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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第五十五話 西方都市カブーサト

集落を襲撃してから半月後、私達はようやく目的地に侵入することができた。

イエリス帝国西方都市カブーサト。私達が最初に襲撃した集落から馬車で数日ほどの距離にある帝国の西を統治する都市だ。馬車で数日の距離にあるのにもかかわらず、ここに来るのに半月も費やしてしまったのは、どこかの誰かさんが集落を見つけては襲い、頻繁に寄り道をしてしまったからだ。まったく寄り道をしたがる吸血鬼さんで困ったものだ。


西方都市カブーサトは中央にある大きな城を囲む様に街が広がっており、今なお拡大し続けている街に城壁が追いつかず、城壁の外側にも街が広がっている。

おかげで城壁外にある街への侵入は姿を隠すだけであっさり成功した。


街に侵入した私達は適当な家に押し入り、その場にいた人間を手早く仕留め隷属し今に至る。


「ふぅ、とりあえず一度休憩しましょうか」

「あぁ。わかった」

「うん」

「はぁ、疲れた」


ルナが不可視化の魔法を解くと、姿を現した私達は家にある各々適当なものに腰を下ろした。


「それでどうするんだ?ヤルんだろ?」

「気が早いよクレハ。とりあえず夜になるまではここで待機」

「そうか、夜か。わかった」


クレハはそれだけ言うと口元を引き締め、拳をギュッと握りしめた。


「ねぇアリス、中にはいつ入るのよ」

「そうだね……たぶん五日後かな、たぶんそのころには中に放った私の魔物達が特定してくれるはずかな」

「それじゃ、それまでここで遊んでいればいいのね」

「うん。でも色々引っかかるんだよね……」

「なんで?」


ルナの質問に私は考えこむ様に顎に手を当てた。


私達の今回の目的は、都市に住む高レベルの人間、権力者の討伐である。

今回は都市の人間の駆逐が目的ではない。そのため、まずは標的となる高レベルな人間、権力者の特定をしなければならない。奴らを迅速に狩ることでこの都市を掌握する。そのためには如何に早く目的を完遂するかが重要になる。

まず、第一段階として都市の内部に私の小型の魔物を放ち標的を捜索するのだが、さっそく問題というか予定外のことが起こったのだ。


「都市の守備が穴だらけなの」

「うん?どういうこと?穴だらけなのはいいことじゃないの」


ノアのもっともな意見に私は自身の感じた違和感について語った。


「前に襲った都市を覚えてる?あの都市の城壁には自己修復魔法、壁の上には無数のゴーレム。空には結界魔法まであったのに、この都市の城壁にはそれがないの」

「よかったじゃないの、楽でいいことじゃない」

「そうなんだけど、簡単に侵入できて逆に不安なんだよね。ほら普通ならあるものがないって不気味だし……」

「そういうものかしら?」

「うん?よくわからない」

「お前らさっきから何話してるんだ?」


私が懸念していることをについて、クレハから衝撃の事実が語られた。


「普通の城壁に自己修復に結界魔法なんてあるわけないだろ」

「え?」

「「うん?」」


クレハ以外の三人は不思議そうな顔をしているとクレハは呆れた顔で言った。


「単純に考えて、そんなに魔法かけたら魔力がいくらあっても足らないだろ?」

「えっ?だって前の都市でも普通に——」

「普通じゃないだろ。寧ろこのくらいの城壁が普通だ。魔力だって有限なんだぞ。常時発動する魔法を都市を丸ごと覆うほどの規模で発動するなんて常識的に考えて無理だろ」

「だって、だってノアとルナはそれが常識だって……」


私はチラッとノアとルナに目を向けると、二人はプイっと顔を逸らした。


「おい、ワンコ、ネコ」

「私はそんなこと言ってない」

「さ、さぁ、なんのことかわからないわ」

「私をだましたのかな?」

「嘘なんて言ってない」

「そうよ、私だって嘘は言ってないわ。ただ少し盛ったというか……」

「ルナは無知なアリスにマウント取ってボコボコにしたかっただけ」

「ボコボコなんて、私は少しいじめてあげようかなって……何言わせんのよ!」

「おいネコ、今、本音が漏れたぞ」

「フニャ―!」


私はルナの尻尾をギュッと握ると、悲鳴をあげた。


「ちょっと!いきなり尻尾握らないでよ!」

「私をいじめた罰だよ」

「ざまぁ」

「何笑ってるのノア?貴女も同罪よ」

「う、うそ……って、ミャアー!」

「お前ら何やってんだよ」


私はノアの尻尾を強く握った。ノアもルナと同じ様に悲鳴をあげた。やはり獣人に取って尻尾は共通のウィークポイントらしい。

尻尾を握られた二人はその場でへたりこんでしまった。

その様子にクレハは呆れるでもなく、ただ口をこわばらせ呟くように言った。

普段なら小言の一つや二つ飛んで来そうなものなのだが、今のクレハにはそんな余裕はなかった。


「……お前らここはもう敵地なんだぞ。もう少し緊張感をだな——」

「クレハ、もしかして妬いてる?」

「私達がアリスとイチャイチャしてるのが羨ましいんでしょ?」

「はぁ!俺は別にそんなことは——」

「そう。なら——」

「ええ——」

「ちょっと二人とも——」


へたり込んでいたのもつかの間。

ノアとルナは互いに目配せをすると私に抱き着いてきた。


「もう二人とも、くすぐったいよ」

「な、お前ら!」


ノアとルナは私に頬擦りをするほど顔を寄せ、甘えるように目を細めた。


「お前らいい加減にしろよ。敵地で、い、イチャイチャするな!」

「本音は?」

「……俺を仲間外れにすんな」


ぼっそとクレハが漏らした可愛らしい声を獣人コンビは聞き逃さずクスっと笑った。

笑われたクレハは恥ずかしさからか、頬を若干赤くすると俯いて黙ってしまった。


まったくこの二人は……。わかっててやるんだからもう……。

流石の私もこの状況でノアとルナがクレハをからかっているのは理解している。

一応、初めての人間の都市を襲うのに緊張しているクレハの緊張を解こうとしているのだろうが、こいつ等完全にクレハをからかうことに夢中になっている。


はぁ、まったくこいつ等ときたらすぐ人の弱みに付け込むんだから……。

私はじゃれついてくる二人を引き剥がし、羞恥と緊張でプルプルしているクレハを見ながら言った。


「はいはい、クレハの言う通りここは敵地なんだから、いつまでじゃれないで」

「えーもう少し、いいじゃん」

「そうよ、どうせ夜まではここから出ないんでしょ。ならもう少しくらいいいじゃないの」

「そんなに私とじゃれたいの?あ、そうだ。なら血吸っていいかな。魔法使って私、お腹空いたんだよね」


私は瞳を緋色に染めペロリと唇を潤すと、二人は飛ぶように距離を取った。


「アリスここは敵地。そう言うのはよくない」

「そうよ。ダメよ!絶対ダメ!」

「そう?ならクレハの血をもらおうかな~」

「お、俺か!」


私は流れるような動きで立ち尽くすクレハの首に手を回し、首筋をペロリと舐めた。

顔を赤く染め、目をギュッとつぶるクレハに私は思わず笑みをこぼしてしまう。

吸血によって生じる快楽に身構えるようにするクレハに私は、そっと耳元で囁いた。


「冗談よ」

「えっ?」


私はクレハを開放するとクレハは緊張が解けたようにその場でへたりこんでしまった。


「クレハ、あんまり緊張しなくていいよ。やることはいつもと変わらないんだもん。人間を殺す。ただそれだけ、今回はその標的が多いだけ。だからもっと楽に、いつもと同じ様にしていればいいんだよ」

「そ、そうか。アリス達は俺の緊張を解そうとしてくれていたんだな。礼を言う」

「気にしなくていいよ」

「うん。別にいい。私はアリスとイチャイチャしたかっただけだから」

「エロ犬、それ建て前じゃなくて本音よね。少しは隠そうとしなさいよ」

「嘘つき猫に言われたくない」

「は?嘘つきはノアもでしょ!このお漏らし犬」

「殺す。マゾ猫お前は行ってはいけないことを言った。人間の前にまずお前を血祭にあげる」

「誰がマゾ猫よ!上等よ、表に出なさい!」

「はぁ~。もう喧嘩しないでよ」


喧嘩しようとする二人をなだめる私を傍目にクレハは大きな声で笑った。


「ハハハ。そうだな。何も変わらない。いつも通りだな。緊張することなんてない。いつも通り人間を殺す。ただそれだけのことだよな」

「まぁ命のやり取りだから、多少は緊張して欲しいけどね」

「緊張なんてしない。命のやり取りじゃない。私はただ人間を虐殺するだけ。それ以外はどうでもいい」

「そうね。人間を殺すのに緊張なんてしないわ。恐怖も無ければ恐れもないわ。あるのは怒りと憎悪だけ、奴らを殺せるのなら私は自分の命さえ差し出すわ」

「そうだな。忘れていた。俺はアリスのモノだ。アリスのために刀を振るい、アリスのために殺す。そこに躊躇いも憂いもない。はぁ……よし。アリス改めて誓おう。俺はお前だけのためにこの命を捧げよう」

「あ、はい」

「なんだよ。そんな返事じゃ締まらないだろ」

「だって、みんなの覚悟が思った以上に固くてびっくりで……」

「都市丸ごと一つ焼き尽くした吸血鬼のくせに……それに覚悟を試したのはアリス」

「そうよ。私達は貴方についていくと決めた日からずっとそう思って戦ってきたのよ」

「そう言えば、そんなことあったね」

「はぁー」

「まったくもう……」

「はいはい、それじゃ各自、夜に備えて今のうちに休んでおいてね」

「話逸らした」

「逃げたわね」

「逃げたな」

「う、うるさいよ。ほら解散!」


多々あったもの私達は夜に備え体を休めるのだった。



間をあけてしまって申し訳ございませんでした。


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