第五十二話 私刑
囲郭都市ユーノを滅ぼしてから一月が過ぎた。
私達はようやく国境の山脈を超え、イエリス帝国の国境付近の集落を一つ潰したところだった。
この半月様々なことが起きることはなく、毎日毎日森の中を狼の背に跨りひたすら走り続けていたのだ。
森で強力な魔物に出会うことも無ければ、人間の山賊とも出会うことが叶わなかった。
そのくせ国境の山脈は起伏が激しく、道のりもそれなりにあったため予想以上の日数が経ってしまった。
来る日も来る日も狼の背に揺られ、小さな魔物を狩る日が続いた。
そして、ようやくたどり着いた人間の集落、それを見つけてからの私達の行動を酷く衝動的で計画性が欠けていた。
「はぁ~どんだけみんな殺意高いの?」
私は返り血で顔を濡らした三人の少女達を呆れ半分、怒り半分に言った。
辺りの建物のほとんどは崩れており、およそ原型をとどめておらず。
地面にはあちらこちらで血だまりができ、息絶えた人間達のもとには私の魔物達が群がり隷属化している。
この惨状を作りあげたのはここにいる三人だ。
そう、三人ノア、ルナ、クレハの三人だ。私は誰人殺していないのだ。
こいつら人間の集落を見つけた途端に集落に駆け出し、人間に襲いかかったのだ。
幸い人間達の中に高レベルなはおらず、誰一人逃げることができず、あっさりと人間達は全滅した。
普段であれば、逃げられないように魔道具で結界を張ったり、寝静まった深夜に攻撃して安全かつ確実に殺しているのだが、まったく自制のできない娘達だ。
「うっ……すまない。つい先走ってしまった」
「アリス、クレハも謝ってるから許してあげて」
「そうよ。こうして反省もしているんだから許してあげなさいよ。まぁ派手に壊してたけどね」
大半の集落の建物を破壊したのはクレハだ。
彼女が建物ごと人間を斬り殺したり、吹っ飛ばしたりして壊したのだが別にそんなことで私が起こっているわけではない。
というかこのワン娘とニャン娘はさり気なくクレハに罪を被せようとしているな。
「私が言いたいのそう言うことじゃないんだけど!なんで三人とも集落に向かって突撃しているの!」
「問題ない。全員殺したし、こっちは無傷」
「そうよ。あれくらいの人数ならわざわざ、結界張ったり夜襲しなくても問題ないわ。それとも一人も殺せなくて悔しかったのかしら?」
「……違うし」
「図星」「図星ね」「……」
ノアとルナはニヤニヤしながら私を見つめ、逆にクレハは私と目を合わせないように顔を逸らした。
ふーん。へー。そう言う態度取るんだ~。私が見つけた人間(獲物)を奪ってそういう顔するんだ~。
ノアとルナは確定として、クレハちゃん、私から顔が見えないようにしているつもりなんだろうけどさ、ほほがにやけているの見えるからな。
私の獲物を全部取る悪い娘にはお仕置き必要だよねー。
そうと決まったら即行動、即私刑です。
私は笑顔で三人を見つめ返した、するとノアとルナは何かを察したのかその場から逃げようとした。
まぁ当然逃げることができず、例の如く鎖で縛りあげる。ついでにクレハも縛った。
急に拘束された二人は盛大に転倒し、わけのわからず縛られたクレハは仰天していた。
「ふゃー」
「にゃー」
「な、なんだ急に!」
「あれれ、なんで急に逃げるのかな」
「アリスがそう言うときにする笑顔は碌なことないから!」
「というかなんで鎖で縛るのよ!」
「お、俺は何もしてないぞ!」
私は三人の言い分を無視して距離を詰める。
「三人ともだいぶ返り血で汚れているね。私が綺麗にしてあげるよ」
「いい!」「結構よ!」「えっ!どういうことだ?」
ノアとルナは首を横に激しく振り拒否し、クレハはわけがわからないと言った様子であったが最初から彼女達の意見など求めていない。私刑は既に決定したのだから。
名付けて『全身掃除(スライム洗浄)の刑』だ。
少し前にやったスライム責めは服を溶かしてしまったが、今回の私刑では汚れだけをスライムたちにとってもらう。新調した服を溶かすのはもったいないからね。
まぁその分、多少スライムには激しくしてもらうつもりだが。
私は三人に詰め寄りながら影の中からスライムたちを大量に呼び出した。
森の中で大量に隷属した非力なスライムだが、それを見た二人の顔は恐怖に染まった。
「ア、アリスまさか……」
「嘘よね?ねぇちょっとやめて!」
「な、なんでそんなにスライムを——」
若干一名これから執行される私刑を理解していないものもいるが、関係ない。
罪には罰を私の獲物を全部取った彼女達に制裁を!
「『綺麗にしてあげて』」
「やーーーー!」
「いやぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
私が命令を下すとスライムたちは彼女達に襲いかかった。
三人はスライムに襲われている間に、私は地図を見ながら今後の予定について悪魔達と考えることにした。
「ねぇみんなこの後イエリス帝国の人間を殺そうと思うんだけどさ。いい作戦とかある?」
『お嬢様が殺したいようにすればいいと思う』
『玻璃ノ未来お嬢様が求めているのはそう言った意見ではありませんよ』
『んん?わかんない?』
『ほほほ、お嬢様この虎目ノ計測に策がございます』
「教えて」
『はい。人間の強い個体や支配階級の者を優先して殺すのです。雑兵の相手など時間の浪費、強者を屠り屠った強者に弱者を狩らせればよいのです』
「でも、数の多い人間相手にそれで勝てるの?」
『人間という種族は数よりも質なのですよ。強き個体はそれこそ千の軍隊にも匹敵するです』
「ん?でもそうすると私達の力でその強い奴らを殺さないといけないんでしょ?」
『問題ございません。私達、禁眼は最強なのですから』
自らを最強という言い張る虎目ノ計測の口調は誇張するでもなく、平淡な口調であった。
その傲慢ともいえる発言に私は思わず笑みが零れてしまった。
「ふふふ、そうだね。まぁいざとなったら絶望王からもらった死冠の王もあるんだし」
『お嬢様失礼ながら、死冠の王の使用はできる限り使用をしない方がよろしいかと思います』
「えっなんで?」
『奴、絶望王を名乗る者がお嬢様に与えた力ははっきり申しまして得たいが知れません。私の力でも見通せませんでした。ですから使用は避けていただきたいのです』
「わかったよ。でももしもの時が来たら迷わず使うからね」
『そうならないように最善を尽くします』




