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奇妙なカバンが守ると言ったから  作者: 天色白磁
第四章 白の大陸
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ウーゴの罪と罰

「ウーゴと先約があるのは私よ。食事が終わるのを、待っていたんだから」

 自分でも驚いたが、出てしまった言葉を、戻す事はできない。


「君は誰だい? 見た事がないけど、誰か知っているかい?」

 ボスが仲間に聞くが、当然、誰もが首を横に振った。

「ウーゴも隅におけないな。こんなかわいい子と食堂でねえ」

 三人目の男子が、私のそばに来て見つめた。


「よせ! 彼女は関係がない人だ。僕は彼女を知らない」

 ウーゴはそう言ったが、そんな言葉で納得する不良はいない。

 不良じゃなくても、怪しむだろうと思うが。


「あら。女の子をかばう男らしさがあったのね? 私が誘っても、見向きもしなかったのは、こんな女がいたから?」

 今まで、口を閉ざしていた少し見栄えのする女子が、私を見て鼻で笑ったが、振られた理由は想像が付く。


「ウーゴ君は、私たちの言いつけを守らないからねえ。今回は彼女と一緒に、教育をしてあげよう。いつもの所に連れて行くよ」

 ボスの言葉で、ウーゴは男子に連れられ、私は女子三人に立たされた。


「君! 逃げるんだ!」

 ウーゴはそう言うが、逃げたらあなたは、誰が助けるの?


「私、あなたたちに付いていくけど、学生ではないから、食事をした後は名前を書かないと、食い逃げで追いかけられるわよ?」


「そうなの? 早くしてね。私たちから逃げたら、ただでは済まないわよ」

 ウーゴに振られた女子が、猫のような目で、私をにらみつけて言ったが、魔物に比べたら、凄みが足りない。


 私は、外部者用食券売り場で、サインをしてから、彼女たちの所に戻った。



 連れて行かれた場所は、魔法学部の実技場の裏だった。

 前世で、体育館裏に呼び出された経験はなかったが、まさか、この世界で経験するとは思わなかった。

 不謹慎なので、笑いはしないが、これは面白い。


「ウーゴはいつもここで、あなたたちの教育を、受けさせられていたの?」

「そうよ。実技場の周りは、音が漏れないのよ。助けを呼んでも無駄なの」

「彼は、一年生の後期から、試験の度に教育されているわ。最初は友達も一緒だったのよ。でも、その子はウーゴ君から離れる約束で、許されたのよ」


 私の質問に彼女たちは、親切に答えてくれたところを見ると、この状況には慣れているのだろう。


「治癒の魔法を使える先輩は、卒業されてしまったねえ、ウーゴ君。さて、今年は誰が君の傷を治してくれるんだろうね?」

「寮は俺と同じだろう? 医務室には行かせない。見張っているからな」

「今日は二人だ。どっちからやる?」

 ボスもその手下の男子も、その顔に薄ら笑いを浮かべている。


「ねえ。この女は私にやらせてくれない?」

 彼女を振ったウーゴは、正しい選択をしたと思った。

 さて、私は反撃をしても良いのだろうか。


 私は、カバンの中から剣を出して、ウーゴの前に立った。

 やられるつもりは、初めからない。

 そろそろ、終わらせないと、夕方の畑仕事が待っているのだ。


「悪いけど、私は強いわよ。けがをしたくないなら、向かってこない事ね」


「おや、ウーゴ君の彼女は、分かっていないようだね。私たちの力を見せてやりなさい」

 ボスがそう言った時だった。


「そこまでだ! 彼女は君たちが束になっても、かなう相手ではない。私たちが止めに入った事に感謝をするんだな」

 警備兵が現れた。

 食堂でメモを書いたが、短時間でよくこれだけの人数を集めたものだ。


 六人は拘束されて、連れて行かれた。


「彼らの事は、こちらに任せていただけないでしょうか?」

「もちろんお任せしますが、ウーゴがこの先、勉強の邪魔をされたり、危害を加えられたりする事がないように、お願いします」

「上には必ず、伝えます」


 ウーゴは事情説明のために、警備兵に連れて行かれた。


「心配をかけて、ごめんなさい。ありがとう」

 私は振り返って、姿のない護衛さんに言った。



「おかえりなさいませ」

 学園長の屋敷の門番に迎えられて、私はそのまま畑の奥にある、小屋に入って作業着に着替えた。


 歩く時ですら邪魔になっていた前掛けが、動きやすい物になり、手の指が楽に動かせる手袋がある。

 私は次々と片づく作業が楽しくて、日が暮れるまで夢中で畑仕事をしていた。



 手元が暗くなってから、お風呂に入って、小屋に戻るとヨハン様が、椅子に座って待っていた。

 もちろん、この小屋には、机代わりの木箱が一つあるだけで、テーブルと椅子などは置いていない。

 どこから運んだのだろう。


「いらっしゃいませ。お待たせしましたか?」

「いや、明かりが漏れていたから、入浴中なのは知っていた」

「お茶をいれますね」

 ダニエル様から茶葉を譲ってもらって、良かったと思う。

 ヨハン様は、貴族出身者なのだから。


「うん。ダニエル好みの茶だね」

「はい」

 茶葉をくれたのも、入れ方を教えてくれたのも、ダニエル様である。

 ちなみに母さんは、色が出なくなるまで飲むので、参考にはならない。


「ベス。あなたは問題を起こさなければ、病になる体質なのかい?」

「問題は起こしていないかと……」

 ヨハン様に顔をのぞき込まれると、返事は消え入りそうになる。


 どれの事だろう。今日一日で、私はいろいろとやらかしている自覚はある。

 それにしても、今日の事がそんなに早く露見するだろか。

 謝っても、別の件ならば二度、怒られる。

 ここは慎重に発言しなければ、墓穴を掘る事になるだろう。


「かなり、挙動不審ですよ? 私が何に対して、注意をしているのかが、分からないようですから、教えてあげますよ。全部です」

「へ?」

「女の子なのですから、せめてその、間抜け面を何とかしなさい」

「はい……」


 怒られる前に、怒られている気がする。

 助走で疲れ果て、跳び箱に腹を打ち付けた気分である。

 いや、これは。予防接種の前にアルコール綿で腕を拭かれ、緊張し過ぎて注射を打つ時には、気持ちが悪くなっている、あの状況により近いかもしれない。


「聞いていますか?」

 聞いていなかったとは、言えない……。


 ヨハン様の口の中には、バラが咲き乱れているに違いない。

 そう思わせる程の、トゲや毒を吐きながら、丁寧に説明してくれるのだから、彼は憎めないが、近寄りがたい。


 私には、学園長の敷地を離れると、教会本部の護衛が付くのだと、ヨハン様は言った。

 屋敷の門番は、本部の警備部から派遣されているのは初耳である。

 学園から出る時は、前もって門番に言っておくと、彼らは助かるのだそうだ。


 業務連絡だろうか……。


 おまけに、港には一人で行ってはいけないらしい。

 護衛がそばに付くのだと言う。それが防犯になるのだと。

 それなら、前もって教えておいて欲しいと思うが、ヨハン様には言えない。


 ウーゴの方は深刻だったようで、彼を治療していた施設の先輩は、かなり教師に訴えていたようだが、その教師はそれを上に報告する事がなかったようだ。

 そんな教師は、どこにでもいるので、あまり驚きはしないが。


 ウーゴは人の血液にトラウマがあり、魔力も高く成績も優秀だが、入学当初から文官科への希望書を提出していたようだ。

 人を傷付ける事ができない彼は、文官科を選んだが、それは公にはできない事だったのである。


 なるほど、ケンカをしたくないのは分かるが、だからといって、やられっ放しで良いという理由にはならないと思う。


「ウーゴはね。小さい頃はかなり短気で、けんかっ早い子供だったようだ。ある日ウーゴは父親が仕えている貴族の長男に、大けがを負わせたようで、彼の目の前で両親は切り捨てられたと、教会からの資料には書いてあったよ」


「ひどい、ウーゴは? どうして助かったの?」

「遺体を処理しに行った神官が、血の海の中で、母親に守られて意識を失っていたウーゴを、遺体として連れ出したのさ」

「それで、養護施設なのですね」


「そう。それも隣国の施設で、捨て子として登録された。だから、あの子は貴族に逆らわない。身元を探られるのを恐れているのさ。十年たった今でもね」

「貴族の長男は、それ程のけがだったの?」


「最初は些細なけんかだったのだろうね。魔法を使われて、カッとなったらしい。魔力は高いが使った事がない彼は、魔法の制御が効かずに、その子の両足をね。命は取り留めて、今も生きてはいるが、足は助からなかった」


 新しいお茶を入れて、ヨハン様の顔を見た。

「今回の事で、公に?」

「ウーゴは、神官が付けた名前だよ。本名の彼はもう死んでいるからね」


「ただ、今回の件では、罰を受けてもらうよ」

「え? 罰って何のですか? 彼は何も悪くはないでしょう?」


 そのための証人として、私は人を集めてもらって質問までしたのだ。

 こんな事なら、内緒で痛い目に合わせてやったものを。

 


「通報義務違反ね。悪質な暴力行為は職員に通報しなければ、罰を受けるという校則がある。ここは神官を輩出する白の学園だからね」

「そんな無茶な……」


 チクリを強要する事が正義だと、言わんばかりだが、生徒からすれば、いつ仲間から通報されるか、分からないのである。

 ウーゴの事を知っていたのは、先輩だけではなかっただろう。

 通報が嫌なら、見て見ぬ振りをするしかなかったのだと思う。


「彼が一年生の時に、すぐに通報していたら、あの六人は退学せずに済んだかもしれない。教師が職を追われずに済んだかもしれない。それを三年も続けさせたのは彼だよ。神官科の四人はどちらにせよ、あの成績では卒業できなかった。残りの二人は武術科で、卒業だけはできただろうけどね」


「ウーゴの罰は重いものですか?」


「ベスは人の罪を心配している場合かい? 余裕だねえ? 護衛や警備兵をあれだけ使っておいて。彼らはベスの私兵ではありませんから、有料なのですよ。かといって未成年に金を払えとは言えません。お尻をたたくほどの子供でもありませんから、罰を与えます」


 金か尻で済むなら、そちらでお願いしたい。

 ヨハン様を見つめられ、私は飲みたくもないツバを、ゴクリと飲み込んだ。


「ウーゴには授業が終わってから、ベスの家庭教師をしてもらいます。教室は学園長と魔法の練習をしている部屋です。彼は主席の座を一度も譲った事がありませんから、しっかり勉強をしてください。問題を起こす暇がない位にですよ」


 私にはありがたい罰だが、彼には気の毒だと思った。

 できるだけ、彼が自分の勉強ができるように、考えてあげようと思った。


「これは、友人から頂いたのです。甘いと聞いたので、ベスにあげます。本を読んで疲れた時にお食べなさい」


 ヨハン様は、テーブルに菓子を置いて帰って行った。

 菓子より、この猫足の上品なテーブルと椅子は、もらって良いのだろうか。


 ひどく、土間には合わない代物なのだが……。








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