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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第六章 幸せの赤と銀
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館に暮らす者達

 私の十六歳は、まばたきをしている間に通り過ぎてしまった。

 前世で高校に入学した時は、上級生が随分と大人に見えた事を思い出したが、彼らにはその変化の自覚はなかったのかもしれない。

 残念ながら私には、変化がないという自覚しかない。


 私に変わりはなかったが、館は少し変わった。

 去年の春に結婚をした、青の大陸のリーダーであるジルベルトことジルが、一年間の新婚生活を楽しんでから、館に戻ってきた。

 無論、その間も仕事はしていたので、館にも来てはいたのだが。


 ジルと結婚した相手は、ラバーブ国で食堂を営む、ダニエルの協力者の娘アンだった。

 私はかつて、店の二階に泊めてもらった事があり、その後も数回、ダニエルと食事に行っているので、変装をして家族の結婚パーティーにまで参加した。


 彼女は武器を持たないが、料理の腕は父親仕込みで、ヘンリーとアガタ夫婦の手伝いをする事になった。

 接客業をしていたせいか、アンは人見知りがなく、すぐに館のメンバーの中に打ち解けた。


 あの体が大きなジルが、アンを見ては目尻を下げる姿は、生き物としては可愛いが、人間として見ると少々残念に思うのは、私だけではないようで、時折、聞こえる会話からもそれがうかがえた。

 希望者は一年間、館を出て暮らす新婚期間を設けたリナルドはさすがである。



 館の住人は、アンが増えただけではなかった。

 黒の拠点だった馬屋を、バンの弟が継いで責任者になった事で、アンバーとバンが館に入った。


 アンバーは母さんとも旧知の仲で、私の母親は二人になった。

 アンバーは黒の大陸の北を任されていたリーダーで、南のジョンと息の合うリーダーコンビである。

 館では、母さんとともに、剣の稽古や侍女たちのサポートをしてくれる。


 バンは体術を得意とする戦闘員だが、馬屋で調理をしていたので、調理場を希望すると思ったのだが、調理場の手伝いはするが、畑仕事を望んだ。

 手先が器用で力持ちなので、リチャードは大歓迎のようだった。


 館は私を入れて二十二人になり、これからも、結婚や出産で人が増えると思うと、楽しみである。

 神獣が許可しない人を伴侶に選ぶリーダーも、これからは出てくるだろうが、外で暮らしても、仕事に影響がなければ、問題がないと皆には話している。


 獣神官のそばにいるリーダーが、そのような伴侶を選ぶ事に疑問の声もあがったが、私は人の恋路を邪魔して、馬に蹴られたくはない。




 館の外でも変化があった。

 白の大陸の港にあった倉庫は、そのまま拠点として使用するが、反対側の薬師たちの区域にも転移陣が設けられたのである。


 メンバーの結婚や、これから学園に行く子供たちの事を考えての事だった。

 館には外部の者が入れないので、親や兄弟が会いにきた時の宿泊場所が倉庫という訳にはいかない。


 以前に毒カエルの捜査と偽魔石の事件で、転移陣を当たり前のようにあてにした本部に、ダニエルとリナルドが抗議をして、勝ち取った本部所有の物件である。

 あの二人に抗議をされた本部に、私たちは心から同情して笑ったが。


 薬師たちは、お得意様が決まっているので、自宅兼仕事場に看板等は設置していないため、簡素な住宅街にしか見えないが、その一角にあるやや大きな家を、本部が所有している事は、そこの住民たちは知っている。

 本部の住宅があるから、そこに家を建てた薬師も多いようだ。


 館の別館として陣を置き、来客等の食事は館から届けられるが、もちろん家なので、水周りも完備されている。

 家の維持は、引退した父さんの部下が、住み込んでする事になった。


 館で働く非戦闘員たちが、倉庫の拠点に頻繁に出入りをする事は、人数が増えると目立ち過ぎるという話もあったようだ。

 確かに、女性や子供が倉庫に頻繁に出入りをするのは、目立つだろう。

 しかし、館から雪山を越えて行くか、神殿から行くしか方法がなく、狭い更衣室から出入りする方も、楽ではなかったのである。




 私の一年はこうして過ぎたのだが、館は以前よりかなり楽しく暮らせるようになったと思う。


「ベス様、バンがパイを焼いたから、女の子たち用に持って行って」

「今日はアンバーたちの飲み会なの?」

「エリーたちとね」


 アンバーと母さんは酒豪だと知ったのは、二人が顔を合わせた初日だった。

 バンはつまみを作りながら、ニコニコとそれに付き合い。

 父さんは、黙って付き合いながら、最後は母さんを連れて部屋に戻る。


 放って置いても、問題はないと一度父さんに言ったが、冒険者を続けさせる事ができなかった父さんは、母さんが楽しむ時間を大切にしたいのだと言った。


 ダニエルと私は、ヘンリーによく料理や菓子を持たされる。

 それは、遠出の任務用ではなく、メンバーたちの飲み会や女性たちのお茶会が、いつ行われるか分からないからである。


「クララ、今日は予定がなければ、女子会をする? 母さんたちが飲み会をするみたいで、バンがパイをくれたのよ」

「それは楽しみですね」


 クララが同意を求めるようにローラを見たが、彼女は既に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「私、アリッサさんに声を掛けてきます」


「まあ、ローラったら」

 急いで部屋を出て行ったローラを見て、クララが眉頭を上げて小さく笑った。


 女性八人のうち、偶然だが酒を飲まない、私を含めた四人が独身である。

 私の部屋でする女子会は、神獣たちがいる事も多いが、もちろんそれを嫌がる人はいない。


 神獣たちは、いろいろな飲み会やお茶会に顔を出すが、酒の席に長居はしない。

 ヘンリーの話では、神獣たちは皆が楽しく食べる姿が好きなようで、大きな宴会があると食材を持ってくるらしく、彼にとってはそれが宴会の後の、楽しみになっているようだ。



 夜になり、私の部屋のテーブルには、パイを中心に様々な菓子が並び、茶のセットを乗せたワゴンと、それぞれの好みの果実水も置かれた。

 クララは今夜が当番のようで、侍女服のままだが、ローラとアリッサは私服姿である。


 私用の当番は必要がないと言ったが、館全体の当番と、私用の当番はリナルドが譲ってはくれなかった。

 神獣がいない日もあれば、陣がある以上、安全は約束されていないと言われれば、返す言葉が見当たらない。

 確かにリーダーが夜間に、高熱を出して、アムが治療した事もあったのだ。


 女子会はいつもの仕事の話から始まり、実家や家族の話になる事もあれば、食べ物の話になる事もあるが、最後は恋愛の話になる事が多い。


「アリッサはどうなの? 恋人はいないの?」

 ローラは、焼き菓子を一口大に割りながら言った。


「恋愛はしたいけれど、結婚が前提になる年だから、その気にはならないわ」

 アリッサはそう言うと、つまらなさそうに、空になったカップを見つめた。


「どうして? 美人さんなのにもったいないわ」

 ローラはそう言ったが、アリッサには身寄りがない事も、過去に憑依された経験がある事も、既に聞かされている。


「アリッサの良さを理解してくれる人が、きっといると思うわ」

 クララはお茶を入れ直しながら言った。


「憑依体質だなんて、言えないわ。気持ちが悪いでしょう? 諦めているのよ」

 アリッサはそう言って、寂しそうな笑みを浮かべた。


「本部でひどい目に遭ったけど、あれが普通だとは思わないよ。アリッサには私もルベたちもいるんだから、そんなものを近付けさせる訳がない。結婚して外で暮らす事になったとしても、何かがあったら、私たちが飛んで行くわ」


 思わず熱くなった私を、ベッドで寝ていたルベとカラが、首だけ起こしてこちらを見てから再び丸くなって眠った。

 ローラの膝にいたアムが、アリッサをいたわるようにその膝に移動した。


「ありがとうございます。打ち明ける事ができる人に、いつか出会えたら、よろしくお願いしますね」

「うん。任せておいて」

 アリッサと私は、そう言って笑顔を交わした。


「そんなローラはどうなの? 意中の方はいるのかしら?」

 クララがからかうように言った。


「貴族の侍女をクビになった日に、教会本部関係者の家に雇ってもらえたと報告がてら、母と義姉の服でも買って欲しいと、次兄に手紙を出したんですよぉ。そうしたら、干し肉は若いうちに食えって手紙と一緒に、お金が戻ってきたんです。全く意味が分かりません」

 口を尖らせるローラを見て、クララが優しく笑った。


「昔話よ。肉が大好きな働き者の男が、いつか山のような肉が食べたいと、遊びにも行かずにひたすら働いて、干し肉を買いだめしたのよ。年をとって、ようやく肉を食べようとしたけれど、すでに歯もなく食べる事ができなかったというお話でね。若いうちにしか、楽しめない事もあるというお話よ」


 クララの話にローラはうなずいているが、アリとキリギリスとは逆の話だと思うと、どちらも大きなお世話だと思うが。


「ローラは良いお兄様がいるのね。お金に少しでも余裕があるのなら、自分の楽しみのために使えと言っているのね。侍女は厳しい家で働くと、かなりつらいと言われているから」

「次兄は無口で地味な人なんですが、とにかく働き者なんです。まさか、そんな話を私にするなんて、信じられませんよ」


 アリッサの話にそう言ったローラは、本当に分かっていないのだろうか。


「一番上のお兄さんの事で、なんの非もないのに仕事を追われ、実家にも戻れなかった妹に、お兄さんは心を痛めていたのでしょう。自分たちの事より、ローラが少しでも元気になって欲しいと思ったのよ、きっと。良い家族ね」


 私の言葉にローラは、笑顔でうなずいた。


「はい。一度、元気に戻って、すごく楽しい仕事場でとても幸せにしていると、言ってこなければなりませんね。これは」



「それで、次はクララね。恋人はどうなの?」

「いえ……。あ、あのぉ、おりません」


 私は気軽に聞いただけだが、うつむいて赤くなったクララを見て、こちらが困ってしまった。

 いるのか……。ってか、誰だ?!


「ベス様は、気付かないのですか?」

 アリッサは呆れたように、私を見た。


「館の中で、知らないのはベス様だけだと思いますよ?」

 ローラはそう言って、菓子を口に入れた。


「そんな! 私が勝手に想いを寄せているだけですから!」


 クララが赤くなって、涙目で全否定……。


「私のクララの想いにも、気が付かないような唐変木は、剣の(さび)にでもしてやる! 無礼者め、ありがたく想いを頂け!」


「ベス様。クララの想いにも気が付かないのは、同罪だと思いますよ?」


 アリッサ、あなたは正しい……。


 気が付いてあげられず、ごめんねクララ。


 それにしても相手は誰だろう? 気になる……。








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