第三十話 作戦変更
衛兵達を殺してから街の人間の隷属化は、加速度的に進んで行った。
この街にいた冒険者達もレベルがそこまで高くはなく、あっさりと殺すことができた。
街の住人の隷属化は七割を超え、儀式魔法に必要な基点となる場所には、私の作った杭が埋められ全ての準備が整いつつあった。
だが、決行間近のとき問題が起きた。
私の魔物達が昨日、貴族の屋敷に侵入することができたのだが、そこで魔物達が見た光景に私は衝撃を受けた。
その時は、丁度昼過ぎであったため私達は、部屋で休息を取っていたのだが——。
魔物から送られてきた映像を見た私は、ドアを壊す勢いで個室から広間の方へ向かった。
勢いよくドアを開けたため、広間に居た二人は、ビクッと驚いた。
「作戦は中止する——」
私は一言二人に告げると二本の刀を腰に差し、真っ黒なローブで身を包み、外へ出ようとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!いきなりどうしたのよ?」
部屋でのんびりと体を休めていたルナは、驚いた様子で声を張り上げた。
「作戦は中止するって言ったの。二人はここで待っていて」
私は、振り向くことすらせずに淡々と告げドアを開け外に出ようとした。
「待って。ちゃんと説明して——」
手を掴みノアは、私を止めようとした。
「離して」
「……嫌、ちゃんと説明して——」
短くも強い言葉に一瞬ノアが怯むも掴んだ手の力をさらに強めた。
「離さない。説明をし——」
「離せよ。私はアイツらを殺しに行くんだよ!殺さないといけないんだ!離せ!離せ——」
ノアは勢いよく手を引き、私を無理矢理振り向かせ——。
『パン』
はじめは何が起きたのかわからなかった。
部屋は、静寂に支配され音は、何一つ聞こえず、頬だけがひどく熱い。
私の頬をノアが叩いたのだ。
「冷静になった?」
「全く……いきなり作戦中止って、落ち着いて私達に話しなさい」
「ごめん。でも早く、早くしないと——」
ギュウとノアが私を抱きしめた。
「話して……私達は、アリスのためなら何でもやるから……お願い、話して」
「……魔族が居た。魔族だけじゃない獣人も何人もあの屋敷の地下に居たの……」
私は魔物達から送られてきた情報をポツリポツリと語っていく。
「地下は……むせ返る様な血の匂いがした……死体……死体がたくさんたくさんあったの。頭がない死体。手足がない死体。炎で焼かれた死体。全身に穴の開いた死体。……このままじゃ、みんな殺される。」
この街にも獣人や魔族達が住んでいる、いや住まわせられている。
彼らの多くは、奴隷としてこの街に住まわせられていた。
私達の目的は、あくまで人間の根絶である。
そのため私達は、できる限り人間以外は殺さないようにしてきた。
この街で奴隷として暮らしてきた彼らは、彼らの主人を殺し、一応全て解放した。
この街には、獣人や魔族達はもういないと思っていた。
私達がやろうとした儀式魔法を使えば、貴族の屋敷は当然のこと街にも多くの被害をもたらすことになる。
もし私達が作戦通り儀式魔法を使えば、屋敷にいる彼らも人間達と同様に殺してしまう。
私は、人間達を殺すことに躊躇いも躊躇もないが、恨みも憎しみもない彼らの命を奪うことはできない。
もし私が彼らの命を奪ってしまえば、私が私でなくなってしまうような気がする。
それに今なお、苦しみ、痛みに堪え、涙を流している彼らを人間から救いたいとそう思った。
だがそれ以上に、魔族や獣人を苦しめている人間が憎くてたまらない。
人間は壊し、攫い、犯し、全てを奪っていく。
けどこれ以上は奪わせない。
少なくとも私の目の届く範囲からは、もう二度と奪わせないと家を出た時に決意した。
全ての奴隷を開放し、苦しんでいる獣人や魔族達を救いたいと傲慢な考えではない。
あくまでも、目的は人間の絶滅。
私は、正義の味方になりたいわけでもない。英雄になりたいわけではない。
私は、ただの復讐に取りつかれた殺人鬼である。
「正義の味方でも英雄になりたいわけではない……私はただの殺人鬼だけど……」
「私は……彼らを助けたい。わがまま言っているのは、わかってる。お願い二人とも力をかして」
二人に私は頭をさげ懇願した。
二人の返事はすぐに返ってきた。
「「わかった」わ」
快諾だった。
貴族の屋敷に乗り込み、貴族を殺しに行くことは死地に赴くのと同意である。
二人はそれを理解した上で快諾した。
「私達が殺すのは人間だけ……だから作戦の変更。直接貴族を殺す」
「まぁ仕方ないわね。アリス、私達も戦えるわ。だからあなたのしたい様にしなさい」
「二人とも……ごめん。ありがとう」
私は二人をぎゅっと抱きしめた。
憤怒に支配された私を止めて、無茶についてきてくれる二人が愛おしくひどく思えた。
言葉にならないくらいの嬉しさが込み上げてきた。
「……むぅ苦しい」
「ア、アリスぅ……はぁはぁ」
ノアは不満を言いながらも頬を緩め、ルナは、なぜかにやけていた。
「ご、ごめん」
私は、二人を開放すると改めて二人に「ありがとう」と言った。
そこからの行動は早かった。
貴族の屋敷の構造を二人と共有し、相手の人数、戦力を話し合った。
そして日が落ち始めた頃、準備が整った。
「それじゃ二人とも行こうか——」




