表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第五章 ラベーナ世界の色
141/185

終結からの始まり

 ダニエルはジョンやアンバーと、お客様を丁重にもてなしたようで、彼らは引き渡される兵士たちの到着を、涙を流さんばかりに喜んだと隊員が教えてくれた。

 大きな傷も、治れば無傷になる。

 恐ろしい話だが、無傷の人が傷を負っていないとは限らないのである。



「それにしても、風の断罪者の頭であるフンピシが、かつて赤の大陸で、騎士団に所属していた騎士だったとは、驚きでしたね」

「騎士だったのぉ?!」

 ダニエルの話が、信じられなくて聞き直した。


「彼は魔物の襲撃にあった村の救済に出向いている時、両親と妻と二人の息子がいる自分の村も襲撃に遭ったらしいぜ。その無残な光景を見て、騎士団を退団したと言っていたな」


 ジョンは少し気の毒そうな顔をして言った。

 自分の家族すら守れなかった絶望は、彼の生きる気力すら奪ったのだろうか。

 彼の友人ですらない私が、当時の彼の心情を想像で語ってはいけないが。


 フンピシはそんな時、風の断罪者を率いていた、先代の頭と出会ったようだ。

 “犯さず、殺さず、貧しい者からは奪わず”

 そんな先代の仕事の仕方に惹かれて盗賊団に入り、頭を任されたという。


 フンピシは稼ぎの一部を、施設などに無言で寄付をしていたようだ。

 盗んだ金でも金は金だが、人様の稼いだ金の使い道を勝手に決めるのは、どうなのだろう。

 義賊を真似るなら、そこは一部ではなく全額だと思うが、ケチなのだろうか。


 ある日、フンピシは施設の片隅で、一人で遊んでいるトレバーと出会った。

 亡くなった息子たちを思わせる容姿を持った彼に、フンピシは行商人の振りをして近づいたのだという。

 無論、トレバーに接触したところで、少しの得があるわけでもないが、フンピシにとっては、心の落ち着く時間だったようだ。


「トレバーが、フンピシに心を許して見せてくれたのが、父親の形見である、パラポーの卵だったって訳だ」

 ジョンはそう言って苦笑した。


 私は父親の形見が卵と聞いて、違和感を覚えた。

 卵を形見にするほど、両親は一人息子に何も残さなかったのだろうか。

 それとも、残す暇がなかったのだろうか。


 四歳の時に父親と作ったオモチャの卵に、教室で覚えたばかりの魔法を、入れる事ができると、少年は面白そうにその秘密をフンピシに教えたらしい。

 感心するフンピシに、内緒でもらった菓子のお礼として、トレバーがオモチャの一つをくれたようである。

 自分の子供に似ているのなら、子供の善意で悪巧みをするなよ……。


 フンピシはその卵の作り方を、長い時間をかけて、警戒されないようにゆっくりと聞き出したらしい。

 トレバーが就職してから、偶然を装って顔を見に行ってはいたが、挨拶を交わす以外の行動は取らず、いつでも手を差し伸べてやれる距離を保っていたと言う。



 フンピシと幹部たちが捕まった事により、風の断罪者は一斉に逮捕され、最後はのんびりと船で戻った者たちも、証拠品とともに連れていかれた。


 盗賊団の人数は多く、そのほとんどが抵抗する間もなく捕まった事で、裁判が早くに始まるらしい。

 盗賊である以上、なった経緯は考慮される事はない。

 彼らに同情はしないが、極刑に処されるのは、見せしめ以外の何ものでもないと、私には思えてならなかった。


 モンドー商会のトレバーは、取り調べを受けたが、すぐに帰宅を許された。

 彼は行商人の名前も知らず、四歳の時の記憶は曖昧なので、父親の作業を見ていたとしても、作り方を教えるのは不可能だと言ったようだ。


 その知恵を付けた人は、私の目の前で優雅にお茶を飲んでいる。

「私は真実を言うようにと、伝えただけです。フンピシの最後の願いを、聞いてあげた訳ではありません」


 ダニエルは皆の呆れた視線を浴びながら、表情の一つも変えない。

 ここで、ほほ笑みを浮かべたら、逆に怖いが。

 六区の拠点では、偽造魔石の事件と、パラポーの卵の事件が一気に終結した事で、皆の表情は明るいが、私は終わったとは思っていない。



 ダニエルたちがフンピシを忙しく探している間に、私はトレバーを調べたいと言ったのだが、誰からも許可はもらえなかった。

 私の仕事は、おとなしくしている事らしいが、それが一番難しい仕事である。

 ジョンといつも行動をともにしている隊員たちが、そんな私のために力を貸してくれた。



 トレバーが身を寄せていた、三区の施設長が彼の潔白を信じて、私たちに情報を提供してくれたようである。

 私はトレバーが、魔石の偽造に関与していようが、いまいが、気になる事があり、彼の身元を洗い直して欲しいと隊員たちに頼んだ。


 トレバーの父親ライリーは馬車の事故で亡くなったようで、それを知らせにきたライリーの兄に、母親のシェリーとともに除籍をされたあげく、着の身着のままで住んでいた家からも、放り出されたようだ。

 幼い子供が持ち出した、父の思い出の品が卵だったのだろう。


 四歳であったトレバーには大人の事情など、知る由もないが、ライリーの家族とはその時が初対面だったらしい。

 ライリーとシェリーは、彼の実家と疎遠だったのだろうか。


「ライリーの実家は、すぐに分かりましたよ。昔から一区では有名な薬師の一族ですね。ペリーの薬屋と言って、知らない者は黒の大陸にはいないでしょう。ただ、彼は愛人の子供で、不幸にも頭のできが良かったため、認知はされています」


「それは不幸ね……」

 愛人の子供に罪はないが、本妻との間に波風が立つだろうと想像はできる。


「現在のペリー家には、薬師の資格を持つ者がいません。薬師を雇って商売をしているようです」

 薬師がいなければ、この世界で薬屋はできない。


「彼はペリー家の薬師をしていたの?」

「いいえ、ライリーは第一学園の教授の助手をしていました。彼の父親が亡くなった時、その愛人だった母親は手切れ金として、住んでいる屋敷をもらったようです。彼女は既に他界しています。屋敷の名義は事故のすぐ後で、ライリーの兄に変更されています」


 馬車の事故ではその後、魔物に襲われる事もあり、身元を証明する物や証言する者がいない場合、五年の保留期間を経て、死亡扱いになるらしいが、事故のすぐ後という事は、追い出されたシェリーが名義変更をした事になる。


 トレバーとシェリーは、追い立てられるように一区から三区へ移り住み、その日暮らしもままならない状況で、シェリーは必死にトレバーを育てたようだが、倒れて意識が戻らないまま、彼女は息子を残してこの世を去ったようである。

 トレバーを引き取る親戚はなく、彼は自ら施設の戸を叩いたらしい。


 両親の事をあまり話したがらないトレバーだったが、施設長は鮮明に覚えている話を、隊員たちに教えてくれたと言う。

 それはトレバーが、シェリーからいつも聞かされていた言葉らしい。


“お父様はね、私たちをとても愛してくれたのよ。だから、泣くのはよしましょう。優しいあの人が、心配しなくても良いように”


 そんな話を聞かされて育った少年は、母を亡くした時に、泣けたのだろうか。

 七歳の彼が、亡くなった親に、心配を掛けたくないという理由で、自ら施設に身を寄せたのだとしたら、なんと悲しい事だろう。

 亡くなった親の言いつけを、律儀に守るような子供の涙ぐらいは、本人の好きにさせて欲しいと思う。


 人様のお家事情に、首を突っ込みたくはないが、お人好しそうなトレバーの母親は、欺されていたのではないかと気になった。

 トレバーが泣かずにいたとして、彼の両親はそれを見て安心しているだろうか。


「トレバーの父親が亡くなった馬車の事故を調べてくれる? トレバーが奪われたのは、家名じゃなくてお金よ、きっと。家の名義変更をした人は、誰かしらね。盗賊が重罪なら、同じ事をした人も、当然、重罪なんでしょうね」


「ダニエル様と同じ顔をしたよな?」

「ダニエル様が育てたからだろう?」

「黙ってさえ居ればなあ……」


 彼らは私と視線が合うと、慌てて拠点から飛び出して行った。

 褒め言葉ではなかったようだ……。



 隊員たちは、転移と魔導具のトリを使い、すぐに情報を集めてくれた。

 十年前とその前後の年には、馬車の事故で行方不明になった者はいないどころか、ライリーの名前すら記録に残っていないらしい。

 そして、ペリー家はその年に、事業の拡大をしていた。


「ダニエル、第一学園の学園長に面談を申し入れてください。十年前の事件について、お聞きしたい事があります」

「ベス様、その事件が帰らずの洞窟の全壊を言っているのでしたら、合同研究と聞いていますから、第二学園の学長も一緒の方が良いでしょう。私も興味がありますから、ご一緒いたします」


 ダニエルが私を見て、優しい笑みを浮かべた。

 その笑みに、私も笑顔を返した。


『ダニエル、間違えたら、教えてね』

『ええ、私はそのためにいるのですよ』

『我はベスを守るためにある』


 ルベがカバンのままで、そう言った。


『ルベ、寝ているのかと思っていたよ』

『目を閉じて、思考を休ませていただけだ』


 誰に対しての意地なのだろう。


 ルベは寝ていたと言いたくないらしい……。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ