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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第四章 白の大陸
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大神官執務室にて

「ダニエル、なぜ私のかわいい娘が、こんなにボロボロなのだ?」

「兄上の娘では、ありません」


 今日は獣神官の武器を作った後に、大神官執務室を訪ねる予定だった。

 私は大神官様の所に、訪問する姿ではないと言ったのだが、ダニエルが着替えない方が良いと言ったのである。


「かわいそうに、こんなボロを着せられて、おや、ケガをしたのか? ダニエル、お前が付いていながら、ケガまでさせたのか?」

「だから、獣神官の杖を作りに行った後で、寄ると言ったでしょう? あの部屋に私は入れませんからね」

 顔色も変えずに、お茶をだしている補佐のニコール様はさすがだ。


 ダニエルが、私があの部屋で体験した話をしたら、二人は驚いた様だった。

 かつて学園にも通っていない未成年者が、大神官や獣神官になった事はないので、今回の事は、記録に残しておくらしい。

 私にとっては、黒歴史以外の何物でもないのだが……。


「ああ、私が付き添えば良かった」

「大神官のあなただって、入る事はできません。それより、ベス様の服をだしてください」


 なぜ、ここに私の服があるのだろう。

 ダニエルが知っているのだから、預けておいてくれたのだろうか。

 それはそれで、おかしな話ではあるが。


「知っていたのか」

「こちらも制服や式服で、それなりの人物と接触が多いですからね。ニコールも困るでしょうから、自重してください」


 なるほど、ニコール様がダニエルに頼んだようだ。

 そこまで父親に固執しなくても、大神官様とは仲良くやれると思う。

 暑苦しそうなので、口にはださないが。


「私は娘の喜ぶ顔が見たいだけだ」

「ベス様は就任式の後、生まれて初めて夜会に出ます。ドレスが決まり次第、装飾品をお願いしますよ。デビューですから奮発してくださいね」

「分かった。任せろ」


 ダニエルの言葉で大神官様の表情が、驚くほど変わった。

 この兄弟の愛情は、どこか(いびつ)だと思う。

 ニコール様の事だから、兄の扱いが上手なダニエルを、利用したのだろう。

 補佐の二人が手を組めば、解決しない問題などないような気がする。


「エリザベス様、こちらにどうぞ」

 ニコール様に連れられて、執務室の隣にある部屋に入った。

「この部屋は?」


「本来は、侍女などが待機する部屋なのですが、大神官は住まいにも侍女は置きませんからね」

 いろいろと面倒な事があったのだろうと、勝手に推測して、詳しい事は聞かないことにした。


 ニコール様がクローゼットを開けて、困った顔で私を見た。

「この部屋にある服を全て、持って行ってはもらえないでしょうか? 処分もできずに、困っているのです」

 そう言いながら、もう一つのクローゼットも開けた。


 クローゼットに並んでいる、フリフリの服を見て、私は小さなため息をついた。

「大神官様が着ればいいのにね」

「えっ? エリザベス様?」

 自分で着るなら、止めはしないが……。


 大神官様は、かわいい物が好きだと聞いていたが、これでは多過ぎる。

 いかつい顔で、体の大きな大神官様が、フリフリのドレスを着ている姿を想像して、思わず震えた。

 ニコール様が眉間にしわを寄せているので、彼もきっと想像したのだろう。


「せっかくですが、私はズボンが好きで、スカートはめったに身に着けないのです。手直しをしたり、友人に差し上げたりしても良いでしょうか? それでしたら、ありがたくいただきますが」

「差し上げた物は、どのように使われても結構ですよ」


 ニコール様の許可を頂いたので、着替えて、残りの服はしまう事にした。

 大神官様には申し訳ないので、数枚は面接の時に着ようとは思っている、


 クララの仕事は増えるだろうが、クララやアガタやアリッサと皆で分けたり、直したりするのも楽しいだろう。

 女の子は、おやつとおしゃれを養分にして、きれいな花を咲かせるのだ。


 私は比較的地味なワンピースに着替えて、執務室に戻った。

「洋服を頂きました。ありがとうございます」

「ああ、何を着ても愛らしい」

「体は一つですからね。ベス様の好みもありますから、洋服はいりませんよ」

「分かっている」


 大神官様はダニエルの話を適当に流して、自分の椅子の横を小さくたたいた。

 他に座るところもあったが、私はあえてそこに腰掛けた。

 悪意のない大神官様と、二人の視線の間に、私がいる事でクッションになれば良いと思ったのである。


「獣神官は、四神獣がお認めになった方であることは、小さな子供でも知っています。そしてようやく、その地位にお就きになる方が現れた。就任式は世界中の注目を浴びるでしょう」


 ニコール様は大層に言うが、世界中の人が自分の目で見る訳ではない。

 全ては語り手の主観が入る世界なのである。

 万人に好かれようとは思わないが、それを厄介だとは思う。


「歴代の獣神官は魔法を披露するのだが、ベスはもう考えておるのか?」

 大神官様に言われて、私は首を横に振った。

「記録を見せてもらったのですが、意味が分からなかったのです。ルベに聞いたら、光魔法の浄化を披露していたみたいですが」


「上級魔法の、時、光、闇、空間の中で、目視できるのが、光だからだろう。あの魔法は見ている者の気持ちも厳かにするからな」

 大神官様はそう言うが、私は浄化の魔法を見た事はないのである。

 使った事はあるのだが……。


「部隊地区の格闘場を式典に使います。そこに光の柱が数本も立つのですから、楽しみにしている者も多いでしょう。浄化の魔法を使える者でも柱となれば、一本立てるのも大変です」

 いやいや、柱ですよね? 何本も見せられて、喜ぶ人がいるとも思えない。

 第一、魔力を見せびらかすようで、悪趣味だと思うのは私だけだろうか。


「大神官様の就任式ではしないのですか?」

 私は横に座る大神官様を見た。

「大神官の就任式は、神が大神官に空から祝福の光をくださるのだ」

 幼い子供に話すように、大神官様は私の顔を見た。


「ずるいです。随分と楽ですよね?」

「何があるか分かりませんから、大神官は大量の魔力を使う訳にはいきません」

 私の言葉に、ニコール様が真顔で言った。


「獣神官は、四神獣様たちが守っていますからね」

 ダニエルは穏やかな顔で、そう言った。

 やはり私の補佐は、ダニエルでなければ務まらないと思った。


「私は柱の披露はしませんよ。だって、つまらないでしょう? 挨拶を兼ねて別の物を披露します」

「それは、どのような物でしょう?」

「秘密です。当日のお楽しみです」


 ニコール様は心配性のようである。

 ダニエル様は、私の浄化魔法という名のイルミネーションを見ているので、楽しそうに目を細めた。


「かわいい娘の晴れ姿だ。私も楽しみにしていよう」

 大神官様の視線に合わせて、私は思いきり口角を上げて見せた。

「はい。失望はさせませんよ」




 大神官執務室をでて、獣神官執務室に移動した。

『随分と自信があるようだが、大丈夫か?』

「だって、私の武器は獣王と妖精女王の力があるでしょう?」


『まあ、柱なら無限にだせるだろうがな』

「それはまた、随分とまぶしそうですね」

 ダニエルはそう言って笑った。


「うんうん。私もそう思ったの。第一それじゃあ、力自慢で嫌みだと思うわ。だったら、会場にいる人に楽しんでもらいたいと思ったのよ。ルベ、四神獣は私に協力してくれるかなぁ?」


『面白い事なら、喜ぶだろう。我らは退屈な時を、長く生きているからな』

 ルベ……。話が少し重たい。

「就任式、少し楽しみになってきたかも!」

「私も楽しみですよ。ベス様の浄化は格別に美しいですからね」



 私たちは、獣神官の館に帰ってきた。

 ダニエルは出迎えたリナルドと、早速仕事の話があるようだ。

 私はクララの顔を見て、小さく息を吐いた。


「ベス様、お帰りなさいませ」

「クララ、ちょっと部屋に行こう」


 私は今日の朝、着せてもらった服をだした。

「これは! おけがをされたのですね?!」

「ダニエルが治療してくれたから、傷跡もないの。でも服がこんな状態になってしまって、ごめんなさい」


「いいえ。ベス様のご無事が一番大事です。第一この館では、服はすぐに元通りになりますから」

「えっ? どういう事?」


「ベス様はご存じありませんでしたか? 館で働くシンシたちは、掃除と洗濯をしますが、その洗濯に石けんも水も使わないのです」

 クララの言っている意味が、私には分からなかった。

 洗濯の魔法があるならば、ダニエルが使っているはずである。


「シンシの洗濯はどんな物も、新品に戻してしまうのです」

「ええっ?!」

「ただし、形をとどめている物に限るみたいですよ。ジョンが魔物に切り裂かれたチョッキをだしたら、きれいなボタンと布になったようです」

 クララはそう言って、楽しそうに笑った。


 神様は何を考えているのだろう。

 シンシがいとも簡単に、時の魔法を使っていて良いのだろうか。

 どこぞの神官や主神官に知られたら、どんな嫉妬の目を向けられるのだろうと、考えただけでも恐ろしい。


 館の記録が、公に残されていないのは、四神獣の問題ではなく、シンシの存在なのではないかと思った。

 試練の記憶がない私は、神様に会ったかどうかも分からないが、少し変わっている思考回路だと思えてならない。



 次の日は、クララがアガタやアリッサを連れてきた。

 アガタがヘンリーの手作りのお菓子を持ってきて、クララがダニエルからもらった茶葉でお茶をいれてくれた。


 洋服はかなり良い布を使っているらしく、デザインやサイズを変えて、それぞれが好みの服を着る事ができるようだ。

 調理場で働くアガタが、私のズボンが気に入ったようで、クララに作り方を習うようである。

 ちなみに、私は洋裁が苦手なので、話を聞きながらお菓子を食べていた。


 お姉さん方の女子会に、未成年者が参加した…… みたいな?








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