頼まれていた祝辞を失敗もせずに言えた事に、胸をなで下ろしていた。

 それは、大神官様の祝辞と比べられたら、幼いものかもしれないのだが。

 それでも二人の主が、変な人間だと思われたら気の毒だと思い、ダニエルの前で練習をしていたのである。


「エリザベス様、お久しぶりです。お会いする度に、美しくおなりですな」

 そう話し掛けてきたのは、教会本部長だった。


 少々ふくよかな体は、間違いなく運動不足だと思うが、その体に付いている頭は、すがすがしいまでに地肌を得意気に披露していた。

 ただ、そんな中で彼の目だけは、何を考えているのかが分からないほど険しい。


「ありがとうございます。未成年の私に、そのようにおっしゃってくださるのは、本部長だけですわ」

 私は頑張って笑顔を作った。


「ダニエル様、リチャード様。今日はお会いできると思って参りました。娘が戻っておりまして、妻が久しぶりにお食事にご招待したいと申しましてな。ご都合はいかがでしょう?」


 ダニエルたちの実家は本部長の家から近く、幼い頃に世話になっていた時期があると聞いていた。

 にしてもこのオヤジ、このパーティーを何だと思っているのか、ダニエルやリチャードが主役ではないのだぞ。


「申し訳ありません。お誘いは嬉しいのですが、私は今、目が離せないものの研究をしておりまして、今日の時間を作るのですら、大変だったのです。奥方様にはよろしくお伝えください」


 リチャードはとっさに逃げた。

 目が離せない植物って何だろう。

 もう少し、ましな嘘はなかったのだろうか。


「私の仕事は、二十四時間不定期で、仕事場を離れる訳には参りません。せっかくのお誘いですが、立場上、個人のお宅を訪問する事はできないのです。本部長もご存じのはずですよね」


 ダニエルもさすがに悪態はつかない。

 だが、個人のお宅はよく訪問していると思うのだが。


「ああ、そうだったね。娘が青の大陸に戻る前に、昔のように話がしたいと、しきりに懐かしがるものだから、ついね。またそんな機会でもあれば、お願いする事にするよ」

 本部長はそう言って、他の招待客の方へと向かった。


「ご飯くらい、付き合ってあげれば良いのに。娘さんが来ているんでしょう?」

「だからですよ」

 私の言葉に即答したのは、リチャードだった。


 ダニエルの話によると、本部長の娘は幼い子供がいる既婚者らしい。

 彼女はダニエルの兄弟の誰かと結婚をするのだと、思い込んでいたらしく、本部長の夫婦もそれを望んでいたようだ。


 彼らの両親はその後亡くなったが、その時に、両親に頼まれていたからと、彼らを迎えにきたのが、本部長夫婦だったという。

 ダニエルたちが両親に聞かされていた人物は、本部長ではない事から、彼らはそれ以後、彼らを信用する事はなかったようだ。


「最近、結婚生活がうまくいっていないようで、兄の元に本部長が、私かリチャードとの結婚を打診してきたのです。兄は本部長が一人娘をそばにおきたいだけだろうと言っていますが、全く、迷惑な話です」

 ダニエルが本当に嫌そうな顔をした。


「結婚して子供がいるんでしょう? 離婚してもいないのに、それじゃあ、浮気になるんじゃないの?」

 私の質問は、この世界の結婚の常識から、外れているだろうか。


「次の行き先を決めてから別れる話は、よくありますからね」

 リチャードはそう教えてくれたが、就職先でもあるまいし、そんな話がよくあってたまるか。


 リナルドとクララの結婚パーティーは、滞りなくお開きになった。

 リナルドたちは、三日間だけの新婚休暇をとって、館に戻ってきた。


「私事で、ご迷惑をお掛けいたしました。これで思い切り仕事に励めます」


 リナルドの横で、クララも笑顔でうなずいているが、心おきなく仕事をするために、結婚をしたのだろうか……。

 肯定されたくはないので、聞く事はしなかった。




 それから数日後。

 私とダニエルは大神官の執務室にいた。


 私たちの向かいの席には、派手なドレスを身につけた、ご婦人が優雅に座っているが、ここは教会本部の神殿で、一般人は一階のホールまでしか入れない。

 おまけにここは、大神官の執務室である。


「ダニエル、会いに来てくださらないから、こちらから参りましてよ」


 誰だろう……。









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